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歌詞が怖い子守歌「耳切坊主」

沖縄の子守歌に「耳切坊主」という歌がある。
「みみちりぼーじ」と読む。

最近息子が学校で習ったらしく、よく歌っている。
沖縄音階にのせたゆっくりとした曲だが、歌詞が怖い。

担任の先生の語りも相まって、怖がりなのに怖いもの好きな小学生の心をつかんだらしく、クラスで一人が歌い出すと大合唱らしい。

耳切坊主の歌詞はこのようなものだ。

大村御殿(うふむらうどぅん)ぬ角(かどぅ)なかい
耳切坊主(みみちりぼーじ)ぬ立っちょんど
幾人幾人(いくたいいくたい)立っちょがや
三人四人(みっちゃいゆったい)立っちょんど
鎌(いらな)ん小刀(しーぐ)ん持っちょんど
泣(な)ちゅる童(わらべ)耳(みみ)ぐすぐす
ヘイヨーヘイヨー泣かんど
ヘイヨーヘイヨー泣かんど

なんのことやらさっぱり分からないという人も多いだろう。
訳は以下だ。

大村御殿の角に耳切坊主が立っているぞ
何人何人立っているの?
三人四人立っているよ
鎌も小刀も持っているよ
泣いている子どもの耳ざくざく
ヘイヨーヘイヨー泣かないよ
ヘイヨーヘイヨー泣かないよ

脅しのレベルがヤバい子守歌だ。
やさしく眠りに誘う系(ゆりかごの歌など)とは真逆の脅し系子守歌。
泣いている子どもの耳をぐすぐす切るヤバい坊主。
「鬼が来るよ~」よりもずっと効き目がありそうだ。


この歌の主人公・耳切坊主の伝説はこのようなものだ。

耳切坊主とは琉球王朝時代に首里にいたという黒金座主(ぐろがにざーし)のこと。黒金座主は妖術を使う悪僧で、夜な夜な術で女性をたぶらかして襲っていた。
そのうわさを聞いた琉球国王は北谷王子に黒金座主を成敗するよう命じる。

北谷王子は自宅の大村御殿に黒金座主を呼び、
「碁の名人のあなたと勝負がしたい。ただ打つだけでは面白くないから、賭けをしよう」と持ちかけた。
「私が勝ったらあなたの両耳を切り落とす」
黒金座主は「私が勝てば、あなたの欹髻(かたかしら・まげ)を切り落とします」
そう言って二人は碁を打ち始めた。

勝負は北谷王子が勝った。
黒金座主は北谷王子に術をかけて小刀で殺そうとしたが、北谷王子は刀で応戦し、約束通り黒金座主の耳を切り落として成敗した。
黒金座主は「お前の子孫を根絶やしにしてやる」と呪いの言葉を吐いて死んだ。

それから大村大殿の角に耳のない黒金座主の幽霊が立っているといううわさが立ち始めた。
鎌を持ち、男の子の耳を狙って切る。
男の子を持つ親は、大村御殿のそばには行かないよう強く戒めるようになった。

黒金座主を成敗した後、北谷王子に息子が生まれたが、すぐに亡くなってしまった。
それが続いたので、人々は黒金座主のたたりだとうわさした。

あるとき、また男の子が生まれた。
そのとき、産婆が「うふいなぐ(立派な女の子)が生まれた」と告げた。
うふいなぐと告げられた子は、元気に育った。

それから大村御殿では男の子が生まれたら「うふいなぐが生まれた」と言うようになった。

北谷王子は黒金座主を丁重に弔ったため、いつのまにか黒金座主の霊が角に立つことはなくなったという。

あこーくろー(逢魔が時)の大村御殿跡地の角。電灯も少ないから近所の子も近寄らないという

耳切坊主の物語は沖縄ではとても有名な怪談だ。

大村御殿は首里城のすぐそばにあり、石垣だけが残っている。
昔はここに県立博物館があった。

近くには小学校もあるが、夜は上の写真のように真っ暗。
今でも地域の子どもたちは「耳切坊主が怖い」と話す。
息子は泣き虫なので、耳切坊主の活動範囲はどこまでなのか、どれだけ泣いたら耳切坊主が来るのか怖くてならないらしい。
私でも夜に現地を歩いていると、角を曲がったときに鎌を持った耳切坊主と鉢合わせをしたらどうしようと不安にかられる。

それにしても「耳ぐすぐす」という表現の怖さ。
切れ味の悪い鎌で切り取られた感がある。
この怖い歌詞をかわいらしい子どもの声で歌われると怖さ倍増だ。

ちなみに耳切坊主は地元テレビ局の旧盆定番のドラマ「オキナワノコワイハナシ」の主題歌だ。
怪談ドラマの主題歌に使われるくらい、怖い怖い子守歌なのだ。

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