【漫遊後記】大船渡の銘菓から謎解きの宿題をもらうの巻
去る5月5日、その日のドライブ旅の場面記事を幾つかアップして眠りについたわけですが、翌朝になって読み返してみたら、嫁さんを案内して周った大船渡について全く触れておらず、それでは余りにも無体に過ぎると考えるに至りました。(情報が陸前高田市に偏っている!)
そこで「何か備忘しておくことはないかしらん?」と思い返してみたら …… ありましたよ。そう、好奇心を誘う謎がひとつあったのです。
その謎は、子どもの日で賑わう菓子店「三陸菓匠さいとう 総本店」の中で、ぽつねんと佇んでいました。
1:大船渡 再考の一歩
岩手県外の人々にとっては、「三陸菓匠さいとう」よりもむしろ「かもめの玉子」の方がお馴染みかと思います。
特に、東北新幹線が開通してからは、車内販売は勿論のこと、各地の土産屋(デパ地下や高速道路のドライブインや道の駅等)や物産展などの催事でも見ることが増えた岩手県を代表する銘菓だと言えるでしょう。
失礼な物言いになってしまうやもしれませんが、折に触れてかもめの玉子を口にしてきた僕でさえ「岩手の ” かもめの玉子 ” って、〇〇製パンみたいに工場で黙々と大量生産しているメーカーさんが作っているお菓子なんでしょう?」くらいの認識でしたし、大船渡に総本店があることすら知りませんでした。そのくらい頓着なく食べてしまっていたのです(猛省)。
まぁ、いわゆる ” 土産物ライクなパッケージ ” って、悲しいかな … その見た目から注意を払わずに食べられてしまう傾向は否めませんよね。昨今は、その辺を考慮した商品開発やブランド化が推奨されているのでしょうが、それが過剰になると価格に跳ね返ってくるので、消費者としては悩ましいところです(過度なブランド化に対する懸念のひとつ)。
おっと、余談が過ぎました。話を戻しましょう。
そもそも、僕にとって大船渡の街は、仕事で宮古や釜石へ向かう際に、早朝もしくは夜中の時間帯に車で通りすぎる一市町村に過ぎませんでした。
夜中に国道45線をひた走っていると、気仙沼を過ぎたあたりから何かしら心細くなったものですが、大船渡の太平洋セメントの煙突が宮古までの道程を示してくれているように思われ、暗闇の長距離運転に疲労を覚え始めていた自分を鼓舞していた記憶があります。
勿論、大船渡の界隈もまた、釣りや登山のみならず、民俗学的にも興味を掻き立てる土地柄であったことから、学生時代から遠野や花巻界隈を中心に山や川へと足繁く通っていたわけですが、残念ながらピンポイントで大船渡市を堪能するような時間を持つことはなかったと … 。
こんな僕ではありますが、年月を経た今、岩手県三陸沿岸地域に地縁を持つきっかけを得たこともあり、改めて大船渡市について理解を深めようと考えるに至りました。
2:変わりゆく港町
現在の大船渡市は、僕が知る ” 古き良き漁師町 ” とは異なった趣の町になりました。それはやはり、港と町を隔てる防潮堤の存在が影響している事は否めません。特に、ここ大船渡湾を囲む防潮堤は、港湾に接する道路計画にも顕著に現れており、初めてこの地を訪れた人々は、これまでに感じたことの無い非日常的な印象を覚えるはずです。
さわさりながら、大船渡は予てから防災意識が高いことで知られており、それは過去に起きた津波被害の歴史を、多くの市民が共有していたことに因ると言われています。こうした危機意識が、去る大震災以降の町の在り方を決定していったのでしょう。(※今現在の町の有様が、市民の総意でないにせよ、減災に対する思いは同じだったと思います。)
ともすれば重厚で威圧的な印象を放つ防潮堤ではあるけれど、有志を中心とした支援者らの手によるモザイク タイル アートが、この地を訪れた人々の心に潤いとポジティブな働きを与えているように感じます。
3:謎の獅子頭 ガガニコ
さて、本題に入りましょう。
此度の主役 謎の物体X は、前出の ” かもめの玉子 ” で知られた「 三陸菓匠さいとう 総本店 」の最奥の陳列棚に鎮座していたのでした。
