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『WOMEN 21』

『WOMEN』 Charles Bukowski
数マイル離れたところに住む女から手紙をもらい続けている
手紙にニコールとサインしてある
オレの本を何冊か読み気に入っていると言っている
その手紙に返信したら返ってきた手紙に家に招待したいと書いてあった
ある日の午後、リディアには何も言わず、フォルクスに乗り込み走り出した
彼女はサンタモニカ通りにあるドライクリーニングの店を超えたところにあるアパートメントに住んでいた
玄関は通りに面していてガラスを通して階段が見えた
ドアベルを鳴らした
「どちら様?」
小さなブリキ製のスピーカーを通じて女の声が聞こえてきた
「チナスキーだ」オレは言った
ブザーが鳴りドアを押して開けた

ニコールは階段の上段からオレを見下ろしていた
彼女は洗練されているが悲しげな顔をしていて胸元が大きく開いた緑のロングハウスドレスを着ていた
なかなか良さげな身体をしている
彼女は大きな茶色い目でオレを見つめた
目の周囲には多くの皺ができていた
飲みすぎているか泣きすぎたかだ
「1人なのか?」オレは聞いた
「そうよ」彼女は微笑んだ「上がってきて」
階段を上がった
広々としていてベッドルームが2つあり家具はほとんどない
小さな本棚とクラシックレコードが入った棚がある
オレはカウチに座り彼女はオレの隣に座った
「ちょうど読み終えたところ」彼女は言った「『ピカソの人生』を読んでたの」
コーヒーテーブルにニューヨーカーが何冊か置いてあった
「お茶でもどう?」ニコールは聞いた
「外で何か飲み物を買ってくる」
「必要ないわ。用意してる」
「何を?」
「質のいい赤ワインはどう?」
「もらうよ」オレは言った

ニコールは立ち上がりキッチンに向かった
彼女の身のこなしを観察した
オレはロングドレスを着ている女が好きだった
彼女の立ち振舞はなめらかで魅力的だ
品のある女だった
彼女はグラス2つとワインのボトルを持って戻ってきてワイン注いだ
ベンソンアンドヘッジスを吸うかどうかオレに聞いた
オレはそれに火をつけた
「ニューヨーカーは読むの?」彼女は聞いた「悪くない小説が載ってるときもあるわ」
「同意できないな」
「どういうところが?」
「教養がありすぎるんだ」
「私はそういうの好きよ」
「まあ、くだらないな」オレは言った
オレたちはワインを飲みタバコを吸った
「このアパートメントは好き?」
「ああ、素敵だ」
「ヨーロッパに住んでいたときの頃を思い出させるの。空間とかライトが気に入っててね」
「ヨーロッパ?」
「ええ、ギリシャ、イタリア、、、大半はギリシャね」
「パリは?」
「そうね。パリも好きよ。ロンドンは、ダメね」

彼女は自分自身について語った
彼女の家族はニューヨークに住んでいたことがあって父親はコミュニストで母親は労働環境の劣悪な工場で裁縫師をしていた
彼女は最前列で仕事をし全従業員の中で最も優秀だった
タフで誰からも好かれていた
ニコールは独学でニューヨークで育った
有名な医者と出会い結婚し彼と10年過ごした後離婚した
彼女は毎月400ドルを慰謝料として受け取っているが生活するには十分ではなかった
このアパートメントの家賃を払うのも厳しかったが、ここを気に入っていて出ていく気にはならなかった
「あなたの書いたもの」彼女はオレに言った「とても生々しい。大きなハンマーで打たれるみたい、それでいてユーモアと優しさもあって、、、」
「そうだな」オレは言った
ワインを置いて彼女を見つめた
彼女の顎に手を伸ばしオレの方に引き寄せた
唇が触れるだけの軽いキスをした

ニコールは喋り続けた
彼女はなかなか興味深い話をし、その中のいくつかを短編か詩の中で使おうと決めた
前かがみになってワインを注ぐときに見える彼女の胸をオレは眺めた
まるで映画のようだなとオレは思った、ロクデモナイ映画のようだった
オレたちがカメラに収められているようでなんだか可笑しかった
この光景が気に入っていた
競馬に行くよりもボクシングの試合を見るよりもよっぽどマシだ
オレたちは飲み続けた
ニコールは新しいボトルを開けた
彼女は喋り続けた
彼女の話しを聞くのは苦じゃなかった
どの話にも知恵があり笑えるところもあった
ニコールは彼女が自覚している以上にオレにいい印象を与えた
それがいくらかオレを不安にさせた

オレたちは外のベランダに出てワインを飲みながら夕方の交通渋滞を眺めた
彼女はイタリアでのハクスリーとローレンツの話をした
くだらないな
オレはクヌート・ハムスンが最も偉大な作家だと彼女に言ってやった
彼女はオレを見つめてそんな名前が出てきたことに驚き同意した
路上を走る車の排気ガスの臭いがするなかオレたちはベランダでキスをした
寄り添ってくる彼女の身体は心地よかった
オレたちはすぐにはファックしないだろう
でもオレはここに戻ってくることを知っている
ニコールもそのことをわかっていた

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