【ショートショート】日曜日から始まる(最終話)
【創作】日曜日、朝から雨だった。
俊介は洋子に電話するが話し中で繋がらない。
「今から室内テニスコートは取れないだろうし、今日はどうしよう」
俊介は、洋子に電話が繋がらないという事から、気持ちが消極的になっていた。
※
洋子は掛かってきた電話に出ていた。
「はい、えっ、はい、はい、はい、わかりました。ありがとうございます、はい」
通話が切れ、洋子は考えていた。
朝から雨の日曜日、
「今日のテニスは、延期かしら」
ちょっとだけ、その方が都合が良いと思う洋子だった。
スマホが鳴る
「あ、俊介さん。こんにちは。今日は雨ですね。実は、私、行かなければならない用事が出来まして.....」
「じゃあ、今日は、延期しましょう。また会えるんだ。その時を楽しみにしてます」と、俊介。
「はい、ありがとうございます。では、また今度」
洋子は、それから急いで出掛ける準備を始めた。
雨の中、バス停まで急ぎ、洋子は逸る気持ちを抑えながら、それでもやっぱり、急いでしまう。
俊介は、透に電話をかけた。
「おい、透、今日の予定は、無いよな。ちょっと付き合ってくれない?」
「お前、なんだよ、その言い方、俺じゃ無かったら怒ってるぞ」
「だから電話したの。ねえ、透お兄さん、付き合って〜」
「雨だぞ、それなのに付き合えって、なんだよ。あ!お前、もしかして見合いしたのか?」
「うん、したー。エヘヘ」
「はいはい、おめでとう。で結婚式はいつ?」
「バカ、そんな話は、まだしてないし」
「はいはい、で、何処に行けばいいんですか?」
「サンキュー透!駅で待ってる」
※
洋子は用事を済ませ、これからどうしようか、考えていた。
『あ、テニスシューズ、見に行こう』
洋子はデパートから近い、大きなスポーツショップに行くことにした。
雨はまだ降り続いていた。
洋子がテニスシューズを眺めて、試し履きをしようとした時、
ハッと息を飲んだ。
『あの人がいる』
洋子は言葉にならない思いに胸が苦しくなる。
『声を掛けよう』
ドキドキしながら彼に近づく。
その時、
「洋子さん」
俊介に呼び止められた。
「俊介さん、どうして此処に?」
「シューズを見に来たんです。洋子さんもですか?」
洋子はドギマギしていた。
そして、彼と目が合った。
「よお、透。紹介するよ、コチラ、
朝霧洋子さん」
透は、自分はその場に居てはいけないと思い、俊介に
「俺、用事思い出したから」
と、その場を去ろうとした。
「あの、待ってください。行かないで」
洋子は必死に止めた。
「お願いします。何があったのか教えてください。行かないで」
洋子は目に涙を浮かべ懇願した。
そんな洋子に俊介が困惑した。
「ふたりは知り合いなのか?」
「ごめん、俺の方がおじゃま虫みたいだな、洋子さん、この男は俺の親友、飛騨透。名前は知らないのかい?」
「俊介さん、ごめんなさい。なんて言ったらいいか.....」
俊介は、事の次第を考えていた。
『洋子さんの様子をみると、普通じゃない。ずっと透を想っていたように見える。透も冷静に話しているが、偶然に出会ったようで戸惑っている』
「俺が説明するよ、洋子さん、俊介も、場所、移ろうか。カフェに行こう」
3人は、少しだけ距離を取り、歩きながらカフェに入り席に座った。
洋子は涙を拭い下を向いていた。
そして、あの日起こった事を詳しく話した。
「心配をかけてしまいごめんね」
透は洋子に優しく語りかけた。
「お前が運命の人と言ってた人は洋子さんだったのか」
「今日はふたりで話し合った方がいいと思う。俺は帰るよ」
俊介は、席を立った。
洋子は、立って深くお辞儀をして
「ごめんなさい」とだけ、言った。
「実は今日」と言って洋子は、きれいに梱包されたモノを透に見せた。
「開けてみてください」
と言って洋子は透に渡す。
