保険証をみせてくれない患者さん(薬剤師の仕事3)
はじめに
最近になって、なぜかうちの薬局には保険証を提示しない新規の患者さんが増えました。
理由を聞くと同じ答えです。
「個人情報だから見せたくない」
処方箋には保険番号等の記載があるので、受診した医療機関には提示していると思うんです。
でも薬局には見せたくない。
「薬局は信用がおけない」
「薬局は個人情報が流出する」
そう思われていると考えたら悲しいものです。
今回は個人情報を教えないという患者さん。
患者さんは後期高齢者の男性。
初めて当薬局をご利用いただいた患者さんです。
処方箋は外来で化学療法を受けている患者さんであると分かる処方内容です。
なぜ見せてくれないの?
個人情報だから嫌だ
うちの薬局は午前中煩雑ですが、午後は穏やかな流れで処方箋を捌いています。
そんな午後にその患者さんは現れました。
まちもり・その他スタッフ「こんにちは~」
患者さんはバッグの中から処方箋を取り出し、私に手渡しされます。
まちもり「本日ははじめてのご利用ですね?かける範囲で結構ですので(新患アンケート)記載お願いできますか?」
初めて処方箋調剤をご利用になる方には、うちに限らず調剤薬局では記載していただいています。
患者さん「お断りします。こういうのって個人情報だから、私はこういうのを書かないんです。」
新患アンケートは書きたくない気持ちは分かりますよ!
病院で書かされ、薬局で書かされ、ただでさえ待ち時間が長くてイライラしているのに、またここでも書かされるのか?
そう思うのも無理はありません。
薬局では病院で長い時間またされてイライラして来店される患者さんがいらっしゃるので慣れっこです。
そういう方は、必要事項を口頭で確認します。
まちもり「では、お電話番号だけでもお願いできませんか?万が一、お薬の件でお電話を差し上げる場合もありますので。」
患者さん「お断りします。私は薬局でそういう個人情報を教えたくはないんです。」
よっぽど以前行っていた薬局で何かあったのか?
そう思わせるほど拒否される患者さん。
まちもり「では保険証をお願いできますか?」
患者さん「同じ理由でお断りします。」
(・・・じゃあ保険効かないから10割払えよ)
そう一瞬思ってしまった私ですが、続けます。
まちもり「保険証の提示がないとお支払い金額が決まらないんですよ。」
患者さん「後期高齢者。」
まちもり「(そんなの処方箋記載の生年月日みれば分かります・・・)では処方箋記載の保険番号から、こちらでできる限りお調べして確認させていただきますね。」
患者さん「私は見せないから。病院を信用するしかないよね。そっちでどうにかして。」
まちもり「(病院では提示したんかい・・・)わかりました。少し時間をいただきますね。」
医療機関では資格認証システムというものがここ1年ほどで導入が進みました。(こういうときのためにあるものではないんですけど)
まだすべての医療機関に導入されているわけではありませんが、来年から電子処方箋がはじまるため原則義務化されます。
ただし、確認する際に時間がかかることもあるので窓口で提示していただいた方が早い場合もあります。
事務スタッフ「後期高齢者。3割ですね。保険番号に間違いはありません。」
まちもり「そっか。ありがとう。」
最低限の確認はできましたので薬をお出しすることができます。
意外と素直!?
