宇宙への参入ハードルを下げ、東北の新産業を作る。東北大学発 宇宙ベンチャーが目指す世界
民間企業が宇宙で実験できるプラットフォームを開発
ーElevationSpaceの事業内容を教えてください。
我々は東北大学発の宇宙スタートアップです。簡単に言えば人工衛星を作っている会社です。宇宙に行って地球に帰ってくる人工衛星を作ろうとしています。
一般的な人工衛星は一度宇宙に行き、運用が終わると高度を下げて大気圏で燃え尽きるよう作るものですが、我々は「回収カプセル」という部分が地球に帰還するというものを開発しようとしています。
回収カプセルの中にお客様からお預かりした「ペイロード」(いわゆる荷物)を搭載し、それが宇宙空間の地球低軌道上を周回している間、初号機では半年の予定ですが、衛星の中で実験や実証を行い、そしてそれが地球に帰ってくる。そういうことをやろうとしています。
ですので、人工衛星自体は小さな宇宙ステーションのようなものになります。しかも、回収カプセルは海上で回収し、中身をお客様に返すことができる。実際に宇宙で実験した成果物を、お客様の手元まで戻すことができるところに新しさのある事業です。「宇宙環境利用・回収プラットフォーム」と呼んでいます。
ー宇宙環境利用・回収プラットフォームは、どのように活用されるのでしょうか。
我々の作る人工衛星「ELS-R」は、小さな宇宙ステーションであるというお話をしました。しかし、宇宙ステーション(以下、ISS)自体は、2030年に退役することが決まっています。
つまり、2030年のISS退役以降、「宇宙で実験・実証がしたい」と思ったときに、できる場所がなくなってしまうことがグローバルで課題となっており、その代替手段が各国の民間企業主導で検討されています。、我々の作る「ELS-R」もそのポストISSの課題解決になると考えております。
一般的に「ISSでの実験」と聞くと、創薬の研究など、ライフサイエンス系の実験をするイメージを持つ方が多いと思いますが、実は今、宇宙に参入している分野は非常に多岐にわたります。
これから月面開発や民間人宇宙旅行が活発になってくると、生活に必要な様々なもの、食べ物や衣類、パソコンなども、全て宇宙環境でも使える仕様にしていかなければいけません。そのために、「宇宙環境におけるの研究開発」がますます盛んになるはずです。
そうなったときに、我々の「ELS-R」は、宇宙で使いたい部品や機器、材料などが宇宙環境に耐えられるか・正常に動作するかなどを実証するのに活用できます。
ー東北大学発のスタートアップ企業ですが、東北大学とはどのように連携をとられていますか?
当社は、東北大学工学部の桒原准教授と、当時修士1年生だった代表の小林が共同創業する形で始まった会社です。桒原研究室の、これまで15機以上小型人工衛星を作ってきたノウハウを基に人工衛星を作ろうとしています。
東北大学はもともと宇宙に強い大学ではありますが、2024年1月には宇宙ビジネスフロンティア研究センターというものを学内に設置しました。ここは、超小型人工衛星の共同開発などを手掛ける宇宙ビジネスの研究開発拠点であるとともに、宇宙ビジネスへ新規参入を目指す企業とスタートアップをつなぐオープンイノベーション拠点の役割も担うということです。こうしたセンターが設置された背景には、大学がハブとなって宇宙関連の研究に益々力を入れていくという姿勢が表れていると感じています。まさに今、東北に限らず、国を挙げて宇宙に参入していく企業を増やそうと様々な政策・制度が立ち上がっていますので、そうした情勢も踏まえ、東北大学との連携を深めていきたいです。
東北に新産業を作るため、宇宙への参入ハードルを下げたい
ーElevationSpaceの強み、他社との差別化について教えてください。
宇宙ベンチャーは国内に100社ほどあり、もはや珍しい存在ではなくなってきています。ですが「宇宙ベンチャー」と一括りで言っても、やっていることは多岐に渡っています。ロケットや衛星画像関連の会社もありますし、地上局といって地上と人工衛星が通信するためのインフラを提供しているような会社もありますし。月面探査ロボットやローバー(天体の表面を移動できる探査車)を作る会社もありますし、本当に様々なんですね。
そんな多種多様な宇宙ベンチャーが生まれている中でも、「宇宙に行って帰ってくる人工衛星」、しかも「宇宙で実験して、実験したものを持ち帰ってこられる」という技術に挑戦しようとしているのは、国内で我々だけになります。
東北で、あるいは日本国内でこれから宇宙市場に参入したい会社、例えば「自分たちの製品をロケットで使ってもらいたい」「人工衛星に使えるんじゃないかな」という希望はあるものの、宇宙で動いたという実績がないために本格参入を果たせていない会社にサービスを提供することで、民間企業の宇宙参入を促進していきたいと思っています。
ー宇宙ビジネスへの参入は、民間の企業にとって敷居が高いイメージがあります。
新規事業、それも宇宙領域をやっていくとなると、資金力のある大企業しかできないというイメージがありますが、これから先は、もはや大企業だけが宇宙領域をやっていく時代ではなく、小さな企業でも宇宙領域を当たり前にやるような時代になると思います。
そうした際に、「その機器・その材料には、宇宙ニーズがあるのか」というようなコンサルティングのところからお手伝いをできる点は、衛星メーカーでもある当社の強みだと思っています。
ー2023年に東京で「宇宙ビジネス参入セミナー」を行なったとのことですが、反響はいかがでしたか?
