テクノロジー変化と共に変わるファン心理 / エンタメ放談 with 品田英雄
THECOO株式会社 代表 平良真人 ( @TylerMasato )がエンターテインメント業界の方とエンタメに纏わるアレコレを好き勝手ぶっちゃけトークしていきます。
今回のお相手は、日経BP総研・上席研究員であり、テレビやラジオなどでコメンテーターとしても活躍されている品田英雄さん。
品田英雄(しなだ・ひでお)
日経BP総研・上席研究員
学習院大卒業後ラジオ局に入社し音楽番組の制作に当たる。87年に日経BPに入社。「日経エンタテインメント!」創刊に際し編集長に就任。その後、発行人等を経て現職。デジタルハリウッド大学客員教授。テレビ、ラジオのコメンテーターや講演のお仕事もします。
日経新聞で「ためになるエンタメ」日経MJ「ヒットの現象学」連載中。
著書に「ヒットを読む」(日経文庫)。
エンターテインメント業界 40 年の品田さんと、音楽大好きな平良がエンタメ業界の推移と今のエンタメ業界に対する想いをぶつけ合います。
『 作品主義 』から『 タレント主義 』へと変わって来たエンタメ業界
平良真人(以下 平良):ファンは人に付くのか?それともコンテンツに付くのか?そこにどんな違いがあるのか、それとも僕たちが勝手に「違いがある」と勘違いしているだけなのか。
品田英雄氏(以下 品田氏):平良さんと知り合ってから半年くらいずっと「 エンターテインメントって良いよね 」「 映画や音楽って良いよね 」って話しながら、エンターテインメント業界がもっと面白くなるには「 作品主義か、出演者主義か。もっと言うと、タレント主義なのか? 」という話を繰り返しているわけですが、エンターテインメントの業界が盛り上がるためには、実はその両方とも必要であるとは思うんですよね。
歴史を振り返ってみると、70 年代後半から 80 年代は、スティーヴン・スピルバーグ や ジョージ・ルーカス みたいな監督が世間を驚かす新しい作品を作り、『 STAR WARS 』みたいに有名な俳優がいなくても世界的ヒット作品が生まれたわけです。
平良:確かに!『 STAR WARS 』って有名な人は出ていなかったんですね。
品田氏:そうなんですよ。スピルバーグが「 有名俳優が出演することによって色が付きやすく、作品のリアリティよりも人に引かれてしまう可能性がある 」と話しているように、敢えて無名の役者を選んでいた。ハリソン・フォードは、『 STAR WARS 』に出たことによって有名になった俳優の 1 人で、良い作品に出ることで俳優が有名になり次のステップに上がっていくということもあるんですよね。同じ 70 年代、シルヴェスター・ローンも『 ロッキー 』のヒットで一躍有名になりましたよね。作品に魅了されると共に、シルヴェスター・ローンに魅了される人が増えて、『 ロッキー 』がシリーズ化され、『 ランボー 』のようなキャラクターになっていったんです。
平良:その前のチャップリン映画も作品主義ですよね?
