早すぎます……宮沢章夫氏を悼む
主宰している文章力向上のためのセミナー『文章の学校』で、氏の文章は何度も例に挙げてきた。
実は昨日もオンラインセミナーで、「ユーモアエッセイ」を課題として出し、「読んだことのない人は、ぜひ彼のエッセイを手に取ってみてください」と紹介したばかりだった。まさかその日に、こんな悲報が届くとは……。
「とにかくおもしろいわよ」。エッセイストのトコさんが、『牛への道』を手渡してくれたのは、確か96年のことだったと思う。それから全著作を読んだ。読み足りなくて、演劇論まで読み漁った。
80年代の昭和軽薄体のさまざまな文体の実験のあと、あざやかに時代を変える、新しいユーモアを、宮沢章夫は見事に作品として著した。
90年代の中盤、あきらかに「その時代、最もおもしろいエッセイを書く人」だったと思う。当時、松尾スズキ氏のエッセイも読み耽っていて、自分が演劇人の筆に夢中になっていることをおもしろく思っていた。いい文章を書くために、「一度、脚本を書くべきじゃないか」と本気で考えたりもした。
笑った。電車の中で変な目で見られたことも、一度や二度ではない。派手さはないが、しかし、まったく新しい文体だった。日本のユーモアエッセイを変えた一人だと、ぼくは思っている。
ここ10年は、彼の著作から離れていたが、あらためて読んでみようと思う。いや、本当はまだまだ、あのどこまでも知的でくだらないエッセイを書いて欲しかったんだ。早すぎますよ。
早すぎます。早すぎますったら。