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100の回路#18 荒牧友佳理さんに聞く視覚障害者の就労可能性

こんにちは! THEATER for ALL LAB研究員の立川くるみです。
普段は制度の谷間障害「眼球使用困難症(PDES)」の生活向上を目指し、活動をしています。

サニーバンク会員でもある私は、PDES当事者であり、特に動く光・集中する光に強い過敏性があるという障害があります。

この「100の回路」企画に参加したのは、舞台芸術の1つであるミュージカルにも強い憧れをもったことがあるためです。

「100の回路」シリーズとは?
回路という言葉は「アクセシビリティ」のメタファとして用いています。劇場へのアクセシビリティを増やしたい我々の活動とは、劇場(上演の場、作品、そこに巻き起こる様々なこと)を球体に見立てたとして、その球体に繋がる道があらゆる方向から伸びているような状態。いろんな人が劇場にアクセスしてこれるような道、回路を増やしていく活動であると言えます。様々な身体感覚・環境・価値観、立場の方へのインタビューから、人と劇場をつなぐヒントとなるような視点を、“まずは100個”収集することを目指してお届けしていきたいと思っています。

そして、本企画1回目となるインタビューのお相手は日本初の視覚障害者専門ナレーター事務所「みみよみ」の代表 荒牧友佳理さん。

今回は同研究員の箕浦萌さんにご同席いただきました。

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(笑顔で写る、荒牧さんのバストアップ写真。奥いは録音中のナレーターさん。)

荒牧 友佳理(あらまき ゆかり)
東京在住。35歳。全盲の両親に育てられる。
Webやマーケティングの仕事と並行して2020年6月に日本初の視覚障害者専門のナレーター事務所「みみよみ」を開設。

『みみよみ』を立ち上げた経緯

荒牧さんが視覚障害者専門のナレーター事務所「みみよみ」を立ち上げたのは2020年6月。
コロナ禍でのリモートワークと音声コンテンツへの需要の高まりに応じて始められたとのこと。

「視覚障害者は声を強みにできるし、少しの工夫で職種によっては一般以上の能力を発揮することを知ってるので、ボランティアでも何でもなく、社会の機運に乗ってごく普通に始めた感じです」

回路69 障害者の就職支援は、ボランティア精神からくるわけではない。

視覚障害者事情に詳しいのは、荒牧さんのご両親が全盲であることからきています。

「私は全盲の両親に育てられたことで、視覚障害者の気持ちも分かるし、外に対しても全盲両親の子供っていう説得力があると思うんです。なので、供給側としての視覚障害者と需要側をつなぐヒモ役になるなら私ほど最適な人はほかにいないんじゃないかなと思ったんです」

確かに両親とも全盲というのは稀少で、私も初めてそのような立場の方にお会いしました。
この「稀少な立場を活かす」というのは障害当事者ならよくありそうですが、荒牧さんのお話をお聞きして、その家族もまた希少価値のある存在であることに改めて気付きました

「よく、人生は手持ちカードで勝負というじゃないですか。この仕事は私の手札を最大限に生かせるんじゃないかって思ったんです」

自分の手札を最大限に生かす、それ故の「自然な」結果が荒牧さんにとっての「みみよみ」なのです。

回路70 希少な立場こそ、有力な手持ちカード

業務の実際

「みみよみ」さんの業務形態は、登録ナレーターさんご自身の家で収録した、いわゆる「宅録」データをクライアントに納品する形式で行われます。

初心者の方の応募があった際、ナレーションの発生練習など、育ててもらえる体制はあるのでしょうか?

「一応最初にご自身で撮った音源を送ってもらって審査に通った方には、その音源にプロの方がアドバイスして、また練習した録音を送ってもらうというかたちで指導を行っています」

竹内智美収録風景①

(みみよみのナレーターさんの録音シーン。手元の点字ディスプレイを触りながらスタンドマイクに向かって話しています。)

通常のレッスンだと、スタジオに行って体を動かしてといったことをイメージしますが、これなら視覚障害者でも入りやすいですし、居住地にも左右されません。

その一方で、パソコンに不慣れな方が参加しにくいという課題もあるそう。

「パソコン指導のほうはまだ体制が整っていないので、そっちも整えられたらとは思っています」

確かに視覚障害者の中でも、音声を頼りにする重度視覚障害者では画面の文字を読み上げるソフトでの操作となり、その分ハードルが高くなる厳しさがあります。

ナレーターのほかにコーチングも

「みみよみ 」さんでは、ナレーション業の他に、コーチングの業務も行っています。

「実は視覚障害者のコーチング協会があるって知って、コーチを企業に紹介する人材派遣業務も行おうと思ったのです。これからですけど」

視覚障害者のコーチング協会があるとは初めて知りました。こちらも「声」と「言葉」さえ使えればできそうな感じですでも、実際のところ、認定資格の合格率は極めて低い厳しい世界とのこと。

