【連載】「灰かぶりの猫の大あくび」#18【RPG編~黄泉がえりは突然に~】第1話
登場人物
夏目愛衣
黄昏新聞の新米記者。アニメ好き。今期のオススメは、『ガールズバンドクライ』。『アイドル編』では、アイドル育成補助金の100万円目当てに、385プロダクションのアイドルオーディションに参加。しかし目論見は外れ、貯金を切り崩す羽目に。
モノリス
灰かぶりの猫の自宅のAIスピーカー。現在は義体化済み。主人公の猫の復活のため、『クロノ・スタシス』という曰く付きのゲームを用意する。
灰かぶりの猫
久しぶりに小説を書き始めた、岩手県出身の三十代。本作の主人公。『学校編』にて、芥川賞候補作家の三島創一により、その存在を消滅させられる。『RPG編』にて、約一カ月ぶりの復活なるか。
※各固有名詞にリンクを添付(敬称略)。
※この物語は、メロスが激怒してもフィクションです。
――ゴーン。ゴーン。
?? 「アイ? ねえ、もう朝よ。起きなさいったら。今日は神社の例大祭の日でしょ」
――アイと呼ばれた少女が目を擦り、ベッドからからだを起こす。
アイ 「ん? ここは、どこ?」
?? 「なぁに言ってるの。自分の部屋でしょうが。寝ぼけているなら、下で顔でも洗ってらっしゃいな」
――アイ、寝ぼけ眼で部屋を出て階段を降り、キッチンで顔を洗う。
?? 「ニャーオ」
アイ 「あら、可愛い猫ちゃん。お名前は?」
?? 「自分の家族の名前まで忘れてしまったの? アッシュじゃないの。14歳になったんだから、しっかりしなさい」
――アイ、朝食を済ませる。その後、自分の母親らしき人物に促されるまま部屋で着替えを終え、出掛ける支度を整える。
?? 「神社に出掛ける前に、リンタローくんのところに寄って行ったら? あらでも、余計なお世話かしら」
――母親らしき人物が、意味ありげににんまりと笑う。アイは、余計なお世話の意味を理解しかねたまま、家を出る。
アイ 「リンタロー? 誰よそれ。と言うか、家も分からないし」
――アイは、母親らしき人物の言葉には従わず、町中の人波に呑まれながら、例大祭が行われるという神社を目指す。真っ赤な大鳥居を潜り、階段を上る。境内には、大勢の人だかりができていた。さらに奥では、これから何かが行われる様子だった。
?? 「はいはい。みなさん。寄ってらっしゃい見てらっしゃい。これから皆様にご覧いただくのは、世にも奇妙な物語。一瞬にして、物が左から右へ、また、右から左へと移動するテレポーテーションでござい」
――サンプラザ中野くんのようなサングラスをかけ、ハリセン片手に大きな声を張り上げる男性の背後に、人間大の縦長の鳥かごのようなものが左右に並んでいた。左側の足下には、一匹の黒猫が丸くなって瞼を閉じていた。
?? 「瞬き厳禁。今から私の合図でこのスイッチを押せば、あら不思議。黒猫が左から右の鳥かごへと、瞬く間に移動します。皆さん、準備は良いですか。――いきますよ。それっ!」
――男性が手元のトリビアの泉の「へぇ~ボタン」のようなスイッチを押した瞬間、左側の鳥かごがオーロラに包まれ、それが消えたかと思うと、黒猫も消失。次の瞬間、右側の鳥かごがオーロラに包まれ、それが消えると、左側にいたはずの黒猫が足下にうずくまっていた。どっと歓声が上がる。
?? 「いやぁ、何度見てもすごいですな。驚き桃の木山椒の木とは、まさにこのこと。それからですね、皆さん。実はこの装置、人間もテレポーテーションできるのです。どうですか、どなたか体験してみたい方はいらっしゃいませんか?」
――誰もが興味を示すも、手を上げたり、名乗り上げるものはいない。
?? 「ははは。怖がらなくても大丈夫ですよ。それではそうですね、はい。そこの可憐なお嬢さん。良かったら、テレポーテーションしてみませんか?」
――男性に指名されたのは、観客の中に隠れていたアイだった。
アイ 「え? いや、わたしは」
?? 「そうおっしゃらず。物は試しです」
アイ 「(男性の目力と押しに負け)――わ、分かりました。なら」
?? 「ありがとう。お嬢さん。お名前は?」
アイ 「た、たぶん、アイだと思います」
?? 「タブンアイさんですね。さあ、皆さん。こうして名乗りを上げてくれたお嬢さんに、大きな拍手を。成功した暁には、ぜひスパチャをお願いいたします」
――アイ、観客が見守る中、恐る恐る左側の鳥かごの中へ。固唾を呑む。
?? 「タブンアイさん。心の準備は出来ましたか。では参ります。――それ、ポチッとな」
――鳥かごが再び、オーロラに包まれる。アイはからだが宙に浮くような感覚を覚える。実際、からだが軽くなり、鳥かごの中で浮き始める。
アイ 「え? え?」
