【ショートショート】ちょこほりっく
父「ごるぁー、花子ー! おみゃーまたオラのチョコ食っただが?」
娘「父ちゃんが隠してるのが悪いんだべ!」
父「オラぁ、チョコ食っでねえど仕事にも行げねえってごど、おみゃーも知っとるでねえが」
娘「んならオラも一緒だよ。父ちゃんの子だもの」
父「何が一緒なもんか、おみゃーとオラは違え人間でねえが」
娘「血が繋がっでんだもの、しょうがねえでねえが」
父「好みまで遺伝するなんでごどあるがー!」
娘「オラ知ってるだ、父ちゃん、若い時、絶倫だったんだんべ?」
父「な、何を言うとるだ」
娘「死んだ母ちゃんが言ってただ。数ある相手の中から自分を選んでくれで嬉しがっだっで……でも、結婚してすぐのどぎ、外で変なムシ付げられで、母ちゃんにも伝染っで、2人して薬飲むはめになっだんだっで」
父「そ、それが何だっでんだ」
娘「淋病だっだんだべ? 淋病の人はチョコレート食べたがるっで、保健の先生から聞いただよ。その体質は子どもにも遺伝するんだど」
父「で、で、出鱈目言うない!」
娘「隠さんでいいが! もうどうしようもねえごどだべ! だがらオラがチョコ食べるのも許してくんろ」
父「お、オラぁ、おみゃーにはオラみたぐなっで欲しぐねえがら言っどるだげだよ」
娘「それに、手塚治虫先生もチョコレート好ぎだっだんだぞ。夜中に助手に買いに行がせだぐれえだど」
父「おみゃーと手塚治虫の何が関係あるっでんだ?」
娘「まさか、オラが手塚治虫先生に憧れでマンガ家目指しでるのさえ知らねーだが?」
父「そ、そうだっだのが?」
娘「うう……父ちゃん、オラのごど何にも知らねえだ! チョコにしか興味がねえんだ! もう父ちゃんのごどなんが嫌えだー!」
娘、わーっと泣き叫びながら外へ飛び出す。
父「ま、待で、花子ー!」
父、娘を追う。庭の柿の木の前で泣いている娘を抱き寄せる。
父「花子、父ちゃんが悪りがっだだ。オラぁ、仕事が忙しい忙しいっで、おみゃーのごど後回しにしてただよ……親ひどり子ひどりだもの……もっどオラがおみゃーのごどしっがり見でえどいげねがっだだよ」
娘「父ちゃん……オラもごめんな」
父「いいんだ、いいんだ」
娘「んなら、父ちゃん、ごれ見でも許してくんろ」
娘は柿の木の下の土をスコップで掘り返す。コツンと音がして、さらに土を払うと、マンホールのようなフタが出てくる。
父「こりゃ、何じゃ?」
娘がフタを取ると、そこには大量のチョコレートが入っている。
父「こ、こりゃあ、おめえ、オラが買っでぎだチョコでねえが……」
娘「んだ。オラは全部自分で食べでだ訳ではねえが。ここに埋めでだだよ。捨でるには忍びなぐで」
父「なしてこげなごとを……?」
娘「父ちゃん、いぐらなんでも食いすぎだがら、病気にならねえように間引きしてただ」
父「うう……花子……父ちゃんのごどを思っで……それなのに、オラどぎだらおみゃーのごどを……」
父はどさっと膝をついてうなだれ、右腕を目に押しつけてひーひー泣く。
娘「もう食いすぎねえでくんろ」
父「うん、分がっだだ……すまんがっだ」
娘「分がっでぐれればいいだよ。とごろで、ひどつ頼みがあるんだが、聞いでぐれっが?」
父「おう、何でも言え」
娘「オラ、チョコ好きの人間がチョコが食べられねえで、どんな禁断症状が出でぐるのがを、面白おがしぐマンガに描ぎでえと思っでるだ。父ちゃん、協力しでくんろ」
父「な、何? 全ぐ食べちゃダメっでごどが?」
娘「んだ、しばらぐはダメだ。オラに観察させてくんろ。マンガが売れだら、印税でたらふく食っでええが」
父「うう……何年かかるだが?」
娘「分がらんが、父ちゃんの頑張りによるど」
父「つ、つらい……んだが、おみゃーの夢のためだ。今までの罪滅ぼしど思っで父ちゃんもひと肌脱ぐべ!」
娘「本当が? ありがど、父ちゃん! 父ちゃん、大好ぎ!」
娘に抱きつかれた父の目からは、チョコレート色をした涙がこぼれましたとさ。
おしまい。