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#12 認知症にやさしい近隣サポート

以前に比べれば身近で認知症の人を見かけたり、認知症介護を経験している人が増えて、認知症への理解は進んできている。隣近所で認知症の方がいて困っているようなら、できることはしますよというスタンスの方も結構いるように思う。(もちろん地域性や住環境によって違いはあるかとは思う。)認知症の姑サミーさんの在宅介護では、隣近所の方たちに迷惑をかけながらも助けてもらった。

インフォーマルなゆるいつながりを作っておく

認知症介護に慣れない頃は、サミーさんがパニックで「助けて―、今すぐ来て―」と電話をしてくるたびに訪問していた。でも、当然いつでも訪問できるわけではないし、できれば訪問せずに済ませたい。フォーマル(公的)な介護サービスもつながってはいたが、サービスのない時間を過ごす方がはるかに多いので、それだけではサポートしきれない。そこで、そんなサミーさんが安心して生活できるように、困ったときに助けてもらえるように、ゆるいつながり=インフォーマルな(公的サービスではない)サポートネットワークを作っておくことにした。

認知症と診断されてすぐに、マンションの管理人さんや同じ階の隣近所3軒ほどにはサミーさんの現状や私の連絡先をお伝えした。みなさん好意的だった。管理人さんはご自身のお母さんが認知症だったことを話してくれた。また、お隣の奥様Kさんも認知症のお義母さんのお世話をされた経験があり、私の気持ちもとてもよくわかってくれて、本当にお世話になった。

認知症の診断後1,2年ほどはサミーさんも家から一歩出ると失敗や粗相のないように緊張感を保って行動できていた。しかし、認知症の進行に伴って、パニックになることが増えて、一度不安になると落ち着かずに度々近隣のお宅へ助けを求めていくようになった。最終的にサポートネットワークのみなさんは私の方へ「お義母さんがこんな感じで困っておられます」と連絡をくれた。

よくあったパニックはこんな感じ。
◎誰かから電話がかかってきたり、自分が誰かに電話をして変な契約をしてしまっていないか不安でたまらなくなる
◎家の鍵がなくなったと思い込んで困り果てる
◎新聞を取りに行ったことを忘れて2,3度ポストまで行ってポストが空っぽで新聞が盗まれたと騒ぐ

一番対応してくださっていたのはKさんで、ゆっくりと話を聞いて落ち着かせてくれることが多かった。軽微なパニックですぐにサミーさんが落ち着いた時には、事後に「一応報告だけしておきます」と経過をメールでお知らせしてくださっていた。優しすぎる。

2軒隣の30代の若い住人の方は回覧板のことでパニックになっていた時によく助けてくださった。Kさん同様にゆっくりと何度も話を聞いて対処してくれて、事後に「こんなことありました」とメールで報告してくれていた。

洗濯機の使い方がよくわからなくなった時期があったが、洗濯機が壊れたとか、水漏れさせて下の階の住人さんに迷惑かけてしまったと思い込み、パニックで管理人室へ駈け込んでいた。管理人さんはすぐに私へ連絡をくれて、折り返し電話をすることでサミーさんのパニックは治まった。

サポートネットワークの皆さんには厚かましくも本当にお世話になった。感謝しかない。皆さんにどのくらいの負担感があったかは分からない部分はあるが、一応ひとり暮らしがいつまでできるのか注意深く観察して、しかるべきタイミングで施設への入居を判断したつもりだ。

最強のインフォーマルなつながり 

近隣住民さん以外に交流のある人を探っていくと、会話の中で古くからのお友達が浮上した。サミーさんの携帯電話の履歴などからよく電話をくださっているのがわかったので、一度電話をしてみることにした。

サミーさんの大学時代からの友人Oさん。
Oさんもまた継母さんが認知症になり介護をした経験を持っていた。私が連絡をしたころにはすでにサミーさんの認知症についても理解して、ずっと前から気にかけてくれていた。
Oさんはサミーさんだけでなく、ずっと私のことも支えてくれていた。当然サミーさんの電話攻撃がひどかった時も、かなりの被害を被っているはずだ。年々変わりゆくサミーさんの姿に心を痛めつつ、いつも優しい言葉をかけ続けてくれた。いくら私が頑張らない介護をしていたとはいえ、時間も労力も割いていたのは事実だ。それを優しく労ってくれる言葉は何よりの癒しだった。そんな風に誰かに声をかけてもらうことで、介護で張り詰めた気持ちも緩む。何よりサミーさんにとっては一番の理解者だったのではないだろうか。そんな優しいOさんに見守ってもらえたことはしあわせなことだったと思う。

サミーさんが認知症にならないと得られない関係性ではあったが、Oさんとの出会いは私にとってはとても大切なものになっている。

インフォーマルなつながりの大切さ

ヘルパーさんやケアマネージャーさんとはまた一味違ったサポートをしてくれるのがインフォーマルなつながりだと思う。もちろんあまり負担になるようなことはお願いしにくいが、ほんのちょっと目をかけてもらう、手をかけてもらうことで認知症ひとり暮らしでも住み慣れた自宅で安心して生活していける時間を少しでも引き延ばすことができるということを知った。




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