THEATRE for ALL アーティストトークレポート「表現とバリアフリー」 VOL.1 「ALLなカタリバ:届けたい作品とは?」
THEATRE for ALLの配信作品のアーティストやディレクター、プロデューサーなどをゲストに迎えるオンライントークシリーズ。
今回は、THEATRE for ALLの配信作品の選定にご協力いただいている大高健志さん、 山上庄子さんをお迎えし、THEATRE for ALL統括ディレクターの金森と、配信作品の見どころや、バリアフリー版制作時のお話を伺いました。
(以下はアーティストトークを一部抜粋、編集したものです)
左上が山上さん、下が大高さん、右上が金森
大高 健志(おおたか たけし)さん
MOTION GALLERY代表。早大政経卒業後、’07年外資系コンサルティングファーム入社。戦略コンサルタントとして、事業戦略立案・新規事業立ち上げ等のプロジェクトに従事。 その後、東京藝術大学大学院に進学。制作に携わる中で、 クリエイティブと資金とのより良い関係性の構築の必要性を感じ、 ’11年にクラウドファンディングプラットフォーム『MOTION GALLERY』設立。以降、50億円を超えるファンディングをサポート。2015年度グッドデザイン賞「グッドデザイン・ベスト100」受賞 。 また、様々な領域でプレイヤーとしても活動中。 現代アート: 2020年開催「さいたま国際芸術祭」キュレーター就任。 映画: プロデューサーとして、映画『あの日々の話』(第31回東京国際映画祭「日本映画スプラッシュ」部門選出)、『僕の好きな女の子』、『鈴木さん』(第33回東京国際映画祭「TOKYOプレミア2020」部門選出)に携わる。https://motion-gallery.net/
山上 庄子(やまがみ しょうこ)さん
Palabra株式会社代表。1983年神奈川県生まれ。両親が映画の仕事をしていたことから、生まれ育った環境には常に映画が身近なものとしてあった。中学生の頃から農業や環境問題に興味をもち、ご縁のあった山形県高畠に通い続けた末、東京農業大学国際農業開発学科へ入学。在学中は下高井戸シネマで映画館スタッフとして働く。向後元彦さんの「緑の冒険」を読み、マングローブという植物やその生態系、さらにはそこに暮らす人々の暮らしや文化に興味をもち、大学卒業後は沖縄へ移り住みNPO法人国際マングローブ生態系協会で研究員として7年間働く。マングローブや環境問題に関する外国人向け研修のコーディネーター、またモルディブやキリバスなどでマングローブ植林事業に携わる。2011年東京へ戻り、Palabra(パラブラ)株式会社の立ち上げに携わる。動画教室事業や字幕制作部門を担当した後、2017年より代表取締役に就任。
「令和2年度バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進功労者表彰」内閣府特命担当大臣表彰「優良賞」、「第7回糸賀一雄記念未来賞」受賞。
https://palabra-i.co.jp/
金森)本日のゲストは、作品の選定をキュレーションいただき、サービスの立ち上げ当初から様々なご意見・知見をいただいた、お二方にお越しいただきました。
大高さん)クリエイティブや社会の多様性など、公共に利する作品やプロジェクトの支援をクラウドファンディングを通じて行っているMOTION GALLERYの大高です。通常の資金調達では黒字化の必要性と社会的ビジョンの実現との兼ね合いが非常に難しい作品やプロジェクトを、まだ日本にその仕組みのなかった2011年から今までクラウドファンディングを通じて支援し、自分たちの欲しい未来を作ろうと活動しています。おかげさまで、これまで50億円をこえる資金を集めてきました。
山上さん) 主に映画などの字幕や音声ガイドを制作するPalabraの山上です。もともと映画が大好きでこの事業を2011年に始め、現在はこのほか音声字幕ガイドアプリ「UDキャスト」の開発運営や、コンテンツだけではなく会場までのアクセスやチケット予約のサポートなど総合的なアクセシビリティの改善を目指すバリアフリーコンサルも提供しています。THEATRE for ALLでは、立ち上げ当初から作品のバリアフリー化などで携わっています。
