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【読書記録】オラクル・ナイト(ポール・オースター)
オラクル・ナイト 読了。オースターが亡くなったので過去作を全て読みたいと思う。
多分オースターのポートフォリオではあまり重視されてないと思うが、幻影の書よりピンとくるものがあった。
作中作が完成しないことがわかったところで、しばらく作品が空中分解するような不安感があるのだが、現実側の出来事の方が推理小説のようにパズルがはまっていく。
作品作を持ち込むことで、架空であるはずの主人公の物語が、ほぼ写実(柴田元幸氏によるオースターのあのカメラアイで)で、現実のように感じられる。
核シェルターに閉じ込められた男の強烈なイメージは、そこに比喩を見いださずとも音楽として響く。その言葉ではない響きを聴くことにも価値がある。
完全にパズルがはまってしまうと、途中の雑多な(しかし魅力的な)エピソードは、ジャズのインプロヴィゼーションパートだったのかな、とおもう。
久々に中年男性が無軌道な性行為を行う小説を読んだ気がする。今の日本ではなかなか読めないものだ。(少なくとも今その内容でデビューは不可能だろう)大多数は性欲をもちセックスしているのだが。
中編のサイズで、ダッハウ強制収容所、クイーンズでの黒人女性との性行、不倫、死、核シェルターといった人間の様々なボトムを様々な語りでちりばめ、書きかけの小説=仮定の思考をくりかえしながら、言葉が現実に及ぼす力=オラクル(神託を現出させる。
大変意欲的な作品(言葉の宮殿=ペーパー・パレス)だった。