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夜とココアとひとさじの音楽
夜の静けさが、
じわじわと家の中に染み渡る。
窓の外をつたう、街灯の光に照らされた雨粒は、
その一滴一滴が、
ゆっくりと時間を刻んでいるように見える。
外出の予定もないこんな夜は、
ただひたすらに静かで、心地よい。
家のことがひと段落したので、
キッチンでお湯を沸かしながら、
Corinne Bailey Raeの「Like A Star」をかける。
彼女の柔らかな声とギターの音色が、
夜の空気と溶け合うように、
私の周りに漂い始める。
こんな夜には、
彼女の穏やかなメロディがちょうどいい。
お湯が沸いたので、
お気に入りのマグカップにココアを淹れ、
最後にチリパウダーを一振りする。
少しの甘さの後、
舌の上にぴりりと広がる小さな刺激。
その味わいが好きで、
秋の気配が近づくと決まって飲みたくなる。
気温が少しずつ下がり始めるこの季節は、
街も人々の動きも、どこかゆっくりと、
落ち着きを取り戻しているように感じる。
だんだんと、夏の名残が消えてゆき、
冬の寒さを迎える準備が整い始める。
カップを手にリビングへ戻り、
ソファに身を沈める。
膝にブランケットをかけると、
窓に映る自分の姿が、
外の闇に滲んで見えた。
こんな何気ない夜は、
心の中にある小さな思考の断片たちが、
静かに浮かび上がる瞬間がある。
ココアの温もりを感じながら、
心の中の小さな問いかけに耳を澄ます。
そんな夜の時間が、なぜこんなにも心地よいのだろう。
ふわりと、彼女の優しい声がまた部屋に響く。
どこか孤独を感じさせるような、
それでいて温かさを運んでくれる彼女の音楽。
そのバランスが、今夜の気分にはぴったりだ。
音楽に耳を傾けながら、
手の中のココアをひと口、胸に流し込む。
彼女の歌声が残す余韻のように、
ほのかなチリの刺激が、口の中に微かに残る。
スピーカーから流れる音楽が次の曲へと移り、
時が緩やかに流れていく。
特別な何かが起こるわけでもない夜。
夜の静けさにただ身を浸し、
音楽と共に過ごすひととき。
思考の断片を遊ばせながら、
夜の温もりは、
いつまでも静かに続いていくように思えた。