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シン・映画日記『シャドウプレイ【完全版】』

新宿のK's cinemaでロウ・イエ監督作品『シャドウプレイ【完全版】』を見てきた。

『パープル・バタフライ』、『天安門、恋人たち』、『スプリング・フィーバー』、『パリ、ただよう花』、『二重生活』、『ブラインド・マッサージ』のロウ・イエ監督の2018年の作品で、2019年に東京フィルメックスのオープニングで上映されるが、今回は大幅にカットされた部分を加えた『シャドウプレイ【完全版】』で、ある意味今年の公開作品、新作映画と言って差し障りない。

これまで小規模ながらもエロスと人間の闇、本質を描いてきたロウ・イエ監督が、2010年に広州市で起きた不動産絡みの汚職事件と騒乱をベースに中国、台湾、香港を駆け巡る壮大なノワール映画を作り上げた!
2013年4月に広州市の開発都市地区で起こった騒乱の最中に不動産会社のタン氏がビルから転落する事故が発生し、刑事のヤンは状況から殺人事件とし、タンの妻・リンや不動産会社の関係者ジャンを調べるが、スキャンダルや関係者の死亡事故に巻きこまれる。

1989年から2013年の中国・広東省広州市を中心に、香港、台湾で巻き起こる不動産会社にまつわる開発事業の栄華の裏でのまさしく影の部分を映す。
刑事ヤンの事件捜査と殺されたタンと妻・リン、娘のヌア、タンの友人で台湾で貿易会社を営んだ後にタンと共に紫金不動産という不動産会社を立ち上げるジャン、そしてジャンの愛人アユン。この5人と刑事ヤンの過去のエピソードをテンポ良く見せ、愛憎劇を展開。

はじめは刑事で途中から探偵になるヤンの視点だけなら刑事・探偵のサスペンスになるが、タンやジャンなど明らかに裏がありそう、というかどちらかというと悪い奴らの視点でのシーンも割りとあり、不倫、DV、乱痴気騒ぎなど不動産で得た金からのデカダンスをたっぷりと見せる。
またそれは中国・広東省広州の近代化都市化、繁栄、衰退を描いてもいる。

中国というか香港・台湾も含めた中華電影圏でノワールというとジョニー・トー、もしくはちょっと前のジョン・ウーや『インファナル・アフェア』シリーズが思い浮かぶが、
マフィアの暗躍ではなくて、
不動産事業で成り上がった奴らとその周りにいるオンナたちのちょっとヤバい話に
90年代から2010年代前半の変わりゆく広州のうつろいを描き、
上記で挙げた香港・中国のノワール作品よりもスケールが大きく見える。

本作はジョニー・トーやジョン・ウーの男臭いノワールというより、ファム・ファタールが暗躍するロマン・ポランスキーやブライアン・デ・パルマのノワール作品に口当たりが近い。
それも複数もファム・ファタールがいるから、そりゃ面白いさ。
野郎が女に惹かれてすぐ事を始める展開は『パリ、ただよう花』や『ブラインド・マッサージ』でもお馴染みのロウ・イエならではの描写だが、
モニターに映った映像からの犯人捜査・究明もそうだし、エロスの描写はよく考えたらミケランジェロ・アントニオーニ的とも言えよう。

これまでのロウ・イエ監督作品よりも女性たちの服やウィッグがファッショナブルで、モダンさがより際立つ。

これまでこじんまりとしながらもエロスと重い人間模様を見せたロウ・イエ監督の作品が、
時代のうつろいと随所にアクションを入れたことで見応えタップリなリアル『チャイナタウン』を見せた!


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