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ひやし飴は飴なのか

誰もが人生で1度は遭遇するであろう、ご当地グルメに関する話題。関西に馴染みのあるメンバーが多い弊社では先日『ひやし飴』というものが話題にあがった。関西の方では「お盆に祖父母の家にいくと必ず勧められたあの一杯」らしいが、生粋の浜っ子であり、生まれてこのかた横浜から出たこともない私は、飲んだことは勿論、聞いたこともさらさらなかった。
冷やした飴?そもそも、あったかい飴なんてない。

これは飴…なのか?

異様にレトロに彩られている、飴を名乗る何か。ひやし飴というか溶かし飴なのでは?ちょっと雑に貼られた注意書きシールには、円形にぐるぐるとお客様窓口やらが記述されているが、どこから読み始めるのかさっぱり分からない。別の味のひやし飴のフタには『賞味期限:フタに記載』と書いてある始末。初めて見るひやし飴は、ちょっと腑抜けた飲み物だった。

だがしかし、ひやし飴はただの腑抜けではない。
最近の世の中では『あざとい』がそれはそれは人気で、あざといタレントを見ては日々打ちのめされている私だが、どうやら彼らの持つ抜け感は愛されるための1テクニックに過ぎないらしい(何の話)。要するに、ひやし飴の抜け感も愛されるための1テクニックであるはずと私は言いたいのだ。

ひやし飴はその抜け感を放つ一方で、ちゃっかり、冷蔵庫に入れても邪魔にならない、関東でいう?ヤクルト的立ち位置を冷蔵庫の中で確立できるサイズ感を持っていたりする。だから、お盆に祖父母の冷蔵庫からとめどなく出てくるスイーツやアイス、お菓子の数々に埋もれながらも、さりげなくそこに陣を勝ち得ているのだ。さらに、ひやし飴は冬になると『あめ湯』というものを名乗り始め、夏にはしょうがの爽やかな清涼感によって暑さで疲れた体を癒し、冬にはこの蜜を湯で割り人々の冷え切った体を芯から温めるようになる。だから、あの瓶カップはおばあちゃんの家にある湯呑みみたいな形を成しているのか。こんなふうに、ひやし飴はただただ抜けているだけではない。これは、冷蔵庫や季節、人々の懐にちょこまかと入り込み、しっかりユーザーに愛されるための計算をした結果の立ち回りなのだ。あざとい恐るべし。

ただ、そんなひやし飴の味は、全くもって愛らしくも可愛いくもなかった。ジンジャーエールの原液か何かかと思うほどに衝撃的な味。なんだか体がカーッと熱くなってくる感じ。これはさらさら甘味ではなく栄養ドリンクなど薬の部類に違いない。絶対にそうだ。実際しょうがには殺菌作用、食欲増進や血行を良くしてくれる効果があるらしい。飴…これは飴でないのではないか?もう少し深くそれについて調べてみたら、そもそもひやし飴の中には砂糖不使用のものもあるという衝撃。

それでお前は飴と言えるのか…?

答えは明快で、「飴が使われてもいないのに飴は名乗れない」。と明言したいのは山々なのだが、関西に1秒も籍を置いたことがない私が、そちらで勢力をはなつひやし飴に盾つけるわけもないし、自分がひやし飴だというのならそれはひやし飴でしかないのであって。1つ言えるのは私たちが『ネーミング』というものに、日々どれだけ信頼を置き、時にひどく惑わされているかということ。この記事を読むまで『ひやし飴には砂糖が使われていない(場合がある)』なんて誰が気がつけただろうか。そこに置いてある木の丸太を私がテーブルだと言えばテーブルであり、椅子だと言えば椅子なのだ。それと同じなのだ。となると、やはりこの世の中は「言うも言わぬも自分次第」。ひやし飴だと言うのなら、それはひやし飴。言霊の真意もきっとらこういうことなのだろう。

ということですので。これからも私は誰になんと言われなくても、UXデザイナーを名乗るのであって。ついでにフードエッセイストも名乗ってみたりするのであって。そうすればそのうち、世界が自ずと私が何たるかを分かるはず。そういうものであるらしいということです。

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