じっくりと「声」に耳を傾けることができる、視覚障害者の強みが、この仕事でも生かされるはずだと荒牧さんはおっしゃっていました。

全盲の両親に育てられて

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(左から、荒牧さんのお父さん、笑顔の荒牧さん、荒牧さんのお母さん。)

荒牧さんは全盲のご両親に育てられたことで、視覚障害者との接し方が当然のように身につきました。

「うち、3姉妹なんですけど、未だにみんな自分のこと名前で呼びますね。
あと、テーブルの隅に物が置いてあったら真ん中の方に寄せるとか、飲み物はコップに半分ぐらいしか入れないとか、物の住所を意識するとかドレッシングの賞味期限がいつも切れてるので、まず賞味期限を見るとか。

あと、一緒に道を歩いてるときに、こんな花が咲いてるよとか、こういうふうに街が変わったよとか無意識に説明する癖が身についてて、仕事をはじめて語彙力とか説明する能力を褒めてもらうことが多いんですよね。

これは、自分の人生に大切な要素だったから、自分が助けていたより助けられていたのかとも本当に思うんです」

どれも視覚障害者には助かる配慮ですが、それを人生の途中から身につけたり、視覚障害者のいる場ですぐに応じるのは大変です。

回路71 障害者と接することで、自分自身が助けられる。

映画や舞台の鑑賞

さて、舞台芸術におけるアクセシビリティを探るということで、芸術鑑賞についてもお聞きしました。

「映画や舞台にもよく連れてってもらいました。うちのお父さんなんて、すごい涙もろいんですけど、 一緒になって泣いているイメージありますね。 映画館いくと。 でも、細かいストーリーがわかってなかったりして、帰り道に 質問されて説明したりは あるあるですね。

ちょっと前に歌舞伎を見に行ったんですよ。歌舞伎は目が見えても難しいので、 音声解説があるんです。 あれがあったときに、母がすごく喜んで観てたのが すごく印象的です。 副音声とかもっと普及してくれたらいいですね。 今映画でも 解説音声付きのものが増えてるんですよね。 でも、まだまだ少ないのでこれからもっと増えていったらいいなと思います」

映画館向けの音声解説はスマホのアプリが出ており、私も1度それを使って映画を鑑賞したことがありました。

この音声解説に絡めて箕浦さんか、みみよみさんでは、ナレーション画像の情景をどうやって説明しているのかと質問が入りました。

「 そうですね、そこ1番苦しんでるというか 難しいところなので 『正に』と言う感じだったんですよ。自分では結構説明が得意だと思っていたのですが、 やっぱり仕事として使うとまだまだだなぁと思いながら、いつも一生懸命説明してるんですよ(笑)。 この辺も磨いていきたいなと思うし、 この磨く事は自分自身の糧にもなると思うので、 意識的にやっていきたいなと思っているところです」

子供の頃から説明力を鍛えられ、他人からその能力を褒められる機会の多い荒牧さんでも、「仕事」となると奮闘されているご様子です。

重度視覚障害者のパソコン活用

ここで改めて解説しますが、視覚障碍者の中でも重度になると、拡大表示などでは追いつかず、画面上の文字を音声で読み上げるスクリーンリーダーソフトや機能を使ってパソコンやスマホを使い始めます。

その「スクリーンリーダー」との関わりについてお聞きしてみました。

驚いたのは、世代によっては、パソコンを使う習慣がなかった方も多くいらっしゃる中で、荒牧さんのご両親はパソコン、iPhoneもApple Watchも使っていらっしゃるということ。

「パソコンは昔から使っていました。音声デイジーとか取るのに必要なので。PC-Talker使って」

音声デイジーとは主に点字図書館で採用されている音声図書のデータ方式です。専用再生機も存在しますが、パソコンで再生できる無料アプリもあります。
また、PC-Talkerは日本で最も使われているWindows用スクリーンリーダーです。

「うちの両親、本が好きなので、音声デイジーを聴くのにパソコンはやってたんですけど、スマホとかは全然やってこなかったところを、私たちが一生懸命背中を押した覚えがあります」

高齢者層がスマホデビューに難儀するのは目の良い人も同様ですが、やはり全盲だとその壁はずっと高く、若い世代でも嫌がる人が多いものです。

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(PC-Talker画面。左がWindowsキーを押すと出てくるメニュー、左はエクスプローラーに相当するファイル管理画面表示。)

