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鉄分不足を甘く見るな!

アスリートにとって、鉄は酸素を運搬しエネルギー代謝を促す非常に重要なミネラルです。

特に持久系スポーツを行う選手や女性アスリートには、鉄欠乏のリスクが高く、パフォーマンスにも大きく影響を及ぼします。

体内の鉄が不足すると、疲労感や倦怠感が増し、競技の成績も低下する可能性があります。

今日紹介する論文は、2019年に発表されたIron considerations for the athlete: a narrative reviewという論文です。


鉄欠乏の臨床評価

臨床評価として、Peelingら(2007年)は、アスリートに対して次のような段階で鉄欠乏を評価することを提案しています:

ステージ 1 - 鉄欠乏症 (ID):骨髄、肝臓、脾臓の鉄貯蔵量が枯渇(フェリチン < 35 μg/L、Hb > 115 g/L、トランスフェリン飽和度 > 16%)。
ステージ 2 - 鉄欠乏性非貧血 (IDNA):赤血球骨髄への鉄供給量が減少し、赤血球生成が減少(フェリチン < 20 μg/L、Hb > 115 g/L、トランスフェリン飽和度 < 16%)。
ステージ 3 - 鉄欠乏性貧血 (IDA):Hb産生が低下し、貧血(フェリチン < 12 μg/L、Hb < 115 g/L、トランスフェリン飽和度 < 16%)。

難しいと感じるかもしれませんが、覚えなくても問題ありません。

今回覚えておいていただきたいのは「フェリチン」という言葉です。本論文では重要な指標となる値です。


フェリチンとは?

フェリチンとは、体内で鉄を貯蔵する役割を持つ可溶性のタンパク質であり、体内の鉄の貯蔵状態を反映します。

フェリチン値が低下すると、疲れやすさ、冷え性、頭痛、立ちくらみなどの症状が現れることがあります。
これらは「隠れ貧血」と呼ばれ、通常の血液検査では見逃されがちです。

鉄分不足が気になる方は、フェリチン値の測定と、必要に応じた鉄補給が推奨されます。

鉄欠乏によるパフォーマンスの低下

鉄欠乏がある場合、酸素運搬能力が低下し、持久力が求められるスポーツでの成績に悪影響が出ることが確認されています。

例えば、フェリチン値が20μg/L未満の女性ボート選手は、貧血状態を改善することによって、21秒タイムが短縮したと報告されています。

このように、鉄分が不足することで、日々のトレーニングから得られる効果も減少し、パフォーマンスの維持が難しくなるのです。

鉄分の補給方法と推奨量

鉄分不足を防ぐためには、日常的な鉄の補給が重要です。

一般的な推奨量として、鉄欠乏リスクのあるアスリートには、毎日100mgの鉄サプリメントを摂取することが推奨されています。

あまりいないと思いますが、高地トレーニングを行う場合には、210mgの鉄を補給することで適応能力が向上することが示唆されています。

ただし、これらの量は個人差があるため、すべてのアスリートに当てはまるわけではありません。

鉄の過剰摂取に関する注意点

鉄分は不足するとパフォーマンスに影響を与えますが、過剰に摂取することも健康に悪影響を及ぼす可能性があります。

鉄分の過剰摂取は消化不良や肝臓への負担を引き起こす可能性があり、場合によっては深刻な健康リスクを伴います。

そのため、鉄サプリメントの摂取を検討する際は、必ず医師に相談し、自分に適した量を摂取するようにしましょう。


鉄分のモニタリングと維持

アスリートが最適なパフォーマンスを維持するためには、定期的な鉄分のモニタリングが推奨されます。

リスクの少ない選手であれば年に1回の検査で十分ですが、鉄欠乏リスクの高いアスリートには四半期ごとのモニタリングが推奨されています。

これにより、鉄欠乏が進行する前に早期に対応し、適切なサプリメントや食事でパフォーマンスの低下を防ぐことが可能です。

まとめ

鉄分はアスリートにとって欠かせない栄養素であり、その不足は競技成績や健康状態に大きく影響します。

定期的な鉄分のモニタリングを行い、適切なサプリメントや食事で鉄分の補給を続けましょう。

ただし、過剰摂取のリスクもあるため、必ず医師と相談のうえで適切な摂取量を守ることが重要です。

参考論文

Sim M, Garvican-Lewis LA, Cox GR, Govus A, McKay AKA, Stellingwerff T, Peeling P. Iron considerations for the athlete: a narrative review. Eur J Appl Physiol. 2019 Jul;119(7):1463-1478.

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