『貞観政要』と三つの鏡(1/3)~銅の鏡~
1.『貞観政要』はどんな本?
皆さんは『貞観政要(じょうがんせいよう)』という書物をご存じでしょうか。これは、唐代(西暦618~907年)の第二代皇帝である太宗(李世民)とその臣下の問答を、呉兢(ごきょう)という人物が編纂した言行録と言われています。「貞観」とは太宗が在位した元号(西暦859~878年)で、中国の長い長い歴史の中でもっとも平和で安定した時代のひとつと言われています。「政要」は文字通り政治の要諦という意味です。つまり『貞観政要』とは、平和な世を築くためのポイントがまとめられた君主のための指南書といえるでしょう。平安時代にはすでに日本に伝来していたようで、時代が下っては、あの徳川家康も愛読したようです。
このnoteでは『貞観政要』自体の内容には詳しく触れないので、興味あるかたは中田あっちゃんのYouTube大学をご覧ください(笑)
2.「三つの鏡」の教え
今回は、この『貞観政要』の中に書かれている「三つの鏡」の教えを全3回に分けて紹介しつつ、『弟子規』との関連について解説します。なお始めにお断りですが、『貞観政要』が編纂された経緯において原文が2つ存在するため、その両方を記した上で今回は原文bを用いて解説します。
1つめの「銅の鏡」とは、現代でいう物理的な「鏡」を指し、自身の容姿を確認します。現代語訳や解説で「元気で明るく楽しい顔」や「部下がついていきたいと思う姿・表情」をチェックするとありますが、それは浅すぎる意訳といえるでしょう。浅い解釈をすると容易な考え方しかできなくなり、経典の本来の目的である精神性や人間力の向上は望めません。
ポイントは"正衣冠”という部分です。直訳すると衣服と冠を正しい位置に整えるということです。昔は、衣服の作りや装飾を見ればその人の地位が分かりました。布や刺繍、宝石の数や玉の大きさなど、位が高いほど豪華になります。衣服よりさらに分かりやすいのは冠です。それは朝廷における政治への役割や責任を表現します。政官以外の文官(文学者)や武官(軍人)も、それぞれ位によって格好が違います。仕事を始める際は、真っ直ぐに正しい位置で冠を被ることで、職務への責任感を示します。衣服と冠は、自己に対する戒めや国民による信任を表しているのです。
現代社会に置き換えてみると、もちろん仕事や立場を反映した制服や作業着などはありますが、地位や責任を表す目印や冠はほとんど見かけなくなりました。議員バッジや社章くらいでしょうか。ユニクロを着たらみな同じです(笑)。見た目で違いを持たせることは、現代社会では不平等と認知されたり、差別として炎上するかもしれません。しかし、つい数百年前までは前回も書いた通り「平等は違いから生まれる」という概念が当たり前でした。役割や責任を強調することが、一人ひとりのやるべき事、つまり本分をさらに明確にしていったのです。
3.「銅の鏡」と共通する『弟子規』
次に「銅の鏡」と『弟子規』との関連を見ていきましょう。以下のような文があります。
『弟子規』は、身近な実践を通じて人間性を磨いてゆく児童書です。幼い時から正しく衣服を着たり帽子や冠をかぶる習慣をつけることで、将来に向けた責任感を養います。細かくモノを定位置に戻す習慣をつけさせたり、長く大切に扱うよう実践させたりするのも、同じ目的からです。外見を着飾ることではなく、あくまでも役割で区別する/されるために相応しい格好をすることを奨励し、徳のある君子になることを目指しています。
次回は「歴史の鏡」について紹介します。お楽しみに!
車文宜・手計仁志