この ” 謎の物体X ” とは ガガニコ を指します。
ガガニコ …… 音の響きからして違和感しかありません。平素、この様な音を組合せた言葉を発する機会はないですから … 。
一瞥して、全国各地で見られる獅子頭の様にも思われましたが、もしそうだとすれば、あえて大船渡発の菓子であることを主張する程のアイデンティティは無いはずです。
されば、宮城県北部から岩手県南部地域にかけて広く伝承されている鹿踊りの際につける鹿頭かとも考えましたが、その面構えにおいては、獅子こそ表現しているものの、スタンダードな鹿頭についているはずの鹿を表す角や、猪を想起させる牙もありません。
※「しし」が渋滞してすみません。なお、鹿頭の形態は地域によって微妙な異なりがあります。
困惑しつつも、よくよく眺めてみると、頭の頂部に宝珠と思しき造形が施されています。これが一般的な獅子頭とは趣を異にする部分なのかもしれないと感じました。(他に例が無いわけではないが … 。)
がしかし、ふと右下の棚に置かれた獅子頭を見てみると、宝珠が無いバージョンが置かれています。もはや何某かの特長や異なりを見い出すことが難しくなりました(汗)。
そのようなわけで、ド近眼+老眼の目を凝らして掲示物のテキストを読んでみると、ガガニコ = 火伏せの権現様 であることが分かりました。
火伏の神様ということであれば、ガガニコの左隣に陳列されていた「かまど神」というお菓子とコンセプトがダダ被りしているような気もするのですが …… それはオブザーバーが見た幻ということにしておきましょう。
※かまど神:宮城県北部から岩手県南部にかけて現存する習俗・信仰。宮城県では「かま神」とか「かま男」と呼ばれている。サイズは概して大きく、家内安全や竈の火伏を願って祀る木彫りの面。
とまれ、かような説明だけで納得する性分ではないのですが、隣接する体験スペース(かもめの玉子をデコレーションできるコーナー)の賑わいが気になったのと、そして何より季節限定「 みたらし団子ソフトクリーム 」に気持ちが飛んでしまい、心苦しくも ガガニコの謎 を一旦放置プレイすることにしたのでした(花より団子)。
※みたらし団子ソフト:団子はクオリティー高し。みたらしのタレは、どちらかと言えば 甘味<塩味 で個性的かつ美味。全体のバランスは洗練されている。お値段は580円也。当地へお越しの際はご賞味あれ。
帰宅してから、同社のウェブサイトを確認してみたのですが、ガガニコは掲載されていませんでした(限定的に販売されているのかな?)。また、Google先生においても、お店で確認できた事柄以上の情報に出会うことはなく、現況は核心に辿り着けていない状態にあると言えるでしょう。
ともあれ、あの風体とガガニコという音の響き(かじる音)が表している様に ” 獅子頭的な役割 ” を担っていることは確かなようです。
また、あくまでも僕の推測ではありますが、地形的(街の三方を山が囲む)かつ気候的な観点(表日本型の海洋性気候・季節風の影響等)からも、火災に対する危機感が強い地域であることは明らかで、そうした意識をガガニコが体現しているようにも思われます。
而して、此度は ガガニコ(かまど神も)を賞味していないので、再訪の折(今月末に再訪予定)には買い求めたいところです。
そんな食の楽しみを交えながら、大船渡に長く残ってきた慣習・習俗を堪能していこうと考えています。
4:最後に
もし、貴方が旅の行き先に迷うことがあれば、是非にも岩手県の三陸沿岸地域も旅先の候補に入れて計画されることをお薦めします。勿論、昨今話題の盛岡市も良いですが(微笑)。
また、花巻や遠野といった岩手県南部の内陸地域へお越しの際には、もう少しだけ足を延ばして頂ければ、この豊かな海辺の町に残る文化や海産物、そして銘菓を堪能することができますので、ご一考されますようお願い申し上げます。
それでは、過日の記事の反省も冷めやらぬ中、相も変わらずの長文駄文にお付き合いを賜り、本当に有難うございました。