シン・映画日記『ドリーム・ホース』
ヒューマントラストシネマ有楽町にてトニ・コレット主演のイギリス映画『ドリーム・ホース』を見てきた。
ズバリ、イギリス・ウェールズの片田舎の馬主版の『フル・モンティ』で、スーパーのレジ係兼バーテンダーの主婦による敗者復活ムービーで、
競馬の知識が乏しい筆者でもかなりのめり込め、感動出来た!!
主人公ジャネットはウェールズの小さな村のスーパーのレジ係兼パブのバーテンダー兼主婦。歳が離れた旦那はかつては農場・牧畜を営むも今はほぼ無職で、年老いた両親の介護もし辟易する日々を送る。そんなある日、パブで妙に羽振りがいい男性を見かけ、そこから競馬の競走馬の共同馬主のことを知る。そこでジャネットは村の人々と一緒に競走馬の共同馬主になり、子馬を飼育することに。
競走馬飼育とか、一見、素人がいきなり手を出すには無茶そうな話ではあるが、
ジャネットは小さい頃に父親と一緒にドッグレースの犬のブリーダーをやってた経験もあるし、無気力な旦那も元々は農夫だから動物の飼育はお手のもの。
競馬界隈に関しては今回のきっかけになったハワードに色々任せ、
共同馬主としてパブの常連や村人たちからカンパを募り、共同馬主に対する様々なミーティングも行い、
子馬の購入→飼育→庁舎・ジョッキーの手配→レースデビューと順序立てたストーリー展開が非常に滑らか。
明日の希望もなかった人々がそれまでとは違ったジャンル・物事に挑戦し、夢を見て、ステップアップしていくこの流れは、夢・挑戦ごとのジャンルは違うがイギリス映画『フル・モンティ』や『キンキー・ブーツ』と同系統で、その共同馬主版と言えよう。
また、競馬の競走馬が関わる映画といえばトビー・マグワイア主演の『シー・ビスケット』があり、
ジョッキー、馬主、調教師といったシー・ビスケットを取り巻く男たちの話で、比較的ジョッキー目線だった。
これに対して『ドリーム・ホース』も馬主、調教師、ジョッキーが出てくるが、完全に馬主目線のストーリーになるのでかなり違う。
そう言えば日本映画でも
「北の国から」シリーズの製作者らが作った斉藤由貴主演の『優駿』や
根岸吉太郎監督が手掛けた北海道のばんえい競馬を描いた『雪に願うこと』など競走馬を取り巻く映画はいくつかあるが、そのどれとも違う。
その最大の要因は
ウェールズの片田舎の今一つ上手く行かない人たちの生活空間、空気感を描いたことにある。
主人公ジャネットの自宅や両親宅の様子、
ジャネットが働くスーパーやパブの雰囲気、
精肉店や場外馬券売り場やメインの通りの様子など
羽振りがいい様子はまるでなく、どこかどんよりとしている。
敗者復活ムービーの系譜として『フル・モンティ』や『キンキー・ブーツ』を挙げたが、
盛り上がる以前・途中の村の様子はその2作よりも
ケン・ローチ監督作品やフィンランドのアキ・カウリスマキ監督作品に近い。
ケン・ローチだったら『この自由な世界で』や『エリックを探せ』、『わたしは、ダニエル・ブレイク』、
アキ・カウリスマキなら『マッチ工場の少女』や『街のあかり』など。
敗者復活映画としての村全体の盛り上がりはカナダ映画『大いなる休暇』などにも通じる。
共同馬主の敗者復活映画として順序立てた展開、ストーリーの波、クライマックスへの流れなど王道の展開ではあるが、それが心地良く、
レースシーンのBGMの煽り方などベタではあるが非常に上手い。
トニ・コレットが演じるくすんだ四十路の女性ジャネットがみるみる輝く様子や
妻に咎められながらもジャネットを支えるハワード、
それまで無気力だった旦那がかつてを思い出しつつ時には責任感がある男になったり、
飲んだくれのパブの冴えない老人が
共同馬主として競馬場の馬主ルームで貴族の馬主に臆することなく話す様子など、
迫力あるレースシーンや成功体験以外にも素晴らしいシーンや演出がいっぱいある。
個人的にあまり興味が薄かった題材の映画だったが、
見たら驚くほど引き込まれる
超大穴のイギリス・ウェールズの映画だった!!