ショートショート いい女の末路
「あんた、いい女になったね」
友人の文子から言われた怜子は、
「どこがよ」
と聞いて来た。
「歩きタバコしてる姿がカッコいい」
「ほんとはいけないんだよ」
「お前が言うな」
と文子は笑った。
「あたし、もうだめなんだ。だから、いろんなこと、やめてるし、捨ててるし、断捨離?してるんだ」
怜子は、言った。
「彼とは?」
「とっくに別れた」
「そうなんだ」
怜子は、クスッと笑い
「なんであたしのことばかり聞くの?」
と文子に言った。
「気になるからだよ。いつのまにかいなくなってる気がするんだ」
文子の率直な思いでもあり心配でもあった。
「あたし、いなくなるか、、案外、あってるかもね」
怜子は、タバコをポケットに入れて
文子に向き合う。
「癌なんだって、肝臓」
「まさか、余命宣告されてるの?」
「いや、されてないけど、なんとなく分かる」
「そう言う人って長く生きるんですよ」
「あはは」
怜子は笑った。
文子には分からなかった。彼女の思い、覚悟........。
『この女が、そんなに早くいなくなるなんて信じられない』
そう思っていた。
この世からいなくなって、7ヶ月。
怜子を思い出さない日は無い。
「でもさ、あんたの選ぶ男は、ひどいヤツばっかりだったよね」
「ダメンズ選考大会があったら、あんたはいつも優勝だったろーな」
文子は、泣けずにいた。思い切り泣きたいのに泣けない自分に、苛立っていた。
どうしてなのか、分からない。
皆んな葬式で泣いてるのに、私は涙が出なかった。
「あんた、タイタニックが好きだったね」
あの怜子が、『毎回、泣くんだ』と言ってた。
『何回、見てんだよ、まったく』
文子は、心の底に小さな穴が開いてるような感覚があった。
それは、とても小さい穴なんだけど、時々、隙間風がヒューヒュー吹く。
『早すぎたんだよ、怜子』
あんたは、あたしの憧れだったんだ。いなくなって分かる感情がある。
時が経つと、また違う感情が現れる。
早く忘れたいよ、あんたのことなんか。
重いんだ、この思い。
このまま引きずって生きていくしか無いのかな。
いつか、私が死ぬまで。
もし、死んだとしても、あんたに会えるとは思っていない。
死んだらそこで終わり。そう思っているから。
あんたのことを思う、この面倒くさい感情が終わるなら、それはそれで清々するかもね。
でもね、もしも、もしもだよ、
来世があるなら、あんたに会いたい。