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三の丸尚蔵館で水と月を堪能しよう!【水の情景・月の風景】
皇居・大手門の奥に建つ三の丸尚蔵館に行ってきました。2019年から建て替え工事中で、2023年11月に一部完成・公開となったのは記憶に新しいところ。全面オープンは2026年の予定だそうです。楽しみですね。
三の丸尚蔵館では現在、『水の情景・月の風景』と題した企画展を開催中。上村松園の『雪月花』が出てると聞いて見物に行きました。
皇居に入るには徒歩でお堀を渡り、大手門前で皇宮警察の方に荷物チェックしてもらえばOK。三の丸尚蔵館は門からすぐです。
一応、日時指定予約チケットが必要なのですが、20時まで開いてる夜間開館日だったせいか枠に余裕があり、飛び込み入場出来ました。
展覧会の概要
三の丸尚蔵館は天皇家の宝物を展示するスペース。今回は水と月にちなむ優品27点から、主に近代日本美術の精髄を堪能する企画を構成しています。
展示は二室に分かれ、第一室では工芸品、第二室では絵画がメイン。国立博物館等に比べると展示規模は小ぶりですが、質の高さは十分。軽すぎず重すぎず、大手町散策の合間に立ち寄るのに最適なコンパクト美の凝縮です。
展示について
タイトル『水の情景・月の風景』にちなみ、水と月の片方あるいは双方を含む絵画と工芸品が並びます。意外とバリエーション豊かなのは『水』。湖、海はもちろん、雨や雪も水といえば水なので、堂々と「H2Oですがなにか?」とばかりに混じっていました。
工芸分野は蒔絵作品の出展が多めな印象。
日本美術の古典的モチーフを用いることが多い蒔絵ジャンルには、今回のテーマにドンピシャなお題が存在します。その名も近江八景。
琵琶湖畔の名勝を題材にした近江八景はほぼすべてに「水」か「月」が含まれるため、相性抜群です。今年の大河ドラマの主役である紫式部が石山寺で月を見ながら源氏物語の構想を練った場面「石山秋月」を描いた蒔絵が圧巻。繊細な技巧と豊かな表現力が融合し、蒔絵に使われた金箔がさやかな月光を感じさせてくれます。
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濤川惣助の『七宝墨画月夜深林図額』は一見すると水墨画。しかし、実は七宝細工の技巧を駆使したという驚異の作品。水墨画の雰囲気を出すために300種類もの釉薬を使用したそうですが、超絶技巧すぎるため近づいて見ても本物の水墨画と判別し難い。凄まじい職人の執念が漂いつつも、あくまでもあっさりしたギャップが面白い作品です。
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日本画の伝統と西洋近代風景画のスタイルを融合させた画家・川合玉堂の『雨後』は、初夏の瑞々しい林とともに雨上がりに立つ虹を描いた美しい一枚。木々の細部の繊細な描写と靄を含んだ白い空気の対比が見事。虹はうっすらと、見えるか見えないかギリギリの虹色が絶妙です。
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展示室奥の片隅で異彩を放っていたモノトーンの梅図。みっしりした梅枝の表現にやたら目を惹かれるなぁと近付いて、そこで初めて伊藤若冲の『動植綵絵 梅花皓月図』だと気付きました。動植綵絵は何度か見ているけど、シリーズから切り離されるとまた違った雰囲気になりますね。密度の高い梅枝の向こう側に月が煌々と照る表現に目を奪われます。独特の存在感を放つ一枚。
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初めて見た平福百穂の『朝露』は、淡いミントグリーンの植物が爽やかな美しい屏風絵。古典的な形式ながら、月光に輝く露と草は近代日本画ならではの写実表現となっており、飾ってあると気分があがる素敵な作品でした。
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今回の目当てである上村松園の『雪月花』は王朝文化を題材にした三幅対の傑作。童子が桜を見上げる「花」、女房が月を愛でる「月」も美しいものの、特に「雪」が素晴らしい。描かれているのは枕草子の一幕。中宮定子から「香炉峰の雪いかならむ」と問われた清少納言が白楽天の詩「香炉峰の雪はすだれを掲げて看る」を踏まえて雪の朝、すだれを上げてみせた場面。すだれ越しに見える十二単の襲の色彩美と相まって、王朝の雅の極致を表現しています。三幅対で見たのは初めてですが、一枚ずつでは少し寂しいかもしれない、三枚セットで調和する作品と感じました。
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まとめ
日本美術の豊かな表現力と技巧を堪能できる『水の情景・月の風景』、大手町近辺を訪れた際には、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょう? のんびり見てもあまり時間はかからないので、仕事帰りにも立ち寄りやすく、おすすめ。