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十一月歌舞伎座特別公演『ようこそ歌舞伎座へ』*和服姿と外国人、客席に多いのはどっち?

カルチャーで三味線を習っている私は『勧進帳』の盛り上がりに味をしめ、テッパンの長唄の曲『石橋』を観に行った。思いおこせば、私が初めて国立劇場に行った日、前の先生が舞台で弾いていた曲である。中国の清涼山という山にかかる橋を渡ろうとすると、獅子の精が現れて通せんぼする。毛振りをやる曲だと先生は教えてくださった。その『石橋』なのである。

今回は長唄連中がふた手に別れていたので、ウソみたいによく見えた。撥を握る手首が直角に曲がった内側を見られるなんて、信じられない。自分の腕でしか見たことが無い。トレモロもやっていた。おかげで、私もできるようになった。立て三味線(長唄連中のリーダー役で、大薩摩の独奏をやる)はどっしりした山のようであった。

ところが、松緑丈を乗せた石橋のセットがセリから上がってくると、白獅子の美しさに心を奪われてしまった。松緑丈の舞いは緩急があり、要所要所でグッ、グッとキマル。

イヤフォンガイドも催しの主旨に沿ってか、長唄の曲ならではの特徴・聴きどころ(唄がお休みして、三味線だけになる「合方」など)がさりげなく、説明に加えられていた。

これは舞いについてのガイドの解説ではあるが、

「獅子の足元をご覧下さい。親指の先が上向きに反っているのは、抑え切れないエネルギーの現れです」とあった。アニメの『ドラゴンボール』で例えれば、胸の筋肉が盛り上がり、血管が太く浮き出てくるような場面である。そのように解説されているのに、自分の足だけ、そのようになっていなかったら、絶対にイヤだわ。と、日頃、「こんなもんでいいか」となりがちな次女の私はすくみ上がってしまった。

それ以上に感じ入るのは二幕『三人吉三巴白浪 大川端の場』の左近くんである。楽日の今、彼はどんな気持ちでいるのだろうと、憶するに

左近くんのインスタには「悔しさばかりの日々」とある。くぅ〜。泣かせるじゃないか!

邪心のないところが左近くんの魅力だと私は思っているが、ザ・ニューヨークタイムズ・スタイル・マガジンの「令和を駆ける“かぶき者“たち」のロングインタビューで、左近くんは幕開け三日目の心境を如実に語っている。

ちなみに、インタビューの文中にもある「歌舞伎役者が己以上に観客を酔わせる」台詞まわしについて、評論家の渡辺保氏は、氏の公式ホームページ上で「お坊吉三役・歌昇の、『駕篭に揺られてトロトロ』の低音」をあげていた。

一方、お嬢吉三のキメ台詞はといえば、一人語りで、やや、唐突なワンアクション後に始まる。受け止める客の側も難易度が高く、台詞が流れてしまった。左近くんは観客と息を合わせれば良いわけで、そういうのは勘九郎丈が得意だ。勘九郎丈は台詞の前に不自然なくらい、タメをつくる。また、皆さんがおっしゃるように小さな劇場の方が観客と息を合わせやすい。客席は「良い気分」になりたくて座っているのだから、年若い左近くんに「力を貸したい」と思っているはずだ。

正解はいつでも、目の前にあるのだ。

舞台では、アイドル並みに顔の小さいお嬢吉三が、男の正体を現す度、客席からどよめきが湧き、話が進むにしたがって、雰囲気もよくなっていった。(左近くんがワルイ顔になっていった)

さて、インスタ等で話題の一幕『ようこそ歌舞伎座へ』中の撮影タイムについてだが、虎之介丈は司会の立ち位置で、あっけなく、終わってしまった。

ただ、「歌舞伎に来られて良かったな。幸せだなと思ってくれたら嬉しい」と、若い男性が「幸せ」という言葉を使うのが印象深かった。

確かに、幸せな気分。あそこは夢の世界なのだ。

そして、これが通訳で話題の音蔵さん。


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