暗闇のエンターテイナー ⑨
残り10
人の繊細な心に触れて、
心が動かない人間は
ただの動物だ。
かすみが話したことは
無垢な性の受け答えと
「よくわからない 」
「ごめんなさい」
だった。
会話は殆ど成立しないものの、
波長が他の女性と明らかに違っていた。
からかいでもない。
性的な欲求でもない。
やや低めのテンション。
異質過ぎた。
大抵は
「本気にすんなよバーカ 」
「もしもし」「ツーツー 」
「どこに住んでるの?」「ツーツー」
女性の買い手市場、暇つぶし。
かすみは話した。
東京から数百キロ離れた場所から。
ネコが言葉を話せるようになって
人間を調べるかのように。
ある意味興味といえばそうだが、
甘くてゆっくりした話し方で
ポツリ、ポツリ
カードには時間制限があるから
ゆっくり聞けない代わりに
電話番号を伝えてみた。
彼女がなにを考え、何を欲しているか
知りたかったからだ。
野性の僕は人間になり、
その日を終えた。
切り終えたばかりの携帯電話を胸に
思いを巡らせながら
そのまま眠ってしまった。
会えなくても、繋がってみたい。
初めての経験。
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