シロクマ文芸部掌編小説「紐」
「働いてみれば。」
今朝、仕事へ出かける前のミヨちゃんに
そう言われた。
同棲して三年目、初めてのことである。
ミヨちゃんは一頻り化粧を終えると
テーブルに置いた鏡から
少し目線をあげて
冬へと向かう季節の
朝の細い陽が差し込む窓の外側を見つめながら
寝起きのぼんやりとした口調であったのに
やけに芯のある声でそう言ったのだ。
平日昼間の住宅街を抜けて
小学校近くの通りに入った時
学校のチャイムが丁度重たく鳴り響いた。
街全体を覆う巨大なその音は
閑静な街中で一人何となく歩く