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労働学生日記(1週目)

月曜日

前日の嵐で、乗る予定だった電車がキャンセルになっていた。駅に着いてから知る。

窓口に行く。

「そうやねん。この電車はキャンセルやから次のに乗って!座席は乗ってから聞いてな」

立ちっぱなしのままホームで40分持つ。
リュックが重い。

この時点で、クラスに間に合うかわからない。
あえて1時間以上前に着く電車を予約していたが、初日から遅刻だろうか。
早くもくじけそうになる。
仕方がないので、ボカディージョを食べる。

駅に着いた。小走りで学校に向かう。
ホグワーツのような学校は迷宮のようで、教室がわからずに迷う。
通りかかった人に聞いたら、その人も人類学の学生だった。一緒に迷う。
ようやくたどり着くと、教室の前にクラスメートになるであろう人たちがいた。

教授がやってきて、クラスが始まった。
オリエンテーションの後に、簡単な自己紹介をした。
どうやらアジア人は私1人のようだ。

早速、グループ課題が出る。
来週はグループごとに発表をするという。


帰りは電車が1時間遅れてやってきた。
仕方がないので、バナナブレッドを食べる。

帰宅したのは夜の11時半だった。


火曜日

時間通りに学校に着いた。
学校のベンチでボカディージョを食べる。

「〇〇町から電車通学なんて信じられない」

4、5人からそう言われ、やっぱり無謀なんだろうかと考える。
まあそうはいってもなあと思い、紅茶を飲む。

火曜日の先生は面白そうだ。
なぜか私の住んでいる町が話に出てきたものだから、気持ちが大変に高ぶった。
興奮したまま後先考えずに手を挙げてしまい、自分が最近経験したことを思いつくままにしゃべってしまった。

クラスメートはスペイン人がほとんどだ。
ほかにはラテンアメリカから来ている人たちが数人いるが、皆スペイン語ネイティブだ。そんな中で、アジア人の私はいろんな意味で大変に浮いている。

学生の大部分は、大学からストレートで大学院に来た人たちのようだ。
昭和生まれがもしかすると数人いるかなという気がしている。

帰りの電車はまた1時間遅れてきた。
どうにかならないものかと、11時前に駅に着いた私は思う。
私の持っていたチケットは1号車のものだったが、来た電車は、なぜか5~9号車と表示されていた。座席の番号を頼りに自分の席を探す。

しょうがないから、帰ってから甘酒を飲んだ。

水曜日

疲れがたまってきた。
月曜日と火曜日の課題を読み始める。

学校に着いたら、煮豚のボカディージョを食べるのが日課になりつつある。

今日はカンフェレンスとやらがあり、集中力を保つのに苦労した。
でも、予定より少し早く終わったので喜ぶ。

帰りに迷いかけて、どこに行くのかとほかの学生に心配される。

授業はというと、トピックと先生の話すスピードによって内容が大体わかるときと、何の話だねこれはというときがある。今日は後者だった。
スペイン語が母国語の学生が「もう少しゆっくり話してほしい」と先生にお願いしていたので、ほっとする。


来週の月曜日は、グループの代表がプレゼンをしなければならない。

「僕やってもいいよ!」

グループの1人が言った。

心強いじゃないか!

私たちグループが担当する論文は英語で書かれていた。
その男性ともう1人のメンバーはスペイン人だ。

事前打ち合わせをいつするかという話をしていたときに、
彼らが論文を機械翻訳にかけて読んでいると聞いた。

「英語わからんし」

それを聞いて、覚悟を決めた。

「では、今回は私が発表してもいいですか。まだスペイン語よりは理解できると思いますから。ただ、発表はスペイン語でやるから、そこのところは助けてください!!」

2人がいいよと言ったので、安心する。

土曜日、3人でオンライン打ち合わせをすることになった。

帰り、電車が初めて時間通りに来た。

木曜日

朝からとても疲れている。
通学の疲れが出てきたのだろうか。

バランスパワーと葛根湯の力を借りる。

この日もカンフェレンスだった。
内容も内容だったせいか、笑ってしまうぐらいに何も頭に入ってこなかった。

この日の宿題は、カンフェレンスの内容をまとめて、それがコースとどう関係があるのかを自分なりに分析して提出するというものだ。内容がわからないときはどうするのかな?と思う。録音したデータをもう一度聞くしかないか。

それにしても、毎日の宿題が多すぎる。

昨日は、若者たち学生で親睦会をやったようだ。私も一応誘われたが、電車に遅れてはいけないため参加していない。

親睦会で皆仲良くなったのか、今日はグループができはじめていた。
私はさらに浮き始めているようだ。

なんとなく、アジア人に対するちょっとしたラベル付けのようなものがあるのだろうかと考えたりもする。私が話しかけると皆答えるが、自ら私に話しかけてくる人というのは、そんなにいない。