品田氏:多分そうなんですけど、体験していないから分からない。気づいたらチャップリンはレジェンドでした。
音楽の話で言うと、80 年代はアイドル全盛期で、松田聖子ちゃんと田原俊彦さんがデビューして、そこからジャニーズや花の 82 年組と言われるような人気アイドルがどんどん出てきた。聖子ちゃんが凄かったのは、松任谷由実さんや細野晴巨さんなど有名なクリエイターの作品を揃えていて、歌謡曲好きな人も喜んだし、ロック・フォーク・ニューミュージック好きな人も評価したのね。そんな風に、「 クリエイターが新しい時代を作り、その中からスターが出て来て、だんだんその人のファンが増えていく」そういう繰り返しだったわけですよ。そうやって繰り返していくことによって、音楽業界・映画業界が伸びていったからよかったんです。
でも、21 世紀になって、インターネットが普及すると音楽であろうと映像であろうと、みんなが作品をタダで楽しめるようになっちゃった。昔はテレビやラジオに出たとしても、レコードを買ってくれたし、みんな映画館で映画見てくれていたわけで。でも、新しい作品がすぐ無料で聞けたり、見られたりするようになって、なかなか儲からなくなってしまって、レコード会社も芸能プロダクションも焦ったわけですよ。そんな時代の中で、どうお金を稼ぐかを考えた結果、ライブや、握手会などのリアルイベントが増えていった。その人じゃないと出来ないものをどんどん考えていったんですよ。そこで初めて、「 熱烈なマニア 」「 オタク 」と呼ばれる人達が評価されるようになって、昔だったら「 変わった人達 」って言われてしまっていたのに、実は、その人達が 1 番ちゃんとお金を使ってくれる人達なんだと分かったから、その人達に向けたパフォーマンスがどんどん増えていったんですよね。
平良:なるほど!昔は露出できるメディアが限られていて、そこに出られる人はある程度厳選されていた。だからこそ、有能なクリエイターがついて、万全の体制で売りに行っていたわけじゃないですか。限られた機会を最大限に使ってマスに向かってファンに買ってもらうことを目指していた。まさにスターダムですよね。
今は無料だからこそ、逆に言うと、1 億 2 千万人がクリエイターになれる時代で、ニッチな領域も含めて、どれが売れるか分からない。
品田氏:まぁそうですね。予算をかけて、念密なマーケティングやって、良いものを時間かけて作るっていうのに対して、一人一人の力で新しいものを作って、それをお客様が直接マーケットに問いかけようっていうのが今の時代ですよね。
40 年近く業界を見てきて思うのは、バンバン新しい人が出てくるタイミングは確かにあるんですよね。例えば 70 年代はフォークブームがあって、普通の大学生がギター弾いて歌えて、コードは 3 つしか知らないけど自分でメッセージを伝えられるから、誰でもがシンガーソングライターになれるぞって。それが社会運動と繋がったりして。
平良:はい、ロックンローラーしてました(笑)
品田氏:え!本当ですか!平良さんも!!ロックンローラーだったんですね。
平良:恥ずかしい過去が(笑)
品田氏:最初は目新しいし、やっていることが凄い!ってなるけど、やっぱり素人がやることだと、そんなに長く続くムーブメントにはなりづらくてだんだん淘汰されていく。それと同じことが、ネットの普及と同時に起きて、全ての人がクリエイターになって、しかも簡単に作品を発表することが出来る。だから、物凄く沢山の作品が発表されるようになって、結果として良いものだけしか残らなくなってきた。それが 2018 年なのかなって思っていますけどね。
平良:昔はマスに向かってヒットさせて、引退しなければ少しづつピークが来て、その後はマスじゃなくコアファンに向けて活動していく。ディナーショーしたりとか、そういうパターンがほとんどだったわけですよね。米津玄師さんの場合は、逆にニコニコ動画などでコアファンが居たわけです。そこから口コミで広がって、コアファンがマスを作っていった。これは、凄いビジネスモデルの変遷で、作品主義とタレント主義の話しにも繋がるのかなと。前者は「 コンテンツから人にファンがついたパターン 」、後者は「 コアファンからマスにコンテンツが受け入れられたパターン 」ですよね。
上手いか下手かじゃなくて、その人で"在る"ことに価値がある時代
品田氏:平良さんは、作品はあまり好みじゃないけど、人が好きってパターンとかあった?
平良:… アイドル以外はないですね〜。
品田氏:アイドルならあるんだ!