――さらに浮上し、このままだと鳥かごの天井に頭がぶつかると思った直後、からだが鳥かごをすり抜け、明かりが落ちるように意識が途絶える。
?? 「あ、あれ? アイさん? タブンアイさん?」
――男性が戸惑うのも無理はなかった。観客の目には、左側の鳥かごからアイが消えたように見えたが、その後、黒猫のように右側に現れることはなかった。
?? 「ちょ、ちょっと待ってください。いったいどういう事でしょうか。テレポーテーションは? アイさんは?」
――観客から悲鳴が上がる。
?? 「そ、そんな馬鹿な。ひ、ひとが消えてしまった。おい、消えてしまったぞ!!」
アイ 「いたっ!」
――アイは強かに尻もちを打ち、声を上げた。どうやらそこは、どこかの森の中のようだった。
アイ 「まるで、モンスターでも出そうな雰囲気ね。大丈夫かしら」
――お尻をはたいて立ち上がったアイの不安は的中し、木の陰からのそのそと、アルマジロのような生き物が姿を現す。明らかにアイを敵視していた。
アイ 「ど、どうしよう。わたし何も持ってないんだけど。素手で殴る? 素手で殴って倒せる?」
――アルマジロが近づいてくる。直後、アイに飛びかかってきた。
アイ 「キャッ!」
――アイの悲鳴と同時に、アイの背後から何者かが姿を現し、上段から刀を振るい、アルマジロを一刀両断にした。アルマジロが瞬く間に消滅する。
?? 「その方、気を付けなされ。この森は魔物の森。女子供が立ち入って良い場所ではないぞ」
――そう言ってアイの前に姿を現したのは、胴着姿の長髪長身の優男だった。
アイ 「ご、ごめんさない。でも、ありがとう。助けてくれたのね」
?? 「助太刀などではござらん。新しく手に入れた咲花刀の切れ味を確かめてみたかっただけでござるよ」
アイ 「そう。でもなんだか、お侍さんみたいね」
?? 「オサムライ? そのような輩、聞いたこともござらぬが」
アイ 「じゃあ、あなたは何者なんですか?」
?? 「拙者か。拙者は名乗るほどの者でもござらんが、ミヤビと申す。以後、お見知りおきを」
アイ 「ミヤビさん。わたしはたぶん、――じゃなくて、アイというみたい。ごめんなさい。実はわたし、自分のことがよく分からなくて」
ミヤビ「記憶喪失という奴ですか。それはまた都合の悪い。いや、都合が良い。私も記憶喪失ということにして、この七面倒くさい言葉遣いはやめることにしますか」
アイ 「(周りを見渡しながら)どうやらこの場所はわたしが元いた場所ではなさそうだし、ミヤビさん、良かったら一緒に付いてきてくれませんか。用心棒として」
ミヤビ「ふむ。それは構いませんが。それでは一度、ご自身の装備とパラメーターを確認した方が良いと思いますよ」
アイ 「装備? パラメーター?」
ミヤビ「頭の中で、メニュー画面というものを開いてみてください。属性、レベル、装備のほか、あなたのちから、めいちゅう、すばやさ、まりょく、かいひ、たいりょく、まほうぼうぎょ、さらにはHP、MP、攻撃力と守備力が分かるはずです」
――アイ、頭の中でメニュー画面を開いてみる。
ミヤビ「いかがですか」
アイ 「うーん。攻撃力2か。とりあえず、素手だときつそうだから、武器が欲しいかも」
ミヤビ「では森を抜けて、武器が購入できる店に向かいましょう。あるいは、この森の中のどこかに、武器が落ちているかもしれませんが」
アイ 「ミヤビさんのパラメーターも見せてもらっても良いですか」
ミヤビ「ざっと、こんな感じでしょうか?」
アイ 「この、属性というのは?」
ミヤビ「いわゆる五行説に基づいたものですよ。Wikipediaによれば、私の金は、『土中に光り煇く鉱物・金属が元となっていて、金属のように冷徹・堅固・確実な性質を表す』とされています」
アイ 「じゃあ、水は?」
ミヤビ「『泉から涌き出て流れる水が元となっていて、これを命の泉と考え、胎内と霊性を兼ね備える性質を表す』」
ミヤビ「パラメーターの次は、実際に戦闘を行ってみますか」
――ミヤビの言葉に合わせ、頭上を飛んでいたハヤブサのような生き物が、大型のリスのような生き物を落としていく。地面に音もなく着地したと同時に、リスは二人に向かい、威嚇のように前歯をむき出しにする。
アイ 「あれを素手で殴るの?」
ミヤビ「いえ、そうですね。アイさん。あそこに落ちている石ころを拾ってください。それを投げつけるだけでもダメージを与えられると思います」
アイ 「えいっ!」
――石ころは綺麗な放物線を描き、リスのような生き物の頭に命中。頭上に、すっとダメージ2の表示が出る。
