ハッカーを読め (1/7)『すべてがFになる』
森博嗣『すべてがFになる』
ベストセラー作家である作者について今更解説する必要はないだろう。この作品は森氏のデビュー作だが、まず冒頭の引用文で驚かされる。なんと、ぼくもよく知っている青木淳さんの「オブジェクト指向システム分析設計入門」からの一節が引用されているではないか。これを引用する作者も偉いが、引用される文章を書く青木さんもすごい、というかうらやましい。
縦書きの文芸書の中に堂々と「UNIX」という文字が並ぶのを見ることはほとんどないので、そういう意味で希有な本だと思う。今となっては、Linux や BSD には商標上の理由で UNIX と呼べないので、これからも現れないかもしれない。
物語の中で、UNIX は極めて重要な役割を担っている。正確には、物語中で使われているのは女性天才科学者真賀田四季が UNIX をベースにカーネルレベルから根本的に改造した「レッドマジック」というシステムである。レッドマジックは開発環境にすぐれ、完璧なセキュリティを実現するシステムだ。しかし、その完璧なはずのシステムにトロイの木馬が仕掛けられ、開発した当の真賀田博士も殺人事件に巻き込まれてしまう。
本書から始まる S&M シリーズには、この後真賀田四季はほとんど出て来ないが、UNIX は随所に登場する。主人公の犀川は大学のシステムに telnet で接続して、コマンド行でメールを読み書きしたりするので、最近の読者にはわからないかもしれない。物語の最後である人物はこう語る「そもそも生きていることの方が異常で、機械が故障しているような状態、つまり生命とはバグなのだ」。ぼくらはバグだったのかぁ。
ミステリィ
森博嗣さんは、自らをミステリィ作家と標榜するように「ミステリー」ではなく「ミステリィ」「ロビィ」という表記法を好む。でも「コーヒィ」や「タクシィ」とは書かない。想像するに、最後が y で終わる単語は「ィ」にしてるんじゃないかと思う。違うかな。なんでかって?だって、ほら「ィ」を時計回りに¾πくらい回転すると「y」になるじゃないのw
青木さん
青木さんと初めてあったのはいつだったかな。とにかく、まだ FXIS に勤められているころで、横浜でたしか YDOC というオブジェクト指向プログラミングの勉強会みたいなイベントをやっていて、そこだったんじゃないだろうか。その後、1991年に SRA に移られて驚いたけど、その頃僕はカリフォルニアで 4.4BSD の開発やってて、戻ってきたら青木さんはボルダーの研究所に行っちゃって、帰ってきた頃には僕は IIJ に移ってたので、ずっとすれ違いだった。
Fとオブジェクト指向システム分析設計入門に関するずっと詳しい解説