【こころ #75】過眠症という病気を知り受け入れてほしい
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あこちさん
「小さい頃から体が弱く、多く寝てしまったり、眠りが浅いとか、そういう体質だと思い込んできたんです」
同じ症状をもち、悩みながらもそれを体質だと思う人は世の中に数多くいるのではないか。あこちさんも、ずっとそうだった。でも、あこちさんの場合、それは体質ではなく病気だった。
「”うとうと”する間もなく”ずどん”と寝てしまい、それを自分でも覚えていないんです」
母親には中々理解してもらえず喧嘩をすることもあったり、学校の先生には理不尽に怒られた。就職しても、会議で座り続けたり、データの打ち込みや資料の読み込みなど一つの作業を続けると症状が出てしまい、勤務態度が悪いと叱責された。「なんで自分はそうなっちゃうんだろうと自分を責め続けるしかなかった」
そこから抜け出すきっかけは、東京から地元の青森に戻って最初に勤めた会社の先輩だった。それまで悩んできた自分に対して、真剣に心配してくれ、「”普通じゃない”と初めて言ってもらえた」
そこから色んな人に相談し始めると、日中に過剰な眠気を感じて居眠りを繰り返してしまう『過眠症』という言葉にたどり着く。さらに調べると、その中でも、寝てはいけない場面で我慢できないほどの急激な眠気に襲われ、突然5~15分ほど眠ってしまう『ナルコレプシー』という、自分の症状と類似する睡眠障害を見つけた。
しかし、地元の青森県にはその診断をできる専門医がおらず、専門の検査さえ受けられない。ネットやSNSで当事者を探して相談を重ね、隣県の秋田県で過眠症の専門医を見つけ、通った。
隣県と言えど、交通の便は悪い。ただ検査を受けるだけでさえ、「多くの時間と労力とお金がかかった」
確かに当事者団体もあり、睡眠学会のホームページを見れば全国の過眠症の専門医を探すこともできる。しかし、そう整備はされていても、知らない人にとっては簡単にたどり着けないのが現実だ。
それを乗り越えてやっと『ナルコレプシー』の診断を受けると、医師から「よくこれまでフルタイムで勤務していたね」と驚かれた。
現在は、薬を服用することで「眠気自体に気付けるようになった」。それまでは、眠気自体に気付けなかったのだ。未だに眠気はあるものの、以前と違って「前兆がわかるようになった」ことで、職場でも一旦別の仕事を挟んだり外に出歩いたりと、工夫できるようになった。大きな変化だ。
ただ、発症から診断まで15年もの月日は長過ぎた。あこちさんは、学生時代から苦しみ、症状から転職も余儀なくされ、睡眠が足りないことでメンタルも悪化するなど、ずっと生きづらさを抱えてきた。
「もっと早くこの病名に出会っていたら」という悔しさが拭えない。SNSを探しても、過眠症やナルコレプシーについて発信している人は見当たらなかった。「お医者さんの情報もありがたいけれど、同じ当事者が仕事や生活でどう工夫しているかが知りたかった」
だったら、自分が表に立って発信するべきか。最初は迷った。でも、「誰もやっていないのなら、やるしかない」と、あこちさんはXやYouTubeで発信を始めた。
しかし、「既往症の欄に記載しても看護師さんでさえ知っている人は少ない病気」だ。あこちさんが診断を受けた『ナルコレプシー2型』は、未だ原因もわかっていない。過眠症の中には症状が非常に長期間にわたって継続し、生活もままならない『クライネ・レヴィン症候群』も存在するが、極めて稀な症例だ。
そうした背景から認知度が極めて低く、国の指定難病にもなっていない。障害者手帳の交付を受けて雇用面で配慮を求めるにも、うつ病や適応障害の併発があれば受けられるが、単独では難しい状況だ。
最近では当事者から発信する人も少しずつ増えてきた。でも、さらに認知度を高めるには、支援者側も含めた多様な仲間づくりが必要と、あこちさんは考えている。さらに、この病気のことをもっと多くの人に知ってもらいたい思いから、今後は啓発も兼ねた楽曲制作なども行う予定だ。
たとえ病名を知ってもらえるようになっても、「”眠ってしまう病気”で終わらず、”だから同じ生活ができない”ところまで理解してほしい」
あこちさんのような症状を持ちながら苦しんでいる人が病気の可能性に気付く、同じ症状の当事者や支援者から多くの声が上がる、患者が多くなることで社会の理解が進むとともに病気の研究も進む、そこに制度もついてくる。
そんなサイクルを願い、Inclusive Hubもその一助になれたら嬉しい。
ここまで読んでくださった皆さまに‥
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