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投資判断と禅の教え - 直観力の基礎~ストーリーで学ぶ仏教とビジネス~


「この案件、本質的におかしい」

創業25年目の商社、年商320億円を率いる松下社長(仮名)は、部下が用意した分厚い資料に目を落としながら、静かにつぶやいた。

数字は魅力的だった。投資利回り28%。市場分析も入念に行われ、リスク評価も一通りクリアしている。他社も群がる有望な投資案件。だが、どこかに違和感があった。

その違和感の正体は、毎朝の「只管打座」が教えてくれた。

データでは見えない本質

「最初は半信半疑でした」と、松下社長は振り返る。

ある禅僧との出会いから、毎朝の座禅を始めて3年。投資判断の質が、目に見えて変わり始めた。

「以前の私は、データだけを見ていました。しかし、それは本質の一部でしかなかったんです」

転機となったのは、2年前の110億円規模の投資案件だった。

当時、社内のコンセンサスは「投資実行」で固まっていた。財務分析、市場予測、すべての指標が「GO」を示していた。

しかし、その朝の座禅で感じた違和感が、松下社長の目を新たな方向に向けさせた。

「もう一度、現場を見に行きましょう」

直観が見抜いた真実

現場視察で見えてきたのは、データには表れない人々の表情だった。

施設の従業員たちの何気ない会話、取引先との何気ないやり取り。そこには、財務諸表には表れない重要な情報が隠されていた。

「座禅で培った『観る』力が、普段は見過ごしていた細部に目を向けさせてくれたんです」

結果、投資は見送られた。1年後、その案件に参画した競合他社が、予期せぬ労務問題に直面。巨額の損失を抱えることになった。

論理と直観の調和

「禅の教えは、論理を否定するものではありません」

松下社長の右腕である村田専務(仮名)は、当初懐疑的だった一人だ。
しかし、松下社長の判断の確かさを目の当たりにし、自らも実践を始めた。

「データは重要です。しかし、データだけでは見えない何かがある。その『何か』を掴むのに、禅の実践が役立っているのは確かです」

朝の役員会議は、15分の座禅から始まる。最初は戸惑いもあった役員たちも、今では自然に受け入れている。

「不思議なもので、この15分で、その日の判断が明確になってくるんです」

現代経営における禅の価値

松下商事の投資判断は、業界でも注目されている。

過去3年間の投資案件の成功率は、業界平均を大きく上回る。しかし、松下社長が最も重視するのは、数字ではない。

「私たちが培っているのは、本質を見抜く『眼力』です。これは、データ分析だけでは得られません」

毎週行われる投資委員会。かつては白熱した議論が続いていたが、今は違う。

全員が一度立ち止まり、本質を見つめ直す。その結果、より的確な判断が、自然と導き出されるようになった。

次世代への継承

今、松下商事では、新しい取り組みが始まっている。

若手幹部候補生への「禅と経営」プログラムだ。座禅の基本から、経営判断への活用まで、体系的な指導が行われている。

「大切なのは、形だけでなく、本質を理解すること」と松下社長。

プログラムを受講した山田課長(仮名)は、早くも変化を感じ始めている。

「以前は、表面的な数字に囚われがちでした。しかし、座禅を通じて、より深い視点が養われていくのを感じます」

明日への示唆

松下社長の机上には、二つのものが置かれている。

最新のタブレットと、古びた座布団。

「この二つは、相反するものではありません。むしろ、補完し合うものなのです」

明日も、新たな投資判断が待っている。しかし、もう迷いはない。

「座禅が教えてくれたのは、立ち止まることの大切さです。その静寂の中にこそ、本質を見抜く眼力が宿るのです」

松下社長は、今日も早朝の座禅に向かう。その先に、新たな気づきが待っているはずだ。


【次回予告】
「100年企業が伝える『心の整理術』入門」
老舗企業の経営者たちが、世代を超えて継承してきた精神性の真髄に迫ります。

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