平良:でも僕あまりアイドルにはまらないので(笑)
品田氏:社長!言葉が悪いけど大丈夫ですか(笑)
平良:いや、熱中したことはないだけで。。。。(笑)昔おニャン子クラブは好きだったけど、今もその人が好きかって言われたらそうではないですよね。
品田氏:平良さんと僕の弱点はそこですよね。それこそおニャン子の頃が、「 歌唱力は劣るかもしれないけど魅力的! 」みたいに、アイドルが一般的になった頃だったんですよね。「 うまくなくても好きになるってどういうことだ? 」って、最初はエンターテインメント業界からしたら疑問だったんですよ。
平良:でもそれを作った方々はそう思っていない訳ですよね?言いにくい話になってきましたね。
品田氏:元々のエンターテインメント業界は、渡辺プロダクションの渡辺晋さん達が、アメリカの文化に憧れてポップなものを作ろうとしていたから、最初はすごく作品主義だったと思うんですよね。洋楽のカバーも日本的なポップスも次々と出て来た。作品主義は、分け隔てなく作品が良ければ好きになるんだけど、一方で作品がつまらないとあっという間に引かれてしまう。人の時は、作品が良かったら嬉しいけど、ダメでも応援するという姿勢があって、マネジメントサイドからビジネス的に見ると、長い目で見て収入があるなってなったのかなと。
平良:とはいえ自分で言っていておかしいと思ったんですけど、米津玄師さんってニコニコ動画の時から評価されていた作品があったじゃないですか。だからやはりスタートは作品なんですよね。
品田氏:米津玄師さんは確かにそうですよね。
平良:ですよね。0 → 1 のフェーズは作品で、1 → 10 のフェーズが時代を通して、ビジネスモデルの変化と共に変わって来たという理解になるんですかね。
品田氏:まさに 0 → 1 の時も、上手いかどうかは別にして、熱狂的なファンがつく時代になったことは間違いないかなと。だから地下アイドルとかが沢山出てきたのかなと。昔は「 上手いか下手か 」という物差しが割とはっきりしていて、ダメなものはダメだったけど、今は簡単にテクノロジーで手を加えられるようになったから、うまいかどうかは関係ないじゃんってなった気がする。
平良:品田さんがさっきから「 上手い 」って言葉を使うじゃないですか。そのうまいは「 歌が上手い 」「 演技が上手い 」とか人に依存するものですか?
品田氏:そうですね。音程がどうだとか声量があるかとか、高音が出るか低音が出るかって物差しで測れるものを皆上達しようと頑張っているわけですよね。演技だって、黙っていても伝わるものを演技としてできるみたいなことがエンターテインメントの上達として大切だったんですけど、今は、もうその人の出したままがキュンとするみたいな…。
あれ、恋と一緒?似ているかな??
平良:いや… 似ていないです!いっつも恋愛の話に逸れちゃうからね( 笑 )。
表現が”見える”時代だからこそ、その人"らしさ”が作品になる
平良:自分で言っておきながらなんなんですけど、対立軸じゃなかったんだなって気付きました。今日話してみて。対立関係があるんじゃなくて相関関係があるってことなんですね。
品田氏:なるほど。それぞれのメリットとデメリットを整理してみたら良いような気がしてきた。作品主義とタレント主義それぞれのメリットってなんでしょうね?タレント主義からいきましょうか。
平良:タレント主義のメリットは、作品に依存しないって事ですよね。その人が何やってもファンである。
品田氏:そうですよね、作品に頼らなくても喜んでくれるし、例えば、万全の状態じゃないタイミングでライブをやっても「頑張ったね!」って言ってもらえる。
平良:何をやっても良く見えるんだと思うんですよね。
品田氏:何をやっても?
