Netflix『地面師たち』
まだ9月だというのに、2024年の個人的流行語大賞は「プリミティブ」で決まりだ。
1999年、生まれて初めて手にした小説が馳星周の『不夜城』だった。ページをめくる手が止まらなかった。次に読んだ本も覚えている。村上春樹の『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』だ。
それからミステリーに出会った。綾辻行人の『十角館の殺人』、島田荘司の『占星術殺人事件』――のめり込ませ、引きずり込むには十分な作品だった。貫井徳郎の『慟哭』は衝撃的だった。あの瞬間、ミステリーというものの本質をもっと知りたくなった。そして辿り着いたのが、エドガー・アラン・ポーの『モルグ街の殺人』。「世界初の推理小説」と呼ばれる作品だ。興奮した。そこには、全ての始まりがあった。
「世界初」に惹かれる。初めての何かに触れた瞬間の感動、それが欲しくなる。誰かの演技や言葉を追っていけば、アレックス(『時計じかけのオレンジ』)や、多襄丸(『羅生門』)に行き着くことがある。アリストテレスに言わせてみれば、さらに遡れば不動の動者に辿り着くのかもしれないが、そういう時代を超えた存在に触れることは、言葉では言い尽くせない喜びだ。歴史がある。衝撃がある。
その衝撃を感じた、『地面師たち』のハリソン山中に。
あんな役には、今まで出会ったことがない。この体験が人生の新しい「始まり」になるかもしれない。そうだ、まさに「プリミティブ」な(原始的な、初期の、根源の)瞬間だった。
素晴らしい時間をくれた全てのスタッフ、出演者、そして作品に感謝。
そして、流行語大賞の次点は――「ルイ・ヴィトン」だ。
【予告編】
谷口賢志
【谷口賢志の独演会】
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