金森)THEATRE for ALLでは、サービスの構想段階からお二人にご相談しながら、配信プログラムの選定やサービスのあり方について考えてきました。これまでバリアフリー化されてこなかった作品に字幕や音声ガイドを付けて配信したり、また我々は、創作段階からバリアフリーの視点を交えて、アクセシビリティを考慮した作品制作も大切にしています。昨今、ソーシャルインクルージョンや多様性社会が叫ばれていますが、、映画や舞台芸術の鑑賞をきっかけに、様々な人や障害当事者との共生社会を実現するために個々ができることとは何か?と考えるきっかけになれたら、と思っています。
上映したあとも、繰り返し見て感想を話し合える作品を
金森)まずは山上さんから、今回ご紹介いただいた中で配信が始まった三作品についてお話お願いできますでしょうか。
四万十 いのちの仕舞い
https://theatreforall.net/movie/shimanto/
山上さん)一作目はドキュメンタリー作品「四万十 いのちの仕舞い」です。
四万十市で診療所を営む内科医小笠原先生を追いつつ、在宅医療や四万十川流域で暮らす周りの人々との交流を見つめながら「本当の豊かさや本当幸せとは何だろう」をテーマに描かれた作品です。人は生まれたからには死んでいくーー。命の「しまい」について考えさせられる映画でもあり、こういう先生に最期に出会って「しまっていく」ことに安心感を覚え、引き込まれていきます。鑑賞後に家族や周りの人とも、ぜひ感想を話し合って欲しいなと思う作品です。
描きたい、が止まらない
https://theatreforall.net/movie/cant-stop-that-drawing-feeling/
山上さん)二作品目は「描きたい、が止まらない」。
こちらもドキュメンタリー作品です。アール・ブリュットで世界的にも有名な作家・古久保憲満さんを追っています。この作品では、障害やアール・ブリュットの枠をこえて、主人公の憲満さんの生き方そのものや、日常の暮らしや家族が丁寧に映し出されています。アール・ブリュット自体は色々なところで取り上げられてきましたが、一人の作家にスポットを当てて、丁寧に掘り下げているところが本作の魅力になっているかと思います。
太陽の塔
https://theatreforall.net/movie/tower-of-the-sun/
山上さん)三作目は、岡本太郎さんの「太陽の塔」をテーマにしたドキュメンタリー作品で、関根監督の初の長編作品でもあります。
バリアフリー版の制作は大変でしたが、監督に参加いただいたモニター検討会(*)は、盛り上がりました。29人の様々な方のインタビューを繋いだドキュメンタリーで、単なる美術の切り口だけではなく社会学、考古学、民俗学、哲学の側面から太陽の塔や岡本太郎を見つめています。ものすごい情報量がある意味とても爽快で、見終わった後に「見てよかったな」「もう一度みたいな!」と思う作品です。
(*)モニター検討会とは:映像の意図や、作品の背景を正確に理解してバリアフリー字幕や音声ガイドを制作するために、映画監督やプロデューサー等、映画製作者と視聴覚障害者が一緒に行う検討会のこと
大高さん)「描きたいが、止まらない」はMOTION GALLERYでクラウドファンディングしていただいていた作品でもあるので、こうして素晴らしい作品を皆さんに届けることができて感慨深いです。また「太陽の塔」は個人的に岡本太郎が好きということもありますが、僕の「この年一番」の作品です。難しいテーマを扱うので、どう映画化して、どう伝えるかも難しいはずなのですが、それを面白くストンと伝えていて、かつ、考えさせられる映画になっています。内容が複雑な映画なので、バリアフリー化がとても大変だったのではないかと想像しています。
山上)バリアフリーのない通常盤でも「もう一回見たいな」となるほど、情報量が非常に多い作品です。字幕もものすごい数になっていました。ひとつひとつひろい集めたくなるような言葉が、たくさん文字になって流れてくる、言葉たちが押し寄せてきて「言葉の雪崩」に飲み込まれていくような感覚は爽快です。バリアフリー版もぜひみていただきたいです。
金森)山上さんが作品を選ぶ際の観点は、どういったものになりますか?
