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掌編小説「空箱」


 小さな空箱を卓上のゴミ箱と見なした。

 狭い部屋はオレンジがかったテーブルランプの灯りだけで、 
 午前2時の夜の中では、鬱々とした雰囲気が立ち込めている。

 卓上は散乱したノートや本、まだ底に溜まっているペットボトル、
 燃えるゴミから燃えないゴミまで、
 有象無象によって埋め尽くされ、
 綺麗なウッドブラウンの木目は見る影もない。

 その中の、いつどこで買ったか見当もつかないほど
 遠い昔に買ったお菓子の空箱が今になってふと目に入ったのだ。

 
 深く座った椅子から、少し腰を浮かせ
 中身を覗くと、いくつかのゴミが入っている。

 俺はすぐに、丸まって転がっていたティッシュを一つ摘んで、
 空箱へ押し込んだ。

 その時、確かに
 俺の体内に流れる憂鬱が
 深い渓谷を縫って吹いてきた真新しい風によって
 掬われるような
 そんなカタルシスを感じたのである。

 促されるように
 次から次へと
 俺は卓上に散らばったゴミをその空箱へと詰め込み始めた。 

 
 やがて空箱が膨らみ、丁度半分を過ぎたあたりで
 俺は手を止めた。
 寂寂とした部屋の静けさに
 ふと我へ返ったのだ。

 
 俺はもしかしたら
 死にたいのかもしれなかった。
 
 熱中していたものから気持ちが冷める時
 俺はいつもそんなことを考えてしまう。

 
 このまま空箱へとゴミを入れ続け
 もし空箱からティッシュの切れ端がはみ出しなんかすれば
 俺はもっと死にたくなるのだろう。

 それならいっそ、まだ熱を帯びたこの身体のまま
 空箱にまだゴミが入る隙間が残されている今
 止めるべきだろう。

 そんな思いに駆られながら
 俺はまた空箱へゴミを投げ入れた。

 

 

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