まちもり「○○さん、お時間とらせました。保険は確認できました。3割でお間違いないですか?」
患者さん「3割で大丈夫。」
まちもり「治療の後なのに、お時間おかけして申し訳ございません。外来での治療は何回目ですか?」
患者さん「4回目だよ。」
まちもり「治療の吐き気止め出ていますが、過去3回の治療の後は吐き気大丈夫ですか?他にもしゃっくりが出たりとか?」
患者さん「今のところは大丈夫だね。食欲もあるし。」
まちもり「手足がピリピリしたり過敏になるような感覚とか(手足症候群)ないですか?」
患者さん「注射の後は鈍くしびれた感じはあるけど数時間たったら感覚は戻るよ。治療を続けていることで手のしびれが起こったことはないね。」
意外と病状や薬に関する問いに関してはスムーズに答えてくれます。
保湿に関するお話もしてお帰り頂きました。
名前に見覚えが・・・
事務スタッフ「最近多いですよね?」
まちもり「多いよね。新患さんで新患アンケートだけじゃなくて、保険証も拒否される方・・・」
何十件もそういう事例があるわけではないんですが、近隣の薬局で何か粗相があったかと思うくらい数日に1件の割合でいらっしゃいます。
まちもり「でもこの珍しい名字って、お薬手帳でたまに見る○○医院のドクターじゃない?」
保険証は提示しましょう
医療関係者であれば公的保険のありがたみは分かるはず
結果、○○医院の院長だったんですが、私は疑問が生まれました。
・国民の税金でご飯を食べている医療関係者が、医療機関で保険証を提示しない意味が分からないのか。
・ご自身の医院で自分が行った対応の患者さんがいた場合どうしているのか。
病院で保険が確認できなかった場合は自費診療として10割負担となりますが、それは薬局でも同じことです。
「保険証を見せないけど10割負担でよい」
これなら保険証の提示はしなくて良いですが、
「保険は使うけど保険証は見せない」
は通りません。
薬局側としてもできる限り負担が増えないように、お忘れになった方には資格確認システムで確認して自己負担分だけの支払いになるよう努力しています。
ただし資格確認システムは導入されて日が浅いため、読み込みに時間がかかる場合があったり、機械や回線の不具合で使用できなかったりもしますから、保険証の提示は原則月に1回は医療機関が患者さんに求めるのです。
病院で保険証を見せているが薬局でも見せないといけないのはなぜか?
病院と薬局は、どんなに近くにあろうが別会社です。
個々の医療機関ごとに保険請求をしますので、保険証の確認も医療機関ごとに行うのが原則です。
処方箋には保険番号や負担割合も記載があるのですが、あくまで病院が記載した情報です。
病院側が以前の保険証の番号を記載していたり、負担割合の記載を誤ったりはよくあります。
病院の情報を信じて受け取ったお金が足りなかったとしても、どこも保障はしてくれませんから保険証の提示は必要なんです。
個人情報を取り扱うもの(医療者に限らず)は個人情報保護法の対象になります
ご本人が保険証を提示しない理由として
「病気のことを知られたくない」
「噂になったら困る」
それ以外にもいろんな理由があるかもしれません。
今回の患者さんに関しては、想像の域を超えませんが
「住所や保険証で医師であることを知られたくない」
という想いが強かったのではないかと思います。
ただし、個人情報を扱っているすべてのものは個人情報を漏洩しない義務があります。
薬局もこれにあたります。
新患アンケートは必要か?
住所や電話番号
世間には知られていないのかもしれませんが、薬の中に異物や発がん性物質またはその誘導体が混入し、メーカーが薬局や医薬品卸から自主回収する場合があります。
医療機関に卸しているものは自主回収し患者さんに交付した薬は回収しないでよい場合もありますが(影響がほとんどないと考えられるため)、患者さんに交付した薬も回収しなければならない場合もあります(発がん性物質が含まれて影響が懸念されるため等)。
また、何度も確認をして間違った薬をお渡ししないように努めていますが、誤った薬を渡してしまった場合に備えて電話番号を聞く必要があります。
もう一つは投薬後のフォローアップのためです。薬の効果がどうなのか、副作用がないか、これを確認することは薬剤師の義務と薬剤師法に定められました。
薬剤師の知見から必要と判断した場合はフォローアップを行う義務があります。
体質や生活習慣
薬の成分・添加物によるアレルギーの心配がないか、重複した薬はないか等の確認に必要です。
車の運転や高所作業の有無
薬の副作用による交通事故や転落に注意するために必要です。
健康食品
薬の代謝を阻害するものや誘導するものが含まれるので、併用が危険な場合もあります。
このように、医師や看護師とは別の視点で薬剤師は情報を見ているのです。
まとめ
ICT化により情報のクラウド管理が可能になれば、いずれ新患アンケートや保険証の提示は必要なくなるものかもしれません。お薬手帳も同様です。
保険証の提示については、マイナンバーカードに置き換わるだけかもしれませんが。
少なくとも現状では、初めて来店した薬局では新患アンケートが必要です。
「また同じことを聞くの?」
と思ってもお答えいただくと幸いです。
ただし「情報を有効活用できているか」という点においては薬局や薬剤師の資質によるものが大きいため、いつも行く薬局が薬を出すだけであればご自身で信頼できる薬局や薬剤師を探した方が良いですよ。