山上さん)今の時代は、年間1,200本ともいわれる非常にたくさんの映画が出てきていまして、嬉しい一方、どんどん過ぎ去っていくような印象もあります。バリアフリー版の制作では、一作品を何度も見て考えて制作しますので、1つの作品へ注ぐエネルギーや、作品から受ける影響も大きなものです。私たちとしては、上映だけで終わらせるのが勿体無い感覚があり、できれば改めて見てもらいたいし、鑑賞後に感想を話し合いたくなるような作品をご紹介できればいいなと思っています。
金森)社内でも感想をよく話し合っていると伺いました。
山上さん)バリアフリー版制作の中で必ず行う「モニター検討会」の終わった後は、自然と映画の感想会の流れになりますね。当事者の方から感想が出たということは「ちゃんと伝わった」ということでもあるので私たちとしては嬉しいことでもあります。
金森)観た人同士で話せる感想を話し合うのは、映画の醍醐味の一つだと思っています。THEATRE for ALLも配信だけでなく、その前後のワークショップなど含め、鑑賞体験を共有するようなプログラムも積極的に企画したいと思っています。
大きな映画館で未公開の “アクセスしづらい” 作品に焦点を
金森)大高さんのピックアップ作品「カランコエの花」が12月8日に配信開始となりました。大高さんの作品選びのについて、お聞かせいただけますか。
カランコエの花
大高さん)ドキュメンタリー作品は山上さんがお詳しいので、僕は劇映画を中心に、エンタテイメント性も意識しながら選びました。この世界には、様々なバリアがありますが、その一つに「見たい映画へアクセスできるか」というバリアがあると思うんですね。というのも、多くの人が見に行く東宝などの大きな映画館は作品が90分以上である必要があるという現状があります。「カランコエの花」も中編映画で、2018年にミニシアターで公開され話題になりましたが、”90分”の時間の関係で上映できる劇場が少なかったんです。MOTION GALLERYは、作家性のある作品を広く届ける活動していますので、こういった「アクセスに障壁がある名作」をTHEATRE for ALLで、色々な障害のある方も含めて様々な方へオンラインを通じて届ける機会になればと思っています。そして、それにより若手作家の支援にも繋がると思っています。
金森)「カランコエの花」はLGBTQをテーマにした作品でもありますよね。
大高さん)LGBTQ当事者の苦悩を描く映画はたくさん出てきていますが、本作は、当事者ではなく「その周りの人」を主に描いた作品になっています。LGBTQについて、映画を通じて学校などでも学ぶことが日本で広がり始めていますが、本作では、そういった意味でも当事者の周囲の人々の無自覚な差別に触れることができる作品として、話題になっています。
金森)「カランコエの花」のモニター検討会はいかがでしたでしょうか?
山上さん)当事者の方から色々な意見が出て盛り上がったと聞いています。静かな映画なんですが、作品の力だけで、内容は伝わる場面も多い中、俳優の視線の動きが重要で、そのあたりを意識しながら音声ガイドを制作していました。監督は常々「想像の余地を残すことを心がけて」制作されていると伺っていたので、結果、音声ガイドもそれに寄り添う形で制作できていたと思います。先日、検討会が終わったところですので、これから公開日に向けてブラッシュアップし、収録していくことになります。
金森)監督が、以前に「間や余白の表現をどうすれば良いか」とお話しされていたのを覚えています。そういったところがどのように表現されているか、12月8日公開を楽しみにしています。
金森)大高さんは、オンラインとのハイブリッドによる新しい映画館「K2」にも、今取り掛かっていらっしゃるとのことですが、どんなものか教えていただけますか?
