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経済学 と SDGs | 戦争をなくすために

定常経済における歴史的背景と経済学者の視点の整理

経済学の発展の歴史を整理することで、定常経済の概念がどのように形成され、進化してきたのかをより明確に理解できる。本稿では、定常経済が登場するまでの背景を探り、歴史的視点からその必要性を考察する。特に、古典派経済学や近代経済学における経済成長の捉え方、そして環境経済学や生態経済学がどのように定常経済の概念と結びついているのかを明らかにすることで、読者が経済学の流れの中で定常経済の意義を理解できるようにする。古典派経済学から近代経済学、さらには環境経済学や生態経済学に至るまでの流れを振り返ることで、定常経済の思想がどのように生まれ、なぜ今必要とされているのかを考察する。

1. アダム・スミスの視点

アダム・スミス(1723-1790)は、『国富論』において市場経済の原則を提唱し、自由競争が富の増大につながると論じた。しかし、彼もまた経済成長には限界があると考えていた。人口増加や資源の希少性が経済成長を抑制し、やがて安定した状態に達すると予測していた。

2. ジョン・スチュアート・ミルの視点

ジョン・スチュアート・ミル(1806-1873)は、経済成長の後には「定常状態」が訪れると考えた。彼は、資本と人口が安定した段階に達した後、社会の進歩は精神的・文化的な発展へと向かうべきであると主張した。定常経済が人々の幸福に資する可能性を強調し、物質的成長を超えた発展の重要性を説いた。

3. ジョン・メイナード・ケインズの視点

ジョン・メイナード・ケインズ(1883-1946)は、短期的な経済成長を重視したが、長期的には経済の安定を視野に入れていた。彼は『孫の世代の経済的可能性』において、物質的な成長が一定の水準に達した後、人々は経済的な目的よりも人生の質を重視する時代が来ると述べている。

近代経済学と定常経済の分岐点

1. ニコラス・ジョージェスク・レーゲンの視点

ニコラス・ジョージェスク・レーゲン(1906 - 1994)は、物理法則と経済活動の関係に着目し、1971年に『エントロピー法則と経済過程』を発表した。彼は、熱力学の第二法則(エントロピーの法則)が経済活動における限界を決定すると考えた。経済は、低エントロピーのエネルギーや資源を活用して価値を生み出すが、それらは変換の過程で高エントロピーの廃棄物となり、環境に戻る。すなわち、経済活動は資源の消費と環境負荷を伴う不可逆的なプロセスであり、無限の成長は不可能であると指摘した。

2. エルンスト・フリードリヒ・シューマッハの視点

エルンスト・フリードリヒ・シューマッハ(1911 - 1977)は、『スモール・イズ・ビューティフル』において「仏教経済学」を提唱した。彼は、経済の目的を無限の成長ではなく、人間の幸福と持続可能な社会の実現に置くべきだと主張した。シューマッハの経済モデルは、質素で持続可能な消費、社会全体の協力と平和、地域社会に根ざした経済活動を重視しており、定常経済の考え方と合致する。

3. ケネス・エワート・ボールディングの視点

ケネス・エワート・ボールディング(1910 - 1993)は、「来る宇宙船地球号の経済学」という著名な論考の中で、地球の有限性を宇宙船に例え、経済の拡張主義的な性質を批判した。彼は、資源の無制限な利用を前提とする「カウボーイ型経済」から、限られた資源の中で持続可能な発展を目指す「宇宙飛行士型経済」への転換を提案した。ボールディングの理論では、経済の成功は生産と消費の規模ではなく、ストックの効率的な維持によって評価されるべきであり、これは定常経済の概念と一致する。

4. ハーマン・デイリーの視点

ハーマン・デイリーは、生態経済学の分野を切り開き、持続可能な経済の枠組みとして定常経済を提唱した。彼の理論の根底には、地球の有限性と経済活動の物理的制約に関する認識がある。

従来の経済学は、経済成長を前提としており、成長が停滞すると経済危機が生じると考えられてきた。しかし、定常経済の視点では、無限の成長は物理的・環境的に不可能であり、成長の限界に直面した社会では「持続可能な安定状態」への移行が必要であるのではないか。

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