【ヒモ男シリーズ】ヒモ男パーティー
俺はコンパスヒモ男。今日はタキシードを着て、ホテルへやって来たぜ。どの部屋に入ればいいのか分からないので、手近なところを開けてみたら、深紅のナイトドレスを纏ったエイ子がいたぜ。
「あら、ヒモ男。来たのね」
こちらへ近づいて来たエイ子の腰に手を回し、長いこと唇を重ねてから、
「こっちよ」
とエイ子は言い、俺の手を取り一緒に部屋を出たぜ。案内されるまま、廊下の1番奥にある大きな扉を開けると、体育館になっていて、
「エイ子、こっち!」
と、ビイ子の声がしたと思ったら、俺はエイ子に投げられ、ビイ子の手の中に収まったぜ。
「パス、パス!」
後ろから走って来たシイ子が、ノーマークでゴールの下に向かったので、ビイ子は俺をシイ子の頭上にポーンと上げ、シイ子は見事に空中で俺を捕らえて、ゴールにスポッと入れたぜ。歓声が聞こえたと思ったら、俺は真っ逆さまに落ちて、息ができずに苦しかったので、ぷはっと顔を上げたら、デイ子の胸の谷間に顔を埋めていたようだぜ。
「ちょっと、ヒモ男、張り切り過ぎ」
デイ子がクスッと笑うと、寝室の扉がガチャリと開き、デイ子の双子の子どもたちが入って来たぜ。デイ子は「きゃっ!」と声を上げ、急いで俺を遠ざけ、布団で裸体を隠したぜ。
「パパー!」
「遊ぼー!」
イチ夫とニ子が絵筆を持って、俺の体をキャンバスのようにして、いろんな色の絵の具を塗りたくったぜ。
「ぎゃはは! くすぐってえ!」
俺はキャンバスの海にもぐり、息が続くまで泳いだあと、水面に顔を出すと、いっとき本気になりかけた文学少女のジー子の顔が真上にあったぜ。どうやら活字を追っているようだぜ。俺は気を引こうと、さまざまなポーズを取ってみるが、ジー子はまるで気づいていないかのように、ページをめくったぜ。だが俺は、上から降って来た紙をすり抜け、ジー子に存在をアピールし続けたぜ。ジー子がページをめくるたびに、執念深く同じことを繰り返すと、
「ヒモ男、気が散るからやめて」
と、ジー子は俺の顔も見ずに冷たく言い放ったので、俺はつまらなくなり、小さいままの体で本の中から飛び出して、机から降り、ドアの下をくぐって、ジー子の姉のイー子の部屋に向かったぜ。ドアの下の隙間から入ると、イー子が男と事におよんでいる声がしたので、何だよこっちもお取り込み中かよと、またドアの下から廊下に出ると、俺の体がシュッと空へ駆け上がり、大爆発を起こして、下町一帯を空から明るく照らしたぜ。小さな灰となった俺は、ひらひらと舞い落ちて、俺の世話を焼くのを生きがいにしているばあさんのダブリュ子の家の庭にたどり着いたぜ。水面に躍り出た池の鯉に食べられそうになったところ、鯉が勢いよく閉じた口から出た風にあおられて、蚊取り線香のほの赤い火が灯る縁側に来ると、朝顔の模様の浴衣を着たうら若き乙女のダブリュ子が、俺の肩に頭を乗せて、うっとりと空を見上げているぜ。花火よりも、ときどきその光に照らされるダブリュ子の表情の方が、艶めかしくて美しいぜ。こうやって一緒に歳を取っていくのもありかもな……なんてしみじみと思っていると、連続で打ち上げられた花火の一部が、俺たちの目の前で爆発したぜ。クリーム色の光に一切を奪われて、気がついたときには、俺の上に女王様姿の幼なじみのユリが乗っていたぜ。
「あちっ!」
「声を出すな」
ロウソクをポタポタと落としてくるユリは、楽しそうに俺をいじめるぜ。
「また声を出したら、承知しないからね」
両手両足を縛られている俺には、自由など存在しないんだぜ。へそに落ちてきたロウソクに「ひっ!」と声を上げると、
「黙れ!」
と、胸を鞭で打たれたぜ。打たれた瞬間、ユリがユリの母親のナデシコ子に変わったぜ。んっ? と思い、
「お、お母さんですか?」
と言うと、
「うるさいんだよ!」
と、やはりナデシ子の無駄に色っぽい声だったぜ。また鞭打たれると、ナデシ子はユリに戻ったぜ。その後も、鞭で打たれるたびに親子は入れ替わったぜ。訳が分からなくて眠りに落ちて目が覚めたら、俺の部屋にいて、いつもと何ひとつ変わらない朝だったぜ。だが、シャワーを浴びようと風呂に入ったら、鏡に映った俺の体には、ロウソクと鞭打ちの痕がたくさん残っていたぜ……。
(了)