ミヤビ「言い忘れていましたが、戦闘時に自動的に開くバーをご覧ください。HPやMPが表示されているところです。左から右に向かい、ゆっくりとゲージが移動していると思いますが、そのゲージが右に到達したところで行動が出来ます。そして戦闘はターン制ではなく、アクティブ。時間は止まらず、敵は戦隊ヒーローの変身シーンのようには待ってはくれません。相手のすばやさが、こちらのすばやさを上回っていれば、その分、相手の攻撃回数が増えることになります」
アイ 「なるほど」
ミヤビ「説明も済みましたので、さくっと倒してしまいますね」
――ミヤビ、リスのような生き物に近寄り、刀を振るう。ダメージ40。一瞬にしてリスのような生き物が消滅する。テレレと効果音が鳴り、
という表示が出る。
アイ 「ミヤビさん、TPとは?」
ミヤビ「テクニックポイントのことです。それが基準の数値に達すると、技を習得することが出来ます」
アイ 「技ね」
ミヤビ「――あ、アイさん、見てください。向こうに宝箱があります」
アイ 「序盤だから、何か回復アイテムかな」
――アイ、宝箱を開ける。中には、「疾風の弓」という武器が入っていた。
ミヤビ「疾風の弓? 本当ですか。決して物語の序盤で手に入る代物ではないですよ」
――アイが早速、装備してみると、
ちから 3 → 37
めいちゅう 6 → 28
すばやさ 15 → 40
に跳ね上がった。
アイ 「す、すごい」
ミヤビ「それは私のセリフです。それならモブの敵であれば、一撃必中でしょう」
――アイは、手に入れた疾風の弓を使いこなし、森の中の全ての敵を一撃で仕留めた。レベルも3に上がる。二人は森を出る。
ミヤビ「さて、これからどうしますか。とりあえず、町の住人に話を聞いて回りますか」
アイ 「賛成です。まだわたしがここに来た理由も、物語の目的も分かりませんし、何より、自分は何者なのか確かめないと」
ミヤビ「たのもう」
――民家を訪ねると、ガラガラガラと玄関が開き、志茂田景樹のような風貌のおばあさんが顔を出す。
おばあさん
「なんだい。押し売りは勘弁だよ」
アイ 「いえ、そうではありません。わたしたち、旅の者でして。少しだけこの町のことについて、お話をお伺いできればと」
おばあさん
「(途端に顔をほころばせ)おや、そうかい。なら、上がりなよ」
――二人とも中に通され、ちゃぶ台を挟み、居間の畳に正座する。
おばあさん
「で、何を聞きたいんだい?」
アイ 「この町のことです。どんな町なんですか?」
おばあさん
「どんな町って、見ての通りさ。少子高齢化の最先端を行く、来年には限界集落になるような町さね」
アイ 「(言葉を濁しながら)そう、ですか。それは大変ですね。じゃあ、この町で最近、何か不思議なこととか起きたりはしてませんか」
おばあさん
「(頬杖を突き)うーん、そうさね。行方不明者は日常茶飯事みたいなもんだけど、それ以外となると、西の方にある城跡で、ターミネーターを見たとかいう話があったような、なかったような」
ミヤビ「何ですか、それは?」
アイ 「アーノルド・シュワルツェネッガー主演の映画です。ターミネーターとは、その映画に登場する未来からやってきたアンドロイド、――ええと、昔で言うからくり人形みたいなもので、人を襲うんです」
ミヤビ「なるほど。それは奇怪な。しかし人を襲うとは、野生のクマか何かみたいですな」
おばあさん
「聞いた話では、そいつが夜な夜な亡霊のように現れては、誰かの名前を呟いとるんだと」
アイ 「それは気になりますね。ミヤビさん、今夜ちょっと行ってみませんか」
ミヤビ「チュートリアル要員だと思っていましたが、すっかり、パーティーの一員扱いですか。まあ、良いでしょう」
アイ 「おばあさん。ありがとうございました」
おばあさん
「なんだい。もう帰るのかい。もう少し、ゆっくりしていったら良いのに」
アイ 「お気持ちだけ、ありがたく頂戴いたします」
――土産にみかんをもらう。アイとミヤビ、夜までの時間を潰すため、町をぶらぶらした後、居酒屋に入り、少しだけ腹ごしらえをする。店を出ると都合よく、とっぷりと日が暮れていた。ミヤビが、月が~出た出た、月が~出た、あ、よいよい、と歌う。
アイ 「良い頃合いでしょうか」
ミヤビ「アイさん、気を付けてくださいよ。夜になると、魔物は凶暴さを増しますから。まれに、今の私たちのレベルでは敵わない敵も出る可能性もあります。先に道具屋に寄りませんか」
――二人は道具屋に寄り、アイは防具を新調。おばあさんからもらったみかんもあったが、回復アイテムも、お金の許す限り購入した。以下、さらにレベルの上がった、二人の現在のパラメーター。
アイ 「現状、これだけ備えれば大丈夫よね」
ミヤビ「おそらくは。では、城跡へ参りましょう」
つづく
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