循環取引―どうやって発見するか
不正は発見するのが難しいものですが、特に循環取引は困りものです。簡単には見つけられません。
監査法人で30年強、うち17年をパートナーとして勤めた「てりたま」です。
このnoteを開いていただき、ありがとうございます。
この記事を読みはじめていただいたということは、循環取引が何者なのかはご存知でしょうか? 一応、定義を押さえておきましょう。
要は、取引先と結託して、同じ商品をぐるぐる回して売上や利益を不正に計上することです。
必要な書類はすべてそろい、対価としてのお金も動かしていることが多いので、発見するのが実に難しい不正です。
今回は、果敢にもこの循環取引をいかに発見するか、という難問に取り組みます。
企業で内部統制を担当されている方々や監査人に向けた記事です。
循環取引をどうやって見つけるのか
私も長年監査をやってきましたので、人並みには不正会計に出会ってきました。
不正会計は、不正っぽい顔つきをしていません。
すました顔をして、ほかの取引に紛れています。
それはそのはずで、不正実行者は不正と分かってやっていることがほとんど。しかも発覚すると犯罪者となり、会社での人生も終わることを分かってやっています。
死に物狂いで隠蔽工作をやります。
「不正なんて、まあないでしょ」なんて軽い気持ちで見に行っても、見つかるわけがありません。
そもそも「このチェックをやれば見つかる」「この監査手続で一網打尽」という決定打は、循環取引についてはありません。
では、どうするか?
循環取引は、必ず社外の共謀先がいます。
また、一旦はじめると止められなくなり、長年継続するのも特徴です。
いくら必至で隠蔽しても、隠しきれないことがあります。
その「しっぽ」(端緒)を確実に見つけ出してしとめるのです。
そのために必要なこと、一つ目は、循環取引の特徴と、その「しっぽ」の特徴を知り尽くすこと。
以下で3つに区分して特徴をリストしますので、頭に入れましょう。
❶ 循環取引を可能にする環境
❷ 循環取引でないかと疑うべき取引
❸ 財務数値への影響
そして二つ目は、自分の担当領域で万一循環取引をしやがったら、絶対に見逃さないという覚悟です。
それでは、覚悟はいいですか?
❶ 循環取引を可能にする環境
環境によって、循環取引が起こりやすくなります。
このような環境下で、循環取引は必ず発生するとは言えませんが、不正のトライアングルで言う「機会」は用意されている状況。あと「動機」と「正当化」がそろえば不正のリスクは極めて高くなります。
商品・取引・業界の特徴
循環取引は、一部の業界でよく起こります。
それら業界に共通する特徴があります。
自社で製造した製品ではなく、他社から仕入れた商品が多い
劣化や陳腐化しない商品、冷凍食品など保存性の高い商品がある
販売しているのは技術やソフトウェア、サービスなど現物がない無形のもので、その価値を客観的に判断することが難しい
直送取引、仲介取引、倉庫での名義変更取引(物は動かさず、所有権だけ移転させる)など書類のやり取りのみで完結する取引がある
同業他社から仕入れ、同業他社に販売する取引がある
当社と取引先のいずれかが圧倒的な優越的地位にある
拠点・部門の特徴
循環取引に限りませんが、不正は監視の目が届きにくく、比較的少人数で管理されているところでよく発生します。
小規模な拠点・子会社
新規事業
主力以外の事業
担当者の特徴
担当者の置かれた状況に問題があることも。
営業担当者が、購買業務(仕入先選定、商品発注など)に関与している
同一の担当者が長期間担当している(ローテーションの仕組みがない)
❷ 循環取引でないかと疑うべき取引
上記のような環境のところでは、怪しい取引が起こりやすくなります。
どんな取引が「怪しい」のでしょうか?
取引先が怪しい
通常想定されない取引先から仕入れている(例えば、リース会社からの業務用ソフトウェア購入)
エンドユーザーまで複数の会社が介在し、エンドユーザーが分かりづらい
一連の取引参加者に、代表者や住所が同じ者がいる
特定の取引先に対する取引量、取引金額が急に増加している(または年々伸びている)
取引に関与した経緯が怪しい
当社がどのような付加価値をつけているのか判然としない
同業他社から仕入れたものを同業他社に販売しており、当社がその間に入る必然性がない
仕入先と販売先があらかじめ決まっているにもかかわらず、要請されてその間に入っている
取引の特徴が怪しい
取引名が「○○一式」、「○○追加取引」等となっていて、詳細が記載されていない
特定商品の取引量、取引金額が急に増加する(または年々伸びている)
ロットナンバー、製造番号などが同一の取引が幾つもある
一つのプロジェクトにおいて(通常は、ある程度の社内人件費がかかるにもかかわらず)、原価の内容のほとんどが外注費で、しかも特定の外注先に対するもの
社内の取り扱いが怪しい
「秘匿性あり」や「業界慣行」等を理由として、一部の担当者しか関与していない
特定の限られた役職員以外に、取引内容を理解している者がいない
社長、役員、部長、所長等の役職者または経験年数が長いベテランが担当している
❸ 財務数値への影響
循環取引は、継続するうちに金額が膨らむ傾向にあります。
それにつれて財務数値全体への影響も大きくなります。
売上・仕入・経費取引
他の取引と比較して、取引金額が大きい、または取引頻度が高い
直近1年での増減分析では重要な増減なくても、過去複数年の推移を確認すると取引規模が急拡大している
特定の担当者や特定部門の売上が短期間で大きく伸びている、または年々増加している
売掛金・買掛金
売掛金や在庫が滞留しているにもかかわらず、仕入れが継続している
業界慣行等と照らして不自然な決済条件、急な決済条件の変更、入金遅延、一部入金処理の継続
伸びた売上に対する売掛金の回収サイトが、他の売掛金より長期である
買掛金の支払サイトに比べ、売掛金の回収サイトが異常に長い
新規取引の開始からしばらくの間、売上の拡大に与信枠の拡大が追いついていない
棚卸資産
一般的な市場価格または販売可能価格と比較して原価が高い在庫が存在している
在庫の原価付け替えや単価修正が行われているが、それがなければ高単価になっていた
利益率
従来の取引に比して利益率が極めて低い
参考資料
「循環取引に対応する内部統制に関する共同研究報告」監査役協会、内部監査協会、日本公認会計士協会(2024年4月8日)
監査基準報告書240 研究文書第1号「テクノロジーを活用した循環取引 への対応 に関する研究文書」日本公認会計士協会 監査・保証基準委員会(2024年4月8日)
会長通牒平成 23 年第3号「循環取引等不適切な会計処理への監査上の対応等について」日本公認会計士協会(2011年9月15日)
おわりに
「参考資料」で3つ挙げましたが、その背景には過去の不正実行者、企業の責任者、監査人の累々たる屍があります。投資家もいるかもしれません。
循環取引は見つけにくいんです、では世の中は通らないので、対策として作成されたものです。
切れば血が出るような参考資料に挙げられている特徴や事例を私の視点で分類しなおしたものが上記のリストです。
うーん、これを見ても「自分が監査したら絶対に見つける」という自信はないですね…
できることはこれを頭に叩き込んで、端緒があれば見逃さないという覚悟をもって内部統制に、そして監査にあたることほかありません。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。
てりたま