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【レビュー】オリエント急行殺人事件(映画)

こんにちは!
今『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』が絶賛上映中ですね。
私は一時期NHKBSプレミアムを観ていた時期があり、ゴールデンタイムにやっていた名探偵ポアロシリーズも観ていたため、ちょっと興味があるのですが、旦那はポアロシリーズをほとんど知らないらしく、アガサクリスティ―と言えば『そして誰もいなくなった』と『オリエント急行殺人事件』はタイトルだけ知ってるとのことだったので、

『オリエント急行殺人事件』の映画がちょうどアマプラ会員無料だったので、こちらを観てみました。
ということで、さっそく感想を綴っていきます。


とてもおしゃれな映画


ミステリーを観るぞ!と観始めましたが、謎解きよりもまず印象に残っているのが映像美。
例えばなんですけれど、ジョニーデップ演じるラチェットの死体を発見したシーン。ここってミステリーだと一番初めの見どころというか、コナン君だとどうしたどうしたドタドタドタドタからの顔に縦線入って黒目が小さくなった登場人物が悲鳴を上げて視線の先には死体がドーーーーン!!!!(キュイィィィーバタンッ)じゃないですか。
でも『オリエント急行殺人事件』はですね、死体発見シーンで死体が一切映らないんですよ。
映らないどころか、どこか静か。もちろん「ワーオ・・・!」くらいのドタバタはあるんですけれど、どこか俯瞰的と言うか。というのも、カメラがですね、ずっと登場人物を上から映しているんですよ。だから死体を見つけて「こりゃてーへんだ」となる人たちの表情とかが一切映らないんです。映るのは頭上だけ。これがすごく新鮮でした。
この頭上目線はその後もたまに出てきます。
最後全員に事件の謎解きを言うシーンで、登場人物が横並びに映っているんですが、その並びが明らかに最後の晩餐を意識している並びだったりするところもとても印象的で、

最後の晩餐

そのときのポアロは、「神と自分には隠し事は不可能」というようなことを言います(※セリフうろ覚えですが大体同じような感じのことだったと思います)。そこから、もしかしてたまに映っていた、上から俯瞰して映していた映像というのは、神からの視点という表現だったりして・・・とか思ったりしました。全然違うかもだけど。
そのほかに、窓越しで車内の様子が撮影されているシーンが挟まれるのも印象的でした。これは一番最初にポアロが車内を移動しているシーンと、最後ポアロが降りた後にまだ列車に乗っている乗客たちがポアロをじっと見つめるシーンで使われていて、この事件の最初と最後で合わせる感じもおしゃれですよね。
最後の終わり方も、私もっと昔に作られたほうの『オリエント急行殺人事件』をほんの少しだけ観たことがあるのですが、そちらはもっとこう、しっとりとした終わりではあるけれど、登場人物全員の笑顔がほわんと出てきて終わった気がするんですよね。一方今回は、最終的に列車の乗客たちにとっていい方向に話が進みはしたものの、全員が真顔のまま、ポアロに特に何を言うこともなく(言う隙もなく降りたというのもあるけど)、何事もなかったかのように列車が静かに走り出すんです。このあたりもまーーーー。この結末の善悪は観客一人一人の価値観に委ねます、という終わり方だなぁと感じました。
あと、映像美とは少し違うかもですが、序盤の列車が走っているときの様子とかが、昔の列車っぽい荒々しい揺れが再現されていて、見ているこっちが少し酔いそうになりました(私だけ?)。

小学生には難解、大人でも完全に理解するには2周目不可避

もちろん誰もが知るであろうアガサクリスティーの名著でございますので、観る人はどういうオチなのか、犯人が誰なのか知っているだろうという前提で作られているというのもあると思いますが、この映画、ミステリーにしては観ている側に謎を解かせる隙が無いくらいトントンと話が進んでいきます。
登場人物は徐々に全員把握していけるものの、誰がどういうアリバイがあるのか、何がどう伏線なのか、そういうところをですね、普通のミステリー作品は、どこか映像のなかで粒たてて表現することで、観ている人に「おや?今の何か怪しかったぞ?」「これはどういうことなんだ?」「なんかわからないけれどさっきのシーン引っかかる気がする」と探偵役と一緒に考えさせるはずなのです。で、その一つひとつのシーンの伏線が最後探偵の謎解きで回収されたときのアハ体験が爽快、というのがやはりミステリーの醍醐味なのだと思うわけです。
私が観ていたNHKBSプレミアムのポアロドラマシリーズだって、コナン君ほどではないにしろ、一つ一つのシーンを粒立てて、「えーこれなんかの伏線なんだろうけどわからんーーー」となっている素人探偵の私をはるかに凌駕する推理力でプロ探偵のポアロが見事に事件を解き明かす、というものでした。
ところが、同じポアロシリーズでも、今回の映画『オリエント急行殺人事件』は、全てが粒立てよりも、なんというか、リアル感重視というか。
まあそりゃ実際にリアルで現場に遭遇したら、珍妙なSEと共に登場人物がキーアイテムに目くばせしたりしないし、大事なシーンがズームアップされることもないし、大事な言動でいきなりBGMが変わったり、その言動が探偵の頭の中でフラッシュバックされる様子が見えたりはしないわけですよね。
まあ最終的にどういう流れで結論がどうなったのかは十分把握できるレベルではあるのですが、言うてそんなに原作のこと覚えてないので、細かい部分とかはもう1周しないと見逃しているところ多そうだな―と思いました。もしくはもう原作読んじゃうとかね。
一回も原作読んだことがない小学生とかが観たら、正直何が起こってるのかわからないと思います。ミステリーって小学生でも面白く観れるジャンルだと思っていましたが、こうなると話は別だ。

今観ても面白いアガサクリスティーの世界

と、ここまでは現代の監督が作ったこの映画ならではの特徴ですが、普通に久々に『オリエント急行殺人事件』の物語を観た感想としては、やはり世界の名著なだけあって今観ても面白いよね!
まずいいなと思うのはキャラクター性の立ち方ですよね。
探偵役のポアロはもちろん魅力的な人間ですし、その他の登場人物も一人一人がキャラが立っていて、人間味がある。
ミステリーのなかにも、案外登場人物に人間性をあまり持たせないというか、この人は真面目なサラリーマン、この人はサイコパス、この人は視点が狭い主婦、みたいに一言で人物紹介が終わるくらいのキャラクターで、どちらかというと人が死ぬというスパイスで物語を動かしながら謎解きに主眼を置いて話を進めるタイプのものもあって、結構現代日本小説ってそういう系のミステリーが流行りなんじゃないかなと思ったりしているのですが。
今回映画を観ていて、やはり導入や謎解きの随所に挟まる、ミステリーとは関係ない登場人物同士の掛け合い、これが観ていて楽しいというのが流石だなぁと思います。物語のために人物を動かしているんじゃなくて、人物が動いているから物語が動く、この感じね。
あと謎解きも普通に観ていて面白かったです。特に旦那はストーリーの内容が初めましてだったので、「まさか犯人が・・・」というところが結構驚きの展開だったみたいです。そしてそんな旦那みたいな人が読んでいるかもしれないから未だに肝心なオチの部分について一切ネタバレせずに書いている私偉くない?(そんな人いないと思うけど)

ということで、「ポアロかー。名前だけ知ってるけど実は読んだことはないなー」って人は、こちらの映画からまず入ってみてはいかがでしょうか。

では!


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