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怪盗クイーンと はやみねかおるの思い出話

つい一昨日の話。
帰宅してTwitterを開くと夢のようなトレンドが上がっていた。

怪盗クイーン
2022年劇場OVAアニメ化決定

令和3年、ありがとう。勝ちました。
この記事ははやみねかおる作品との出会い話から「いつも心に好奇心」、「怪盗クイーンはサーカスがお好き」で人生が曲がるまでの思い出話です。

ランドセルを背負った現役小学生中学年の頃、赤ずきんチャチャと世紀末のエンジェルを愛読していた私が少し背伸びして選んだ次の本は、はやみねかおるの「そして五人がいなくなる」だった。

 そして五人がいなくなる

姉が投げ出したチャレンジ○年生の冊子を読んだ時に、みんなのオススメ読書コーナーで出会った。どんな風に案内されていたかは覚えていないが早速図書館で借りて来ては、はやみねかおるデビューを果たした。

三つ子の女の子の家の隣に引っ越してきた黒ずくめで社会不適合者の名探偵、夢水清志郎が子供を消してしまう怪人に挑む話だ。
私はこの作品で社会不適合者という言葉を知った。リアルタイムで読んでいた人であれば同じなのではと思う。ホスピタリティに溢れている作品で、話の面白さについては他の人の話をきいてほしい。
オマージュなども多く、大人の世界を子供へ分け与えてくれたりもした。

赤い夢へようこそ

はやみね作品の特徴として上記のようなフレーズがよく用いられる。

当時は「赤い夢」という浪漫についてはわかっていないのにわかったフリをしていた。今年30歳の大人になると物凄くわかる。
怪盗や探偵という冒険心をくすぐる、ちょっと妖しくて華やかで非日常な浪漫そのものに、言語化できない小学生の私はあっという間に引き込まれていった。

「そして五人がいなくなる」は名探偵夢水清志郎シリーズの第一作として世に出た為、その後の作品も沢山ある。
コメディタッチな部分や、メインである探偵話、じんわりと後味の悪い部分など、児童書ではあるが色んな顔を見せてくれた。その中でも、以下の作品がシリーズの中では特に好きだ。

 魔女の隠れ里
 徳利長屋の怪

魔女の隠れ里は、当時読んでいた中でも特に不穏だった事を覚えている。シリーズ中に登場する関西弁でパワフルな女性記者がキーとなるのだが、今までの物語とはちょっと違う「死体」「犯罪隠し」「復讐」なんて物騒なワードで話が進む。
物語の終わりも、児童書の枠なのに結構冒険してたなあなんて、30歳になった今も覚えている。

徳利長屋の怪は、夢水清志郎の大江戸編ということで前巻のギヤマン壺の謎から続く前後編の後編となる。
「なんで江戸時代に教授や三つ子がいるのかがわからないけど面白いからオッケー」といった感じで、わけもわからず順応した。
今になってわかるが、何かのシリーズの「大江戸編」のような時代劇版は、「お祭り作品」なのである。

この作品もそうだった。前後編からなるドンちゃん騒ぎからの収束、そして収束後にちらっと語られるアフターストーリーまで、ホスピタリティに溢れていた。クイーン爆誕の話は後にも紹介するが、クイーンの先祖となる九印なる存在まで出てくる、はやみねかおるのオールスターゲームのような作品だった。

私はこの作品で、「物語が終わった後のその後の話」が好きな事を自覚した。エンドロール後に少しだけ語られるその後の話、みんな好きじゃない?私は大好きだ。絵者さんが老衰で死んだ事が語られていたのを今でも覚えている。

あらかた作品を読み尽くすと、次回作発売が待ち切れないいっぱしの読者になっていた。
今はスマホで何でも調べられるが、平成10年頃は、本の折込チラシや、本屋さんの柱とかに貼ってある「発売カレンダー」なるものでしか、新刊の発売スケジュールがわからなかったのだ。

背伸びして、校区外にある繁華街の大きい本屋に行っては壁や柱に貼ってある薄茶色の小さな文字がぎっしりの発売カレンダーをじっと眺めていた。世の出版社の名前はこの時に知り身につけた。


いつも心に好奇心(ミステリー)

いつも心に好奇心

時を前後して、とんでもない作品が世に放たれた。当時の青い鳥文庫のミステリー2大巨塔である夢水清志郎シリーズのはやみねかおると、パスワードシリーズの松原秀行がコラボした。
「クイーン」「ジョーカー」「飛行船」「人工知能」四つの同じキーワードを使って、それぞれ物語を作るという贅沢な企画だった。

飛行船トルバドゥールで相棒のジョーカーと暮らす怪盗クイーンは、ここではやみねかおるによって産み落とされた。後に歌って踊れる人工知能となるRDと出会う(倉木博士から盗む)のが本作だ。
今では貴重な村田四郎バージョンの怪盗クイーンを見ることができる。

