映画 教育と愛国 2
前回に続いて、映画「教育と愛国」について思う事を取り上げます。
3. アベ・維新・「国歌」
作中に、2012年当時の大阪での教育再生シンポジウムの様子が出てきます。登場するのが、自民党が野党時代の安倍晋三氏(後の首相)と松井一郎大阪府知事(当時:現大阪市長/日本維新の会代表)。首長が教育委員会を直に操作できるようにしようという、大変恐ろしい事を彼らは喋っているのですが、それ以上に薄ら寒さを覚えたのが、この会議冒頭の国歌斉唱シーンでした。
国歌斉唱は、学校卒業式等でも組み込まれている事が多いですが、私はどうしてもあれを歌う気にはなれません。踏み込んだ言い方をすると、国歌の歌詞の意味や背景を自分で考えた事はありますか?と問いたいと思います。
さらに、突っ込んだ事を問います。オリンピックでは、金メダリストの出身国歌が表彰式で流れます。ですが、全てインストゥルメンタルのみで歌詞は一切出てきません。これはなぜか?あくまで私の解釈ですが、国歌の歌詞は各国の歴史的な事象や当時の国歌主観、特定の政治思想が入り込むのです。それが自分達は戦って勝ち取った栄誉だとしても、別の国にとっては侵略されて大勢殺戮された負の歴史だったりするのです。従って、国同士の衝突や紛争の火種を蒔かない様にしているんだと思います。ですから、国歌の扱いはもっと慎重であるべきですし、通達1本で学校行事に国歌斉唱を強制する等、とんでもない事だと思っています。
4. 表現の不自由展・その後
2019年8月、あいちトリエンナーレ「表現の不自由展・その後」が3日で中止に追い込まれる事件(9月末に条件付きで再開)が起きました。その2年後、大阪府の施設で不自由展の作品を集めたアート展が開催されました。ところが、府の施設管理者がいきなり許可を取り消して吉村洋文知事も同調。裁判で「使用取り消しは不当」と認定されて開催は実現できたものの、街宣車による脅し、脅迫文や爆竹等が相次いたシーンが作中に出てきます。
これは、公権力によって表現の自由が蝕まれた酷い出来事としか言いようがありません。名古屋の不自由展でも、少女像の展示に対しての脅迫電話が相次ぎ、スタッフの身に危険が及ぶ所まで来たため、やむなく中止になったわけですが、この脅迫に拍車をかけたのが河村たかし・名古屋市長でした。あいちトリエンナーレは愛知県と名古屋市の共同開催で、河村市長は主催者の一人です。その河村氏は「反日はけしからん!即刻撤去しろ!」という事を平然と言っています。もちろん作品を気に入る気に入らないはあってよいのですが、少女像を見てどう感じるかは千差万別なわけです。それを「反日」と決めつける事自体危険ですし、ましてや名古屋市長という公権力を持った人間が一方的に作品を排除する事は、憲法で保障する「表現の自由」「知る権利」を侵す事にほかならず、絶対あってはいけない事なのです。
その2年後の大阪でも、吉村洋文・大阪府知事のやっている事も河村市長とあまり変わらないと思いました。彼も、「街宣車が来る危険があるから中止させよう」という趣旨の事を言っていますが、それは行政の責任者として間違っているでしょう、と言わぜるを得ないです。公的な場であるからこそ、人権侵害でない限りは、思想信条に関係なく表現の場所を与えるのが原則で、主催者の身に危険が及ばない様に最大限の配慮をするのが行政の役割でしょう。これと逆の事をやってどうするのか?という疑問を強く覚えます。
公権力を握った人が、教科書の介入から始まって表現の自由を侵す事を平然とやる。こういう事は、暴力に行政が加担して、民主主義を壊す事になってしまいます。
5. マスクが拍車をかける
最後は、映画というよりも、小3の息子がいる父親としてどう考えるかという話です。
息子とその同級生は小学校入学した瞬間からマスク生活になっています。このマスク生活が、国家による教育への介入に一層拍車をかけているのではないか?と危惧しています。なお、ここでは教科書等の話は一旦脇に置きます。
マスクの弊害には、呼吸が浅くなる、鼻がもっているフィルターの機能が壊れるとか生理学的なダメージは当然ありますが、それ以上に顔を隠される事で、「表現する手段の一つを丸ごと奪われる」ダメージがあると思います。言語を発するのも、表情を発するのも口元なのです。ここが隠れていると、そこが伝わりにくくなります。加えて給食では黙食で対面禁止を強いられ、しかも場所によってはアクリル板で遮断される。こうした不自由な状態から解放しないと、「1億総スパイ社会」になりかねないと警鐘を鳴らしたいと思います。そうなってしまうと、国家権力による圧力が強まって、余計にモノの言えない社会になる危険性も否定できません。
そうなる前に、一人ひとりができる事はあります。また、学校で学んでいる子ども達には、勉強して知識を吸収しつつ、「この内容はどうなの?」といった批判的な思考をできる限り養ってほしいと強く思います。また、親としてもそれに対してできる事をやっていきたいと思います。
これ以上書くとネタバレみたいになりますので、詳細は映画を観に行って、各自で個々の解釈をしていって下さい。