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読書記録#5 ジャック・デリダ『言葉にのって』ちくま学芸文庫

ジャック・デリダ / 林好雄 森本和夫 本間国雄訳『言葉にのって 哲学的スナップショット』ちくま学芸文庫

 フランスの哲学者・デリダのインタビュー集。デリダ自身の人生を幼少期から振り返りながら思想的遍歴を整理する「肉声で」(幼い頃はサッカー少年だったらしい。「その頃、学校に行くというのは、鞄の中にサッカーシューズを入れて出かけるという意味だったのです」〈p.20〉)。続いて、「歓待について」「現象学について」と哲学的キーワードに関する話題が入り、さらに「政治における虚言について」「マルクス主義について」「正義と赦し」等、政治・経済にかかわる概念の解説もなされる。

 以前から何か1冊しっかり読んでみたいと思っていたデリダだが、戦後のいわゆる「現代思想」に関連する哲学者の例に漏れず、いきなり取り組もうとすると結構ハードルが高いのも(少なくとも自分にとっては)事実であった。そんなときにふと手に取った本書、裏表紙に「デリダ自身によるデリダ哲学への最良の入門書」と記してあったのでそのまま買ってしまった。

 結論、決して易しく読めるというわけではないが、デリダ自身の言葉を記した著作としてはかなり初読者にも理解しやすいように感じた。
 当然ながら「書かれた言葉」か「話された言葉」か、という違いが大きいのだと思う。書くという行為は哲学者自身の思索の編集という面もあるだろうから、「読みやすさ」が優先事項にならないのは(むしろよく)わかる。翻ってインタビュアーが目の前にいる状態で話すということは、ある程度「相手に伝える」ことが意識に上るからか、幾分世俗的な言葉を用いて、シンプルな表現で語られている箇所も多くあった。

 他者を迎え入れること、「歓待」。これを私は(他者に対する)「歓迎」に近い意味で捉えていたのだが、デリダによれば歓待には「まったく安易なものでも平穏なものでも」ないケースが存在する。その他者が自分にとって喜ばしいものでなくとも、その他者を認識し、自分と別な存在であると認識したところでの他者性への「迎え入れ」が起こり、「私はすでに歓待の態勢にある」と(p.96-97)。それは「尊重」や「平和」より以前にあるものであると。これがわかっただけでもかなり感動した。

 「正義と赦しについて」の章も非常に興味深かった。南アフリカのアパルトヘイト体制とその反省に関する考察をスタートとして、歴史/世代的なるものと赦しの関係性などに話が及んでいく(例えば、第二次世界大戦中のできごとについて、戦後生まれのドイツ人青年がフランスに対して後ろめたさを感じることについて、どう語りうるか? といった話)。
 この辺の話も引用すると長くなりそうなので、ご関心があればぜひ読んでみてください。

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