見出し画像

哲学者であり、同時にアナルコ・ギタリストとしても活躍する森元斎さんが、ウチガタリ・ユニット「点線」の1stミニアルバム『ちいさな』に向け強力なテキストをお贈りくださいました!

哲学者・長崎大学多文化社会学部准教授として多数の刺激的な論考を発表し続ける一方、アナルコ・ギタリストとして微炭酸、長崎製糞社などでも活動される森元斎さんが、点線 1st ミニアルバム『ちいさな』に向けた強力なテキストをお贈りくださいました。

以下、全文を公開させていただきます。ぜひ最後までお読みください。


点線について
森元斎

点線という名前には創造的な妄想が膨らむ。理念的な点を無限小として捉え、微分を考案したライプニッツがいるかと思えば、ヘルマン・コーエンやザロモン・マイモンといった隠れた偉大な哲学者も、全ての出発点としての点を唱えていたし、私の好きなドゥルーズはこれらの議論から影響を受けて、生成を語ろうとした。はたまたニュートン物理学の前提としてのユークリッド幾何学における点・線(・面)だけでなく、ロバイ=ボヤチェフスキー空間やミンコフスキー空間、はたまたリーマン幾何における点・線(・面)だって想起してしまう。ここではそんなことを書きたいわけではない。しかし知る前と知った後、あるいは聴く前と聴いた後は、あたかもライプニッツからドゥルーズへ、ユークリッドからリーマンへと、景色が変わるのがわかる、そんなことを少し書きたい。
 それは「ちいさな」という曲だった。聴くだけでなく、この曲の背景を仄聞してしまったが故に、この曲の「ちいさな」重みを知った。背景そのものについては触れまい。しかし、音楽を聴くからには、その背景を各人で前傾化し、各人が背負って聴いてもいいはずだ。私が彼/彼女だったかもしれない事件ばかりが起こる。それは犯罪者の場合だったかもしれないし、被害者だったかもしれない。「私とは一人の他者である」といったのは、アルチュール・ランボーであるが、私は私でもあり、かつあなたでもある。あなたもそうだ。じゃぁ、どうするべきなのか。
「踏まれた記憶を縫い直すよ」というリリックではじまる「あなたに」を聴いた瞬間、私は、あるいはあなたは「自身を救助しよう」という詩人冨永太郎の言葉が想起された。これは私の最近の「ちいさな」テーマである。音と言葉はどこに届くかわからない不思議さがある。意図せざる解釈もされるだろうし、創造的な妄想を膨らませてくれるかもしれない。もちろん、どこになにが届くかはわからない。そう、突然「出来事」は実現するのだ。「No Reason 訳はないの」。これに尽きる。縫い直し、救助した先には「きっと全部大丈夫 きっと全部うまくいく」。大体のことは、いつだってそうだったじゃないか。これはもう、真理である。
昨今の日本語環境で耳にするタマでも食って作ったようなライブで再現できなさそうな楽曲はあまり好きではない。怖くて悲しくて優しい音楽が私は好きである。だって、それが私たちの「ちいさな」身の回りのリアルだから。「ちいさな」景色は実のところ無限に生成してゆく。点線という名前には創造的な妄想ばかり膨らむ。

点線1stミニアルバム『ちいさな』

〇点線の1stミニアルバム『ちいさな』は下記リンクで。


森元斎(もり・もとなお(げんさい))


1983年東京生まれ。大阪大学大学院人間科学研究科修了。博士(人間科学)。長崎大学多文化社会学部准教授。専門は哲学・思想史。著書に『具体性の哲学』(以文社、2015年)、『アナキズム入門』(ちくま新書、2017年)、『国道3号線』(共和国、2020年)、『もう革命しかないもんね』(晶文社、2021年)など。

森元斎(もり・もとなお(げんさい))


アナルコ・ギタリスト。大学教員を辞めたくて、最近は昔やっていたバンドを復活させた。こじらせてるアラフォー。上京してメジャーデビューを夢見る39歳。最近の口癖は、「俺ら東京さ行くだ」。

『アナキズム入門』(ちくま新書)
『もう革命しかないもんね』(晶文社)
『国道3号線』(共和国)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?