踊りを止めたらサヨウナラ。映画も小説も最高な「横道世之介」と踊る青春は一生終わらない。
なんて軽やかな作品なんだ。
小説も映画も大好きだ。
いつまでも終わって欲しくなかった。
ずっとこの横道世之介の世界にいたかった。
長いけどずーっと続いてほしい感じ。
原作の空気感を見事に沖田監督が作ってる。
作品に漂う空気感だけで大学時代にトリップできる稀有な青春映画。
大学生活のゆるさ、楽しさ、ちょいとトキメキ、ひっくるめた青春感とノスタルジーに満ちている。
夏の海の仲間たちとの時間や
クリスマスの雪景色のキスの俯瞰ショット。
ゆたーりしながらまた観たいなぁ。
長い映画だけど委ねてまったりほのぼのできる。
素直で憎めない高良健吾も、どこか変わってる超お嬢様役の吉高由里子も実にいい味出している。
更に20年後の現在とあの時が行き来するのが切なくて沁みる。
青春て過ぎてから気づく永遠の輝き。
2000年代邦画で1番好きな青春映画かな。
世之介、どこかにいるよね、日本のどこかに。そんな気持ちになる。
心の中に完全に「横道世之介」という男が棲みついている。
どんな男なの? と言われても少し困る。
思ったのは‘人生にYESを言い続けている人’ということだ。
世之介はとっても素直だ。
人生で起きることに素直に反応する。
だから世之介の周りには、面白いことが起こり、面白い人が何だか集まってくる。
まるで「人との出会い」を引き寄せる磁石みたいだ。
そしてなぜか出逢った人の心に永遠に残る。
小説も映画も大学1年生の12か月を順に追っていくのだけど
合間に20年後の現在の話も挿話されて
それが‘愛おしい青春’を浮きだたせる効果を上げている。
心の奥がキュッと切なくなるくらい、何でもない日々が、かけがえのないひと時だったことを感じさせてくれる。
だからこの作品では、ふたつの青春を味わえるのだ。
今、まさにその時を生きている青春。
振り返って、想いが切なく募る青春。
どちらも存分に味あわせてくれる。
それと、この作品は自身の青春も鮮明に思い出させる強力な‘記憶再現装置’になっている。
あの頃の懐かしさと切なさが心に湧きあがって、次から次へと忘れていた思い出が溢れ出す。
今、あいつ何してるのかな、なんてこの20年思い出さなかった友人のことを思い出して
気づいたら大学時代のアルバムを開いていた。
びっくりするくらいリアルにあの感覚が蘇ってくる。
身体があの頃の熱を帯び、勝手に動き出していく感覚。
「世之介、踊れよ」
世之介が上京してまもなく従兄の清に突然、言われる言葉だ。
「は?」
「なんで踊るかなんて、意味を考えちゃダメなんだよな、きっと。一度足をとめたらあとはどんどんあっちの世界に行っちゃうんだ」
そんな世之介はサンバサークルで踊っていたが、私も同じだった。
私も大学の入学式の日にヒップホップのダンスサークルに直感で入って、6月には新宿のクラブのダンスパーティで派手なシャツで踊っていた。
自分の出番が終わって興奮したまま買い出しに出かけ、歌舞伎町をまさしく跳びはねながらコンビニに向かっていると、前から見たことのあるメンバーが歩いてくる。
高校の同級生だった彼らに私は後先考えずに
「おー! 久しぶり、今、そこで踊ってんだよね! 良かったらおいでよ!」と声をかけた。
その後、彼らがどんな言葉を返してくれたから全く覚えていない。
ただ、彼らの凍り付いた表情だけが脳裏に残っている。
夜、高校時代の親友から電話がかかってきて、
「お前、浪人生全員を敵にしたな」と言われた。
彼らは代々木の予備校からの帰りに新宿のラーメン屋に寄っていたのだ。
やってしまった……。
浮かれていると思い切り間違う。
浮かれていると人を傷つける。
とにかくあの頃、私は浮かれていた。
後悔してももはや遅く、、
私は卒業してから「あいつ、調子に乗りやがって」と浪人生全員から嫌われてしまったのだ。
でも、私はその後も気にせず踊り続けた。
なぜ、あの時、そんなぶっとく図々しい無神経さを持っていたのか。
社会人になって、人目を気にして生きてきた習性が身についてしまった今、理解ができない。
それを今、振り返って否定も肯定もしない。
でも、後悔はしていない。
「横道世之介」を見て、あの時の感覚を思い出した。
何もわかってなかった、でも最高に楽しかったあの頃。
見れば、いつでもあの時に戻れる。
無軌道に「踊っていた」あの頃を思い出し、
何なら今も「踊っちゃえば」と言われているような軽快な感覚に包まれる。
「なんで踊るかなんて、意味を考えちゃダメなんだよな、きっと。一度足をとめたらあとはどんどんあっちの世界に行っちゃうんだ」
いきなり小説家を目指し始めた従兄の清が、世之介に言った言葉をそのまま信じて言い換えると、
「踊り続けていれば、ずっとこっちの世界にいれる」ということだ。
もし、あの時を忘れてしまったなら
何も考えずにただこの作品に身を委ね
思うがままに踊ってみてほしい。
気づくと軽やかなステップを踏んでいるはずだ。
そして
‘青春’はまだ確実に心に生きていることに
ハッとする思う。
そんな不思議な力がある作品だ。