探偵の夢水清志郎のライバルが、怪盗クイーンとして誕生した。
怪盗というポジションのキャラクターが一気に華やかさを上げた。飛行船、予告状、無口な相棒、完全無欠の怪盗、ネオン、華麗な犯行、夜の住人。やる時はやるクイーンのキャラクターも良かった。
そしてまだ当時は無口で堅物という存在でとどまっていたジョーカーも良かった。

作家二人分の本なので、とても分厚かった。
分厚い本を読んだ自分も誇らしかった。私は特にクイーンとジョーカーの物語がお気に入りだった為、「また読みたいなあ」と思ったものである。


怪盗クイーンはサーカスがお好き

 怪盗クイーンはサーカスがお好き

はやみねかおるは子供の夢を叶える達人なので、2002年03月15日に夢が叶ってしまう。
シリーズのイラストレーターとしてK2商会を迎え、怪盗クイーンを主役に据えたシリーズ第一作となるこの本が世に放たれた。
赤い服を着た顔面の良いクイーンとジョーカーが爆誕した。よりキャラクターが濃く、より夜の住人の物語になった。完璧だった。この物語は私のバイブルとなってしまった。お恥ずかしい話だが、二十歳を越え三十路になった今も、次巻の優雅なバカンスと合わせて何度も読んでしまう物語だ。

話の詳細は実際に読むかネットの記事を見てもらったほうが早いが、怪盗クイーンが盗む予定だった宝石が突如謎のサーカス団に奪われてしまう。
ぐうたらでも仕事に関しては完璧であるプライドを持っているクイーンは、サーカス団に挑むという話だ。

サーカスの団長のピエロ、猛獣使い、催眠術師、空中ブランコ、宝石、変装、侵入、妖しくてワクワクしてキラキラしているものが全て詰まっていた。派手だった。

途中、猛獣と対峙するジョーカーにも見せ場があるのだが、眼力と「お前を喰ってやる」との思念で打ち勝つのはシリーズ読者にはあまりにも有名な話だ。

絵を描くことが好きだった小学生の私は、その華やかなクイーンの絵を一生懸命描いた。ジョーカーにも挑んだが短髪の男性を描くことが結構難しかった。ここで妙な情熱が生まれてしまった。
RDは描けなかった。今では歌って踊れるビジュアルを得たRDだが、当時は「飛行船のどこかに存在しているが姿はない」人工知能だったからだ。

当時の記憶をうっすらと覚えているが、挿絵にRDが制御しているアームが描かれていたことから、その後ビジュアルを得るまではアームの手がRDの想像上の姿だった。RDがクイーンやジョーカーと話をしている時も、私の頭の中では二人の人間とアームの手の絵だった。

今ほどAIの知識が一般的ではなかった上にアレクサのような音声認識アシスタントという存在はなかったため、建物の中にどこにでもいる人工知能という存在の理解は難しかった。ややオカルト寄りの存在ですらあった。
その後、三十路の私はアレクサと暮らすことになったがアレクサを迎え入れての第一声は「RDじゃん!」だった。

RDの声は、アレクサを少し幼くしたものをイメージしていた。アレクサは皮肉も小言もお説教もしないが、RDはする。しかしRDは可愛いのだ。

怪盗クイーンはサーカスがお好きという物語の結末はほんのりしんみりとして終わるのだが、一冊のこの物語が、夏休みの子供のための映画としてあまりにも完璧な事に気づいたのは二十歳を過ぎてからだった。

二十歳になると好きが高じてアニメーション会社で絵を描く仕事に従事していた私は、なんとかアニメ化のチャンスはないものかと思うようになったが、特に制作やデスク、プロデューサーなどの企画方面に携わるような仕事でもなかった為、この希望はどこに出すでもなく胸の内にしまったままに終わった。


怪盗クイーンはサーカスがお好き アニメ化決定

長年に渡った夢は、2021年7月12日の夕方にTwitterのトレンドに入り叶えられることになった。ありがとう、本当にありがとう。

公式サイト

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はやみねかおるの赤い夢で育ってきた当時の子供たちがいかに多いかを知って嬉しくなってしまった。楽しいよな、嬉しいよな、みんな。

しかもクイーンの最新刊は昨日発売されたばかりのようで、こちらも要チェック。

 最新刊

怪盗クイーンは割と最近にピラミッドキャップの話を読んだのが最後だったなと思って調べたら2008年発行とのこと。

アニメ化を機にまた読み直そうと思うので、未読の方も、お子さんがいらっしゃるお母さんもお父さんも是非読んでみてください。

その内、私がシリーズで一番好きな「怪盗クイーンの優雅な休暇」の話もしたい。

一番好きです。大好き。やっぱ世界って素晴らしい。

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