自由研究を極めたら ~ぼくが選んだ最強の岡山古墳【同人誌レビュー】
自由研究。
それは夏休み最終日の小学生を悩ませ、家族保護者を混沌と寝不足の淵へ落とす恐るべき刺客…
ではなく。
本来は子供が自分の趣味や嗜好に従って、自由な発想で行う研究のことですね。
夏休みの宿題の代名詞になったのは、長期休暇で時間が余っているので自由研究させやすいと学校が判断した古の伝統が生き残ってしまったからでしょう。主旨通りならもっと楽しいもので良いはず。
先日、そんな自由研究本来の姿を思い出させてくれる同人誌(個人誌?)を読みました。面白いのもそうですが、普通に古墳ファン向け実用書としても役立つ内容だったのでnote記事にしておきます。
冊子情報
著者はなんと当時小学生(現在は中学進学したそうです)
もちろん、小学生に162ページのフルカラー本を個人出版する財力はない(はず)ですので、家族の合作ではあるのでしょうが、それを差し引いても溢れる古墳愛と行動力、企画力に脱帽です。凄いの一言。
作者の「はにお」さんは古墳を専門とする考古学者からも一目置かれていたりするそうですが、噂に恥じぬどころか版築工法で埋め立てんばかりの愛に満ちた作品でした。
紹介されている古墳
タイトル通り、岡山県に存在する古墳のうち、作者が実際に訪問して写真撮影したものの中から100古墳をセレクトして紹介しています。
ポイントは100古墳であって「100基」ではないこと。
つまり、古墳群は1古墳のカウントなのです。欄外に「併せて訪れたい古墳」コラムもあるので、実際に掲載されている古墳は1000基近いかもしれない。しかし岡山県の古墳は約12,000基と言われますから、10%にも満たない数なのがまた凄いですね。
古墳のナンバリングは基本的に地域順。岡山県全域を隈なく網羅しています。
栄えある第一号はもちろん、岡山市北区の『造山古墳』。全長350メートル、どうして近畿から遠く離れた岡山に作られたのか謎な全国第四位の超巨大古墳です。
造山古墳には複数の倍塚がありますが、これらも第一号としてまとめて紹介。ただ直弧紋装飾で有名な倍塚『千足古墳』だけは独立したNo.2のカウントです。
本書で紹介された100古墳の中には『中山茶臼山古墳』(No.4)や『神宮寺山古墳』(No.10)のような有名どころもあれば、調査すらされていない朽ちたものまで様々な墳墓が含まれます。
ちなみに、No.100は陶棺が埋葬時そのままの位置に置かれたままの姿が見られる『霊明塚古墳』とのこと。
陶棺は東京国立博物館の考古学展示室に常設展示されているのですが、自然状態のものを見ることが出来る場所があるとは初めて知りました。驚きです。
なお、No.100の次にスペシャルとしてNo.00『楯築墳丘墓』が載っています。
弥生時代の終わり、古墳時代が始まる直前の最後の弥生墓、古墳の直系の先祖といわれる楯築墳丘墓がちゃんと掲載されていることに「分かってるなぁ!」と膝を叩きたくなってしまいます。
古墳パラメーターは★いくつ?
この記事の副題は『ぼくが選んだ最強の岡山古墳』としましたが、何でこんなタイトルにしたかと言えば、各古墳の紹介の仕方に理由があります。
この本、紹介する古墳の基本情報(位置、墳形、埋葬施設、年代、文化財区分)を掲載してくれている一方で、各古墳のせんとうりょく(仮)を★最大五個で表現しているんです。そのパラメーターが
墳丘の美しさ
石室の美しさ
到達難度
レア度
オススメ度
レア度(笑)例えば造山古墳は超巨大なのでレア度★★★★★だそうです。攻略本とかムック本で見たランク付けを思い出してニヤニヤしてしまいますね。
それでいて評価はきちんとした判断に基づいている真面目仕様。特に到達難度は古墳の立地条件と結びついており、登山道のない山だったり奥地だったりの地形情報を知る手がかりとして重要です。
載せている写真のクオリティやページレイアウトが立派すぎて(ほとんどセミプロの技)手作り感は薄味ですが、★★★の並びを見ると小学生の自由研究を思い出して懐かしくなります。なんか好き。
まとめ
岡山県の古墳に的を絞った趣味オブ趣味の同人誌。
一般書として出版されていたとしても普通に買うレベルのハイクオリティな一冊でした。
古墳ファンは絶対に満足できる内容ですので、気になる方はゲットしてみることをオススメします。
おまけ:入手方法
個人出版ですが、岡山県内の書店で委託販売しているところがあるようです。また、遠方の人向けに「郁文堂書店 庭瀬店」や「河内こんだハニワの里 大蔵屋」で通販も対応してくれる模様。
個人出版ゆえに在庫がいつもあるとは限らないため、最新情報を検索するのが安全そう。
おまけ:メディア情報など
この本、小学生が作った本格古墳ガイドということで話題になり、ニュースで紹介されたりもしたみたいです。
本人のツイッターには古墳愛に満ちた著者近影も。古墳クッションいっぱいで凄い。