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あたたかさを紡ぐ
朝の光が、ゆっくりと部屋に差し込む。
テーブルの上には、
まだほのかに湯気を立てるカップ。
手に取ると、
ひんやりとした指先に陶器のぬくもりが伝わり、
その瞬間、全身がふわりと緩むのを感じる。
カップの内側には静かにゆれる光の輪。
香り立つ茶葉の甘さが、
部屋いっぱいに広がっていく。
気がつけば、ずいぶんと長い間日記をつけている。
特にルールは設けず、気が向いた時に、
書きたい分だけ、書くことにしている。
ただ、
いつか家族がこの日記のページをめくるとき、
そこに広がるのは、
あたたかな日々の記録であればいいな、
という気持ちで書くことにしている。
なので、基本的にいつ誰に読まれても問題はない。
お茶をひと口含むと、
わずかな苦味と甘みが混ざり合って、
体にすっと染み込んでくる。
忙しい日々の中で、
自分のことを、
置き去りにしてしまうことが増えたけれど、
こうして静かに息をつく時間があると、
少しずつ自分が戻ってくるような気がする。
さてと、と、
椅子に座り直して姿勢を正す。
ノートを開くと、
ぱりっと真新しいページが私を待っている。
何を書くかはまだ決めていない。
ただ、この朝の静けさや、
心に染み渡る温かさを、
未来の自分にそっと残しておきたい。
お茶の香りとともに、
言葉が少しずつページに乗っていく。
特別なことは何もないけれど、
この瞬間を忘れないように、
ただ静かに書き留める。
カップのお茶はだいぶ冷めてしまった。
それでも、日記を綴る私の心には、
穏やかなあたたかさが残っている。