
猿若祭二月大歌舞伎『壇浦兜軍記<阿古屋>』『江島生島』『人情噺文七元結』*いろんな着物を見たけど、小紋が多かった
千秋楽の昼の部は、スタンティングオベーションだったと教えてもらった。その興奮が残る、夜の部はどの階も和服姿がいっぱい。まだ、冬のお色目でした。

『壇浦兜軍記<阿古屋>』
平家の武将・景清の行方を探す岩永左衛門(人形振り)は、景清の愛人、遊君阿古屋を拷問にかけようとする。秩父庄司重忠(菊之助丈)は琴、三味線、胡弓を持ち出し「言葉に偽りがあれば、音色が乱れるはずだ」と阿古屋に演奏させるのだ。白い衣裳の菊之助丈は美しく、どんどん、膨張していくように見えた。役者のスケールが大きくなる様とはこんな風か?
三階席はずらり、オペラグラス。花道の出「いっそ殺して」が指先しか見えず、ウッとなっている間に、舞台のやや、下手で阿古屋が袖で口元を隠し、濡らした指にお琴の爪をつけ、スッと手をのせて弾き始めた。景清との出会いのエピソードそのものも「お寺に通う景清と顔見知りになった」とかで、自然な流れ。
気負いがないまま、三味線『班女』となり、太夫座の上に現れた(現実の)杵屋勝四郎さんとの演奏が始まる。
孔雀の羽の一枚一枚がパッチーワークになったような厚みのある帯なので、三味線は帯にもたれ、撥も寝かせて弾いているのだけれど、オペラグラスで見た玉三郎丈の左手の動きには「ハジキ」も「裏ハジキ」もあって、カルチャーで三味線を習っている私は「ああ、玉三郎さんがあんなに大きな曲げをつけて、私と同じことをやっている」と落ち着かない。
やがて、胡弓の、とても、静かな部分……。この南座の時のプロモーション動画の冒頭のような静かな雰囲気の中、悲しげな音が客席を支配し、そして。
私は胡弓の音を阿古屋のモノローグなのだと確信した。よく、探偵もののドラマなんかで犯人や探偵がナレーションでつぶやく、心の声だ。「景清は?」と問われれば、問われるほど、募る「会いたさ」を玉三郎丈は鼓弓の音を使って客席に伝えている。曲は「相ノ山」。竹本の三味線(豊澤淳一郎、豊澤長一郎、豊澤岬輔)の音も素晴らしかった。
『江島生島』
山村座の歌舞伎役者・生島新五郎(菊之助丈)が三宅島に流罪になってからの話。うらぶれた姿がたまらん。旅の商人・萬太郎丈も情緒があって良い。
『人情噺文七元結』
勘九郎丈の長兵衛は暴力的というか、やさぐれたところがあって「人の命は、カネに替えられぬ」というテーマを力づくで納得させようする。そんなだから、後の場面で女房のお兼が怒れば怒るほど、涙がこみ上げてくる。なかなか、おもしろかった。
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