「今スラッシュとか視覚障害者向けのパソコン教室あるじゃないですか。うちの両親もあそこで勉強してると言ってました。だから、全部私が教えてるのではなく、ちょっと調子が悪いときに見るくらいで、あとは全部自分たちでやっています」

実際に、そうした両親のパソコンへの向き合い方を見ている荒牧さんは、音声ユーザーの操作方法をよく理解されていました。

「マウスを使わずキーボードだけでやるとか、iPhoneもVoiceOver使えるし。そこがわかっていると言うのは強いかもしれませんね。他の人だと全盲の人がiPhoneを使うと言うところからびっくりされますから」

VoiceOverと言うのはiPhoneに標準搭載されたスクリーンリーダーで、私も大変重宝しています。

そう、このスクリーンリーダーでの操作方法を実際に触って知っているというのは視覚障害者と共に働く上で大変大きな強みです。

ただ、誰もが荒牧さんのご両親のように習得できているわけではありません。特に高齢者や中途視覚障害者には大きな壁となっているほか、若くても地方在住者にとってはリアル教室・講習の不足の問題があります。

回路72 機能やスキルを身につけることで大きな力を発揮できるが、特に高齢世代を中心にそれが難しい人もいる。その格差は健常者以上。

ナレーションを視覚障害者の職業の1つに

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(スタジオで収録の準備を行なっているナレーターさんたち。)

最後に荒牧さんに今後の目標や願いについてお聞きしました。

「視覚障害者の最もオーソドックスな職業訓練といえば、『あはき(あんま・鍼・灸)』がありますが、ナレーションも視覚障害者の職業の1つとして公的教育機関でも採用されるようになって欲しいです」

盲学校や視覚障害者向け訓練施設では「あはき」や事務職向けパソコン訓練の他に一部音楽科も存在しますが、言われてみるとナレーションはあるようで聞いたことがありません。

「うちの両親は私たち三姉妹を海外旅行にも連れていってくれたし、本もたくさん読んでくれたし、障害者の親の元に生まれて悔しい思いをしたことがないんです。
何よりも頑張る親の姿を見て育ってきたので、障害者でもその気になれば何でもできるってことを、本当に人生を通して伝えてもらったんです。

だから、みんな視覚障害者の可能性を知らないだけで、『みみよみ』も絶対に上手くいくし、視覚障害者は『できる』ってことをみんなに伝えたいです!」

回路73 障害者の可能性に限界はない。

今回荒牧さんのお話を伺い、視覚障害者の1人として、とても勇気をいただいたばかりでなく、本当にすごいご両親にもお会いしてみたくなってしまいました。

箕浦さんからも「障害者が守られる存在じゃなく、共に仲間として生きていけるっていうのを荒牧さんのお話を聞いて感じました」という感想が。

私自身も箕浦さんの感じられたように「守られる」だけでなく、荒牧さんを応援したい気持ちになりました。

そして障害が重度過ぎたり、環境などさまざまな理由から能力を発揮できない障害当事者も多く知っていますが、

「本当にそれが限界か?何か打破する手立てがあるのではないか?情熱と知恵を駆使して道は開けるのではないか?」

と今も苦しむ仲間たちに荒牧さんと、それに共鳴した私自身の熱いエネルギーを届けられないかと思いました。


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また、noteと同じ記事をアメーバブログでも掲載しています。視覚障害をお持ちのパートナーさんから、アメブロが読みやすいと教えていただいたためです。もし、アメブロの方が読みやすい方がいらっしゃれば合わせてご覧くださいね。

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こんな風にしてくれたら読みやすいのに!というご意見があればできる限り改善したいと思っております。いただいたお声についても記事で皆さんに共有していきたいと思いますので、どうぞ教えてください。

執筆者

立川くるみ
2010年 眼瞼痙攣発症。
2017年9月~2018年8月『眼球使用困難症と闘う友の会』社会活動部部長。
2018年8月〜「みんなで勝ち取る眼球困難フロンティアの会」(https://g-frontier.xyz)代表。
2020年〜「苦Lookワークス」(https://kulukku.net)代表。

協力

サニーバンク
サニーバンクは、株式会社メジャメンツが運営する障害者専門のクラウドソーシング サービスです。「できない事(Shade Side)で制限されてしまう仕事より、できる事(Sunny Side)を仕事にしよう。」をテーマに、障害者ができる仕事、障害者だからこそできる仕事を発注して頂き、その仕事を遂行できるサニーバンク会員である障害者が受注するシステムです。
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