映画「告白」と映画プロデューサー川村元気の映画的天才性。
私はこの小説も映画も好きではない。
でも圧倒的な濃度を持つ強い映画だ。
2009年本屋大賞を受賞した湊かなえのミステリー小説を、「下妻物語」「嫌われ松子の一生」の中島哲也監督が松たか子主演で映画化したサスペンスドラマだ。
ある中学校の1年B組の担任を務める女性教師の森口(松)は、愛娘を学校のプールで殺害される。
警察は事故死と判断するが、森口は学年末の終業式の日に、犯人はクラスの中にいると生徒たちに告げる。
主演、松たか子の奥行きのある恐ろしさ。
監督、中島哲也の過剰から余白へ、作風を鮮烈に振り切った映像的才能。
そして、同年「悪人」と「告白」をプロデュースした川村元気の企画センス。
私は原作を読んだ時、構成は面白いけど、人間を見つめる視点があまりに悪意があり、私には合わなかった。
でも、映画を観て驚いた。
この原作の構成を映画的に見事に翻訳していたからだ。
映画的完成度、濃縮度は非常に高く、凄い映画だと思う。
ただ、だからこそ、登場する全ての人物の絶望と悪意と殺意と空虚と狂気と愚かさといった人間の負の業の原液を飲まされた感じで、好きにはなれなかった。
どんな業界にも、あの人には勝てない、という突き抜けた存在がいると思う。
ここ10年、日本映画界で一番、存在感を放っている企画人は川村元気かもしれない。
川村元気が携わった作品。
2005年
電車男(企画)
2006年
スキージャンプ・ペア Road to TORINO 2006(企画・プロデュース)
ラフ ROUGH(企画)
7月24日通りのクリスマス(企画)
2007年
そのときは彼によろしく(プロデューサー)
2008年
陰日向に咲く(企画・プロデュース)
デトロイト・メタル・シティ(企画)
2010年
2011年
モテキ(企画・プロデュース)
2012年
宇宙兄弟(企画・プロデュース)
2014年
2015年
寄生獣 完結編(プロデューサー)
バクマン。(企画・プロデュース)
2016年
世界から猫が消えたなら(原作)
怒り(企画・プロデュース)
何者(企画・プロデュース)
2018年
どちらを選んだのかはわからないが、どちらかを選んだことははっきりしている(監督・脚本)
SUNNY 強い気持ち・強い愛(企画・プロデュース)
億男(原作)
来る(企画・プロデュース)
2020年
ラストレター(企画・プロデュース)
唐人街探偵 東京MISSION(中国映画、中国公開2021年、プロデュース)[30][31]
2021年
キャラクター(企画)
2022年
百花(原作・監督・脚本)
2023年
怪物(企画・プロデュース)
彼とは昔、何度か話したことがあるけど、頭がとにかくキレると思った。
私は一度、マンガ「宇宙兄弟」の映画化を企画し、幾度か講談社に出向いたが、映画化優先権は取れなかった。※編集者は現在はコルク代表の佐渡島庸平さん。彼も頭脳も感性も冴え渡るキレッキレの方。
そこに立ちはだかったのもまた川村元気という時代随一の映画的天才だった。
彼は映画原案になりそうな小説も年間何百冊読み、過去の映画にも造詣が深くそれを上手く引用する。音楽も詳しい。
彼は企画の即時性と普遍性を同時に計算している気がする。
映画の隅々までビジョンが鮮明で、それを語る言葉が明快に的を得ている。
当時、あの30歳という若さで中島哲也や李相日という鬼才達と同時期に渡り合っていたその度胸も凄いと思う。
「モテキ」等のサブカルから「怒り」のような王道まで手がけ、「世界から猫が消えたなら」等、作家業までこなす希代のプロデューサーとして、これからも斬新かつ強い企画で驚かせてほしい。
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