自分なりに考えてみると、
・アジアから来ていること
・外国人だが、留学生という立場ではなく、〇〇町に住んでいるため、めちゃくちゃながらもこてこてのスペイン語を話すこと
・昭和生まれであり、仕事をしていること

こんな理由から、向こうは向こうで私にどう接していいかわからないのかもしれない。

ヨーロッパ出身でスペイン語が私と同じぐらいのレベルの学生がいる。限りなく静かな人だが、クラスメートたちはその学生に話しかける。不思議な現象だ。

まあ、これもまた人類学ではないか。
引き続き観察を続けたい。

スペインに長年住んでいたアジア系アメリカ人の友人に話すと、こう言った。

「簡単なことよ。あなたがアジア人だからよ。もう1人の外国人は白人でしょう?」


私自身、今のところよくわからない。
ひとまず様子を見よう。

まあ、友達を作りにいっているわけではないのだから。
そう言い聞かせながら、今日もボカディージョを食べる。


この日、おそらく昭和生まれであろう学生と話す機会があった。
中学校の先生をしながらこの修士をやっているらしい。
労働学生は大変だという話で、お互いを慰めあう。

「でも、あなたとっても勇気があるわ」

そんなことを言われ、喜んでいいのかどうかわからないでいる。

金曜日

ようやく1週目が終わる。
ボカディージョを食べ、何とか生存していることを喜ぶ。

今日は自己紹介もなかった。
久しぶりの座学。
先生がしゃべりまくる。

途中で日本の話が出てきた。
日本代表としてここは是非自分なりの意見を言いたかったが、昨日の疲れもあり、えい!の気持ちがでなかった。

今日の宿題はないようだ。
ほっとして、帰り路を急ぐ。


土曜日

グループの2人とオンライン打ち合わせ。

男性はビーチから参加してきた。
カルロスと呼ぶことにする。

ウィンクをしながら笑顔で話す彼は、女子をビーチで待たせているようだ。

30分の打ち合わせが1時間になったが、グループできちんと話せてよかった。

意見のすり合わせを行い、私が要旨を書くことになった。
打ち合わせ中、シェアスクリーンにして、原稿に直接タイプし始めた。

「あの、めっちゃスペルミスあるけど、それそのまま出すの?」

もう1人の学生が私に聞いた。彼女も昭和生まれの学生だ。とても親切で、私に優しい。名前をロシオとする。

「まさか!後でちゃんと整理して、出す前にあなたたちに見てもらいますよ!おかしなスペイン語があったらなおしてくださいよ。そして、プレゼンのとき、もし私が迷子になってたら助けてください!」

ロシオ「もちろんよ!」

カルロス「君を1人にするわけがないじゃないか!」


カルロスは、女の子が怒る前に海に戻りたいようだ。
ミーティングはよくわからないところで終了となった。

でも、このグループなら大丈夫だな。
そう思う私がいる。
この人たちは、私をジャッジしない。
それがわかっただけでもよかった。

3人とも大学で人類学を専攻していなかったため、自分たちの発表内容がどう評価されるかわからない、というこわい事実を除いては。

日曜日

ほかの曜日の課題をひーひー言いながらやる。
グループとしてまとめた文書を先生に提出する。

昼前に、ロバに会いに行った。
今週はほとんど料理をしていない。
夫にまかせきりだ。

小雨がぱらついていたけれど、ロバたちは待っていてくれた。

にんじんに向かってまっすぐ駆けてくる姿を見ていたら、
ああそうか、少しずつ、ひとつずつでいいんだなと思った。
ロバはすごい。

すっかり癒されて帰ってきた。


癒しの君


家の前で、下の階のぺパに会った。
Virgen del Rocíoのネックレスをしていたので、わあ、かわいい!と興奮する。

10分後、ぺパがピンポンと部屋のベルを鳴らした。

「これ、あなたに持っててもらうことにしたわ。ビルヘンがそう言っているから」

そう言って、ぺパは自分の大事なネックレスを私の首にかけてくれた。


「大学の勉強は大変だろうけど、ロシオが守ってくれますように」

そう言って、ぺパは私を抱きしめた。


なんて私は幸せものなんだろうなあと思いながら、ぺパをぎゅうと抱きしめた。

ロバとぺパに癒された朝。



週末ぐらいはちゃんと食べようと思い、イワシをオーブンへ放り込む。

正直、クリスマスまで学校を続けられるか不安に感じてもいる。
でも、夢だったんだものなあ勉強するの。

だから、とりあえず来週がんばってみようと思う。
がんばるというか、自分のペースでできることをひとつずつ。

にゃー!

今日は甘酒を飲みながら。


今日もありがとうございました。

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