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人間関係のスタイルと幸福感:交友の数と質からの考察

はじめに

現代社会において、多くの人々が幸福な人生を送ることを願っています。幸福を追求する中で、人間関係の重要性は広く認識されていますが、具体的にどのような人間関係を築けば幸福に繋がるのかは、未だ明確な答えが出ていません。

本稿では、内田由紀子氏らによる研究論文「人間関係のスタイルと幸福感:交友の数と質からの考察」を基に、人間関係における交友の数と質が幸福感に与える影響について、より詳細に分析し、その結果を踏まえて、どのような行動を取れば幸福度アップに繋がるのか具体的な提案を行います。

研究1:身近な人間関係における交友の数と質

方法

関西の3大学に通う日本人大学生75名を対象に、ソシオグラムを用いた調査を実施しました。ソシオグラムとは、集団内における個人間の関係性を図示化する手法で、参加者たちは自身の周りの人間関係を視覚的に表現しました。具体的には、大学、家族・親戚、アルバイト先の3つの領域における人間関係を図式化し、各領域におけるグループの人数や、そのグループとの関係性から感じる感情などを回答してもらいました。

結果

  • 交友の数(ソシオグラムに記載された人数)は、幸福感(人生への満足感、身体の健康、ポジティブな感情)とは関連性がなかった。

  • 交友の質(人間関係から得られるポジティブな感情)は、幸福感と関連していた。

  • 大学における人間関係では、交友の数が多いほど、ポジティブな感情を感じ、ストレスが少ない傾向が見られた。

  • アルバイト先で多くの人と知り合うことは、心地よい関係の増加だけでなく、ストレス源となる人間関係の増加にも繋がる可能性が示唆された。

考察

研究1の結果から、身近な人間関係においては、交友の数よりも交友の質が幸福感に影響を与える可能性が示唆されました。これは、単に多くの人と関わるだけでなく、質の高い人間関係を築くことが重要であることを示しています。

研究2:より広範な人間関係における交友の数と質

方法

日本人大学生641名を対象に、より広範な人間関係を対象とした調査を実施しました。参加者たちは、一般的な人間関係における交友の数、交友の質、そして人間関係に対する希求度(多くの人と繋がりたいか、安定した関係を維持したいかなど)に関する質問に回答しました。

結果

  • 交友の数と交友の質の両方が、幸福感と関連していた。

  • 人間関係を広く求める「開放型」の人では、交友の数が多いほど、人生への満足感と関連していた。

  • 既存の安定的な人間関係を維持しようとする「維持型」の人では、交友の質が高いほど、人生への満足感と関連していた。

  • 開放型の人は維持型の人に比べて、多くの人と良い関係を持ち、人生への満足感も高かった。

  • 開放型の人は、維持型の人に比べて、一般的信頼感(他者を信頼する傾向)が高かった。

考察

研究2の結果から、人間関係に対する希求度によって、幸福感に繋がる人間関係のスタイルが異なる可能性が示唆されました。開放型の人は、多くの人と関わることで幸福感を得られるのに対し、維持型の人は、限られた人たちと深く関わることで幸福感を得られると考えられます。

総合考察

2つの研究結果を総合的に見ると、幸福感と人間関係の関連性は、画一的ではないことが分かります。個人の性格や人間関係に対する価値観によって、幸福に繋がる人間関係のスタイルは異なる可能性があります。

幸福度をアップさせるための具体的な行動

上記の研究結果を踏まえ、幸福度をアップさせるために、私たちは以下の様な行動を取ることができると考えられます。

  1. 自分のタイプを知る: 自分は開放型なのか、維持型なのか、あるいはその中間なのかを把握しましょう。

    • 開放型の場合: 積極的に新しい人間関係を築き、交流の幅を広げてみましょう。

    • 維持型の場合: 既存の人間関係を大切にし、より深い絆を育むように心がけましょう。

  2. 質の高い人間関係を築く:

    • 相手の話をよく聞き、共感する。

    • 自分の気持ちを素直に伝える。

    • 感謝の気持ちを表現する。

    • 相手の立場を尊重し、思いやる。

    • 信頼関係を築く。

  3. ストレスとなる人間関係を見直す:

    • 自分にとって負担となる人間関係は、無理に続ける必要はありません。

    • 距離を置く、あるいは関係を解消することも選択肢の一つです。

  4. 人間関係のバランスを意識する:

    • 仕事、家族、友人など、様々な人間関係のバランスを意識しましょう。

    • 特定の人間関係に偏ることなく、多様な人間関係を築くことが大切です。

  5. 自分自身の内面を磨く:

    • 自己肯定感を高め、自信を持つ。

    • 趣味や興味関心を広げ、充実した時間を過ごす。

    • ストレスをうまく解消する方法を見つける。

本研究の限界点と今後の展望

本研究は大学生を対象としたものであり、他の年齢層にも同様の結果が当てはまるかどうかは不明です。また、幸福感の指標や測定方法についても、更なる検討が必要です。

今後は、より多様な年齢層や文化を対象とした研究、そして幸福感の測定方法の改善などが求められます。

参考文献

  • 内田 由紀子, 遠藤 由美, 柴内 康文. (2012). 人間関係のスタイルと幸福感:交友の数と質からの考察. 実験社会心理学研究, 52(1), 63-75.

  • Baumeister, R. F., & Leary, M. R. (1995). The need to belong: Desire for interpersonal attachments as a fundamental human motivation. Psychological Bulletin, 117(3), 497-529.  

  • Kitayama, S., Mesquita, B., & Karasawa, M. (2006). Cultural affordances and emotional experience: Socially engaging and disengaging emotions in Japan and the United States. Journal of Personality and Social Psychology, 91(5), 890-903.

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