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「マンガの原理」(大場渉・入江亜季・森薫・著)の感想
桜玉吉先生の漫玉日記シリーズにも登場していたオーバ君こと大場渉氏の著ということで、読ませて頂きました。
パッと見の文字の多さに「うっ」となってしまいましたが、決して難しい専門用語や思想を語った本ではありませんでした。読んでみると、非常にわかりやすい表現で、マンガはどうあるべきなのか、マンガの原理をわかりやすく言語化して綴られています。序盤はわりと入門的なコマ割りの話で、余裕しゃくしゃくと読んでいたんですが、だんだん「プロってこんなに難しいことを考えてるのか…」「自分にはできない」と完全に気後れしてしまうほど、途方もない情報量かつ濃密な内容になってきます。しかし、先述の通り、難しい言葉は使っていないので、共感しながら、さまざまな学びを得ることができました。
誤解を恐れずに言うと、これはある意味大場氏流の漫画制作のマニュアルといえるかも知れません。自分は、「面白い漫画を描くためのコツを言語化するのは難しいからバランス感覚が重要としか言いようがない」と思っていましたが、そう言わずに、極めて実直に言語化してまとめたものが本書だと思います。その熱量に圧倒されます。決して押し付けがましい内容ではありませんが、辛口に感じる方もいらっしゃると思います。本書の中でも大場氏は過保護な担当さんだったという記述があり、まさに作家さんに対して世話好きで厳しい、そんな内容です。入江亜季先生と森薫先生の観点からも綴られており、編集者視点、作家視点双方による内容となっており、「編集者さんだからそう言うけど、作家さんの立場に立ってない」「作家さんだからそう言うけど、編集者さんはそうは思わないでしょ」ということがないです。また、連載についても書かれてはいますが、基本的に読み切り作品や1話目を書く際の話が大半なので、自分のような新人作家にとっては大変参考になります。ぜひ実際に読んで確かめて頂きたいので、内容については深くは言及しないでおきます。
つい、漫画家さんの仕事ってこんなに厳しいのか…と途方に暮れてしまい、漫画は楽しく描いたほうが良い、というのは考え方の1つでしかなかったのか?とまで思ってしまったんですが、森薫先生からのコメントで「漫画は楽しく描くものです」との旨綴られていました。やはり、この認識は誰もが共通で持っていらっしゃるようです。例えるなら、早朝から準備して麺を打っている麵職人さんが「麺は楽しく打とう」と言っているかのような、とてつもないハードルの高さを感じてしまうのですが、恐らくそういうことです。自分のことで恐縮ですが、自分は負担なく描くため、とにかく無理しないよう心がけています。それでも、3か月に1作ペースは早いと感じる方もいらっしゃるかも知れません。森薫先生も「最初から完璧にできる人はいません」と仰っていますが、少しずつペースやクオリティを上げてプロに近づいていって、最終的には、麺は楽しく打ってしまおう、ということなのかなと思いました。
まぁ、あくまでも商業誌の話ですし、この本が正解ということはないとは思うのですが、他誌さんのことや過去の漫画技法書のことも公平に扱っています。例えば、「鳥山明のヘタッピマンガ研究所」のことも引用されている点に、公平さや真剣さを感じました。漫画を描かれている方は、読まないよりは読んだ方が絶対に良いと強く思います。