透が梱包を開けると、『あの傘』だった。
「デパートの店員さんから電話があったんです。一本だけ入荷したから」と。
「待ち合わせの日、待っていたら、店員さんが声を掛けてくれて、名前と電話番号を教えていたんです」
洋子の話はまだ続く。
「次の日の月曜日、デパートに行きました。そしたら、透さんが来たばかりでと言っていて、傘を探していたようだったと、聞いて、何故、傘を?って疑問でした。それに透さんが傘売り場を離れてすぐに、私の名前と電話番号のメモがわかって、透さんを追いかけたそうなんです」
店員が、そんなことまで親切にしてくれていたことに、透はありがたいと思った。
「行けなくて本当にごめん」
「いいの。そんなことがあったら、私だって待ち合わせ場所には行けないわ」
「だから、透さん、それはあなたの傘にしてください」
「いいのかな、俺にはこの傘を持つ資格があるんだろうか」
透は、正直に心中を吐露した。
「もちろんです。それはあなたの傘です。私と透さんが選んだ傘ですから。私、あの日、ふたりで手を伸ばした傘が同じだったこと、すごく嬉しかった。また、こうして、透さんに、出会えた....それが、どんなにうれしいか....」
「僕も同じ気持ちです。名前を名乗らなかった事を、すごく悔やんで、でも、また会いたかった。同じ傘を持ってる洋子さんに。洋子さんに会いたかった」
ふたりは互いの想いを確認してしまった。見つめ合い、そして、心が苦しくなる。
俊介のことだった。
「洋子さん、俺はキミをずっと想っていた。また会いたいと思っていた。でも、キミは俊介とも出会った。俊介のことは、どう思っているんだい」
洋子はふーっと息を吸うと
「俊介さんとは先週初めてお会いしたんです。でも、どこか後ろめたい気持ちも抱えていました。
私は透さんを想っていました。
だから、俊介さんと一緒にいてはいけないのではないかという気持ちを持っていました。
だけど、断れないのは、自分の意思の弱さから、透さんと会えない現実から逃げたいという気持ちもあったんです」
「でも、私は透さんと会うことが出来た.....俊介さんには私が謝ります。今日だって雨が降って無かったら、テニスをする約束をしていたんです」
「俊介には、僕が謝るよ。洋子さんは気にしなくていいよ。キミにツライ思いをさせたくない」
※
その時だった。透の後ろの席に座っていた帽子の男が、
「おい、おい、人を何するって!
黙って聞いてりゃ言いたい放題、人を小馬鹿にするんじゃねえよ。
透、お前と俺は何年、付き合ってると思ってるんだ!」
「俊介!!何してるんだ、お前、話、聞いてたのか?」
「はいはい、思った通りの展開になって来たから笑いが止まらなくなって、そしたら、ふたりで『謝る』って、可笑しな方向になって来たから、俺様登場!って訳よ」
「透、洋子さん、俺に気を使うのはやめてくれないか。俺はこれからも透と仲良くしていたいし、洋子さんとは友だちになりたい。ふたりが、同じ想いを抱いてるのはわかった。その上で俺もまぜてくれよ〜」
「俊介、ありがと。俺、お前が大好きだ」
「え、何言ってんの?俺たちが付き合っちゃうの?やだ〜」
「俊介さん、ありがとう。友だちとして、よろしくお願いします」
透も洋子も笑顔になって、
「よし、握手しようか」の俊介の声で3人は握手した。
「俺も良い人、見つけようっと」
俊介は、飛び切りの笑顔で言った。
外に出ると、雨は上がって夏の終わりを告げる風とまだギラギラする太陽が、その場の主役だった。
透は傘を差す。透の持っていた傘は俊介に渡された。洋子も傘を差そうとすると、透に遮られ、一緒の傘に洋子を誘った。
「ふたりの時は、これでいい?」
「はい」
洋子は笑顔で透の誘いを受け
ふたりは手を繋いだ。
完
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