平良:公序良俗に反しない限り。
品田氏:犯罪を犯しても( ファンにとっては )許してしまう場合ありますもんね。
平良:根強いファンがいますよね。
平良:一方で作品主義は、逆に言うと誰がやっても良いんですよね。クラシックとかそうですよね。指揮者が変わるとガラッと変わるじゃないですか、その差が良かったりするわけで。ジャズも名曲があるとみんなカバーしたり。
品田氏:なるほど!それって作品主義なんだ。
平良:僕はそう思ってました。例えば、レディオヘッドがザ・スミスのカバーををやっていて、元の作品が好きだから余計にレディオヘッドのカバーが好きなんですよ。他にも『 木綿のハンカチーフ 』は、椎名林檎さんが歌っているのを聞いて好きになったり。
品田氏:じゃあ、カバーは作品主義に入るんだ。
平良:僕の中ではカバーは作品です。
品田氏:なるほど。実は、カバーってタレント主義にあるのかと思っていたの!平良さんと話して良かったわ。演劇とか歌舞伎もそうだけど、同じ演目を違う人がやるじゃない。それって逆に言うと「 誰が演じているか 」を見に来ているから、作品だと思わなかった。だからすっごい新しい視点。
平良:僕は、自分が好きな素材だったら更によくなると思ったんです。カバーってもともと有名な曲をやるじゃないですか。例えば AKB48 の『 ヘビーローテーション 』をパンクバンドがやってもかっこいいと思うんですよ。ヒップホップなんてまさにそうですよね。YouTuber の”歌ってみた”も有名な曲を歌うんですけど、歌っているその人にファンが付くんですよ。YouTuberに「 ○○の曲を歌って 」ってリクエストが来たりして。
品田氏:それで言うと作品主義としては、今までにない新しい体験に感動するわけよ。だから、カバーは違うと思っていて、新しくねえもん!って。
平良:何を作品とするかが難しいですよね。「 音楽 」だったら定義しやすいけど、「 アイドル 」だと定義変わってくるよね?
アイドル好き広報 赤塚 (以下 赤塚):そうですよね。アイドルは音楽の良さだけを作品として売っているわけではなくて、「 世界観 」が作品になっているのかなと。
平良:それはもう初めからタレント主義ってことだよね。
赤塚:そもそも作品主義というのは、音楽を歌っていたらその音楽が良いということですもんね。
品田氏・平良:そう
品田氏:やっぱり音がすげーんだよな!みたいな。でも、「 音楽 」「 映画 」「 ストーリー 」それぞれが独立して存在する時代じゃなくて、全部一緒になったものがエンターテインメントって時代に育っているのが赤塚さんとかですよね。
赤塚:たぶんそうなのかもしれません。
平良:僕なんかラジオを聞いていたから、音しか聞いていなかったんですよね。
品田氏:そう!だから「 顔は分かんないけど良い曲じゃん!! 」とか。想像できないよね。
平良:テレビにラジカセくっつけて録音していた時代なんですよ。たまに音楽番組で聞いて、それをカセットレコーダーに録音してっていう。
赤塚:確かに。私は、テレビの主題歌とか音楽番組から入っているかもしれないです。
平良:僕もかろうじてそうなんだけど。
品田氏:だからタレント主義って言うと、曲単体じゃなくて「 イケメン主義 」がほぼイコールなわけよ。見た目が好きじゃないと好きにならないでしょ?
赤塚:見た目が大事というよりは、醸し出している雰囲気が大事かもしれないです。
品田氏:でも俺らみたいに作品主義だと、性格悪くてもいいのよ。
平良:さっきの話に戻ってしまいますけど、表現の手段が昔はライブしかなかったわけじゃないですか。そこから、ラジオができて、テレビができて、インターネットに広がっていったわけですよね。全部の表現が”見える”ようになってタレント主義って増えたんじゃないですかね。
品田氏:そっか。昔だと「 コア 」となる作品にとことんこだわっていたのに対して、どんどんテクノロジーの進歩で、見える部分が段々大きくなっていって、その生活、極端に言うと食べるものとかに対してまでも全部が作品になったってことだ。
平良:どんなライフスタイルかとかね。プライベートが流出するのは今しかありえなくて、昔は神秘的だったわけですよ。
品田氏:CEOとしてはばっちりだね!発言が!平良社長(笑)
平良:だから対立軸でずっと議論していたけど、結局はテクノロジーの進化に伴って他の要因が関係して来たんですよ。例えばライフスタイルとかビジネスモデルとか、そっちが大きく変数として関わっていたっていうことなんでしょうね。
品田氏:やっと分かりましたね。
平良:僕もやっとわかりました。
つづく
編集・構成 / 赤塚えり
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