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秋の夜長に、水まんじゅうの”をかしさ”について思いを巡らせました

岐阜県大垣市の夏の名物 水まんじゅう

大垣は豊富で質の良い地下水に恵まれて「水の都」と呼ばれており、昔は、各家庭の軒先や土間などに井戸船があって、野菜や食器を洗ったり、お茶などを冷やしたり。そんな文化的な背景から庶民が果物や水菓子なども冷やして楽しんでいたそうです。

饅頭を水で冷やす

地元民からすると、なんの違和感もないですが、「饅頭を水で冷やす」
ということを文字面だけ見ると、なかなか信じられません。
紅白まんじゅうや、焼きまんじゅうを水に入れるようなもんですもんね。

そこで!キーになるのは、葛饅頭(くずまんじゅう)というものです。
くず粉を使った透明の生地で餡を包んだ夏季の生菓子で、葛桜、水仙饅頭とか言います。葛饅頭+井戸船の相性は自然にピタリと合わさりそうです。
しかし、井戸船に葛饅頭を放り込んでみると、ぶよぶよとふやけて水に流れてしまいます。そこでお猪口わらび粉の出番です。

お猪口に入れることで言わずもがな水に流されません。また、葛饅頭は生地を蒸す必要があるのですが、そのまま蒸せることと成形にも寄与します。
また、撥水性のある、わらび粉を加えることで、お猪口から生地が流れ出ることもないよう調整されたものが、大垣の和菓子屋さんの手によって完成した水まんじゅうの原型と言えます。

ちなみに明治30年頃の和菓子屋、上田文七という人が起源と言われてます。
その後、店先に水まんじゅう専用の屋台を設置して営業する和菓子屋さんが増え、すっかり大垣の夏の風物詩となりました。

時代の変化と独自の進化

当店(金蝶堂総本店)でも当初より店先にて販売し好評を博し、店先で小粋にお猪口から上手に”つるん”と涼をとるお得意様のお姿は、私の幼少の頃の憧れでもありました。しかし、平成の時代に入り、店の前を往く人影もまばらになるにつれ、水まんじゅうの最大の弱点、消費期限の短さ(長時間の入水はふやけと白く硬くなる状態を生み出すこと)と、衛生上の目線も厳しくなってきて、店先の屋台での販売は中止に至り。あの憧れたお得意様の姿も見られなくなりました。

ただ、くず粉やわらび粉のような澱粉類や、寒天、増粘多糖類などの原料の進化は凄まじく、水まんじゅうは、夏に苦戦する和菓子業界において、ある意味救世主的に全国的に知られていくようになりました。

当店(旧・金蝶堂総本店)はキヨスク様や三越様などの催事を多くさせていただいていたこともあり、すごい量の水まんじゅうを運搬する機会が多く、陶器のお猪口はとても重いうえに、振動でぶつかり合って割れるという問題を抱えていました。

そこで、当時では全国的には一般的になっていた水まんじゅうカップに使用を切り替えレシピも見直しました。あわせてカップごとの提供が可能になったことで、消費期限が少しだけ伸び、ご家庭で、カップから抜くあの小粋な涼の楽しみ方を体験していただけるという独自の価値を提供できるようになりました。

食べ方のルール

昔の水まんじゅうは、お持ち帰りの場合、店員が水槽でお猪口からくり出してパックへ3~5個。消費期限当日で、常温保存。召し上がる20分前に冷蔵庫か冷水で冷やしてお召し上がりください。というものでしたが、これ結構、難易度高くないですか?

そもそも、涼をとることから始まったこと。明治の頃は冷蔵庫とかないので、井戸水が一番冷たかったと想像できます。
冷蔵・冷凍技術も進んだ現代なら、冷やすこと自体は井戸水より冷蔵庫の方が冷たい。
お客様のご負担を減らし、また冷たく、楽しんでもらう事を考えて、当店の水まんじゅうは、「お持ち帰り用は冷たく凍らせたものをお渡しいたします。お持ち歩きは常温で構いません。お家に帰られたら、冷蔵庫で冷やしてお召し上がりください。(半解凍くらいがお勧めです)冷蔵庫にてお日保ち3日間です。」「冷凍で地方発送も承ります」とお伝えしております。

小粋な涼の取り方

さて当店の水まんじゅうの楽しみ方です。カップの蓋を取って爪楊枝でカップを縁取るように隙間を作り、そこにお水を流し込むことで、つるんと取れます。お水ごとつるりとお召し上がり頂くのが本場の味。
シン・金蝶堂がある船町ベースには、井戸船があります。その井戸のパイプから落ちる水が水まんじゅう体験専用のお水になります。

船町ベースの井戸 パイプから落ちている水が水まんじゅう用

170円のアトラクション

当店(シン・金蝶堂)では、ご購入いただいた水まんじゅうを、上記の方法で、井戸水を使いお召し上がりいただける体験を提供しております。カップから取り出した水まんじゅうを乗せる木製の舟皿もご用意しております。涼感と風情を合わせてお楽しみください。
ほとんどのお客様が一、二個食べた後、「美味しかったから」と、お土産にお持ちかえり用をご購入頂いております。

販売時期について

今や大垣の名物として代表的な水まんじゅう。大垣の和菓子屋さんでは、通常4月~9月末頃の販売のお店が多いようです。

当店でもそのつもりでしたが、夏日が続いたことと、当店の立地上、遠方や県外のお客様も多く、水まんじゅう目的のご来垣も多いため、リクエストと、度重なるアンコールにお応えして、現在まで販売しておりました。
しかしさすがに11月、肌寒くなってきましたし、次週には終了予定です。

真心に感謝

本当にたくさんのお客様にご利用いただきまして、誠にありがとうございました。お帰り際に「美味しかった!ありがとう!」と、ほとんどのお客様にお声がけ頂き、再出発の身においては、とても勇気づけられ、お店をやる意義を改めて感じることもできました。

引き続き精進いたしますので、今後ともよろしくお願い申し上げます。お店では栗きんとんも始まっております。

是非とも、今年最後の水まんじゅうのオカシさをお楽しみに、大垣に遊びにおいでくださいませ。
















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