大高さん)下北沢で映画館「K2」の立ち上げ準備を行っています。下北線の線路の埋め立て再開発の一角でして、非常に駅近で、人が集うコミュニティとして使えるような場所です。MOTION GALLERYでクラウドファンディング中でもあり、映画文化を広めていきつつ、下北の皆さんに愛される映画館にしていきたいと思っています。映画雑誌が激減する中、映画文化を広めるために定期的に映画館として雑誌を発刊していくなど、原点に立ち戻ってみたり、場所に来れなくても映画館的な文化や雰囲気をオンラインでも味わえるようにしたり工夫しています。色々な方が来やすいよう、街の人や映画が好きな人が一緒に番組編成しながら、映画館を作っていこうと考えています。そういう意味ではTHEATRE for ALL的な場所になるかもしれないです。
MOTION GALLERYクラウドファンディング「K2」
https://motion-gallery.net/projects/k2-cinema
予期しない作品と出会う 新しい映画体験をオンラインで
金森)配信作品の選定を通じて、THEATRE for ALLが今後伸ばしていくと良いと思われる強みを聞かせていただけますか?
大高さん)先ほど山上さんもお話しされていましたが、映画がどんどん作られ、短期的で過ぎ去る一方で、色々な意味で劇場に行きづらい人が増えています。その「アクセスのしづらさを解決する」ことがTHEATRE for ALLの強みになっているかなと感じています。また、Netflixなど動画配信サイトの浸透で、多くの作品をオンラインで見れるようになりましたが、サイトに推薦される作品以外は、埋もれていく傾向が強くなっています。その中で「THEATRE for ALLだからこその、予期しない作品に出会う」新しい映画体験を次々と積み重ねてもらえると嬉しいなと思っています。そしてそれが、広い意味で価値のある活動になると思います。
山上さん)大高さんもお話しされている通り、大手配信サイトだと埋もれてしまうような、なかなか出会えない作品に巡りあえること。そして、通常の劇場公開とは違って、上映後も掘り下げて丁寧に届けられるのが、いいところだと感じています。私たちも以前に実感したのが、コロナに関係なく、移動のバリアによって劇場に足を運べない方の存在です。年間1,200本の上映作品のうち、数として大半を占めるのは、それぞれ魅力的な個性を持ったミニシアターの上映作品です。そうして実際に足を運ばないと見られない名作がたくさんある中で、自宅に居ながら鑑賞でき、新しい作品との出会いを生むオンライン配信は、非常に大きな可能性を持っていると思っています。
金森)ミニシアター系の作品はまだバリアフリー化が進んでないものが多いのでしょうか?
山上さん)多いと思います。また、バリアフリーが進んできたように見えますが、まだまだ地方に行くと、邦画に日本語字幕が付いていることを、ご存知のない方も多いです。
金森)THEATRE for ALLではグラントという、作品のバリアフリー化を行う事業もやっています。これを聞いてくださる方やその周りの方で大規模な劇場では上映されていない「こんな作品がバリアフリー化できればいいな!」などがあれば、ぜひご連絡いただければ嬉しいです。映画を見ることでバリアを取り除くことができるサービスにできればいいなと考えています。
あなたはどんなバリアを感じていますか?
金森)最後に、アーティストトークにご出演いただく皆さんにお伺いしているのですが「あなたはどんなバリアを感じていますか?」
山上さん)難しい質問ですが、バリアフリーという言葉を使わなくてもいい社会にしたいという意味では、その言葉自体が最大のバリアになっているなと感じます。本当の意味でフリーになって、早くその言葉がなくなってほしいと思っています。
大高さん)僕は分かりやすいバリアを感じているわけではないですが、対話の難しさがバリアとして社会全体にあると感じます。対話することが前提ではないコミュニケーションが増えていて、それにより、誤解が誤解を積み重ねているところがあるなと。誤解を減らせるような、相手の立場に立つ配慮のある対話が前提で、コミュニケーションができる社会作りに、参与できたらと思っています。
金森)我々は日々、一人ひとりにどういう対応ができるかを考えているので、とても参考になるお話でした。お二人、ありがとうございました。
次回は、映画監督やプロデューサーをお招きして、制作者の皆様から制作のお話を聴きたいと思っています。
文:藤 奈津子
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THEATRE for ALLでは障害者週間にあわせ、オンラインと野外イベントを交えたバリアフリー映画祭「まるっとみんなで映画祭」を開催中です。
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