昨年7月に開催したセミナーは、初めて自社で主催したものでしたので、「50人集まれば御の字」と思って始めたのですが、結果200名を超える申し込みをいただき大変驚きました。宇宙に対する興味、宇宙ビジネス参入に対してアンテナの高い会社がそれぐらい多いということだと思います。
「普段ニュースで見るぐらいで、宇宙市場に詳しくないから勉強したい」という方もいらっしゃいましたし、「宇宙参入を検討している異業種企業と出会えたり繋がれたという点でメリットがあった」という感想をお寄せいただいたりもしました。
ー参加者はどういった業種、業態の方が多かったのでしょうか。
社内で新規事業や宇宙事業を担当している会社員の方が55%、それ以外の会社員や経営者、会社役員の方がもう半分弱ぐらいでした。業種としては39%が製造業で最も多く、次が大学や研究機関、コンサルティング会社、官公庁・自治体関係の方も多くいらっしゃいました。それ以外にも金融保険、情報通信、商社、運輸、医療、福祉、建設、不動産など、多岐に渡る業種の方にお集まりいただきました。
ー色々な業種の方がいらっしゃった中で、ElevationSpaceが今後繋がっていきたい企業のイメージを、今回のマッチングイベントに期待することと合わせてお聞かせください。
製造業、特に自動車系の製品を扱う地元の製造業で、宇宙への参入に少しでも興味があったり、やらなければいけないという課題感がある企業と繋がっていきたいと思っています。必ずしもそれは我々のお客様という関係だけではなく、逆に我々も一人工衛星メーカーですので、材料や部品を作っていただくという協業の可能性もあると思っています。
今、国内で流通している宇宙での実績がある部品は選択肢が少なく、宇宙用の部品材料が非常に高額になっているのが実状です。そこで、宇宙実績はまだないけれど十分代替できる部品や材料を探すということも行っています。そういった場面で部品などを供給いただけるような企業とも繋がりたいと思っています。
ー東京で宇宙ビジネス参入セミナーを開催され、今回はこのテクスタ宮城マッチングイベントの前にElevationSpace単独でイベントを開催されると伺いました。
我々は東北に本社を置いて、東北発の宇宙ベンチャーとしてやっていくことに自負を持っています。かつ、東北に新産業を作る。宮城県で新産業を作って、それによって東北経済を活性化させるというところを目指しています。東北でも、宇宙市場に参入する企業が増えて欲しい。そんな想いで、東京でやったセミナーから、更に最新の情勢に合わせたものを、3月15日に宮城で開催予定です。
「東京の回はタイミングが合わず行けなかった」「当時は宇宙をウォッチしてなかったけれど、今は気になっている」という方に是非ご参加いただきたいですね。
ーElevationSpaceの人工衛星打ち上げについて、近況をお伺いできますか?
我々の人工衛星は大きく3つの部位に分かれております。地球に帰ってくる「回収カプセル」、衛星に必要な機能が入っている衛星本体の四角い部分の「バス部」、そして地球に帰ってくるために必要な大きな推力を持ったエンジン機能である「スラスター」の3つです。
回収カプセルの部分に関しては、年明け、海に着水する際に開くパラシュートを展開させる試験に成功しました。今後はさらに高いところから落とした場合でも構造に問題がないかなどを確認する試験を行う予定です。
スラスターに関しては、軌道を離脱して地球に帰れるような、大きな推力を持ちながら小型の衛星に積める「ハイブリッドスラスター」を自社で開発しています。これについても、目標とする推力を実現するだけの長時間の燃焼に成功したというニュースを昨年夏にリリースしました。
バス部の製造ノウハウは、東北大学の桒原研究室で持っている知見が大きいウエイトを占めています。ここに関しては元からかなり高い完成度の技術があるので、大気圏再突入・回収という新しい挑戦に向けて機体も調整を加えているところです。
宇宙ビジネスは資金も時間もかかる。長い目で応援してほしい
ー宮丸さんは楽天・AEONなど様々な民間企業で働いてこられました。これまでの経験はElevationSpaceの事業のどういったところに活かされていますか?
もともと私は防衛大学校の理工学専攻 航空宇宙工学科卒業で、宇宙機や人工衛星の姿勢制御を専門に勉強していました。その後理由あって民間企業に就職したものの、宇宙に対する想いは忘れられずにいたんです。しかし近年、民間企業による宇宙ビジネスが当たり前となり、様々な宇宙ベンチャーが出てくる中、企業で「宇宙」に関わることが非現実的ではなくなってきました。そういったタイミングでCEO小林と出会い、ElevationSpaceにジョインしました。
これまでの宇宙開発は官主導で、重工系の大手企業が技術面を長らく牽引していました。「この部品を作るにはこれぐらいのお金と時間が掛かる」という固定概念を取り払い、民間企業での経験も活かし、ベンチャー的な手法で「もっとコストを下げられないか」「もっとスピード感を持ってできないか」と今まさに挑戦しているところです。
一つひとつの部品を取っても「宇宙で使えるもの」となるとコストが高くなる。そういった宇宙開発のコストの高さが宇宙に参入するハードルの高さに繋がっており、私としても非常に問題だと感じています。そのため「これまでの当たり前を当たり前と思わないでモノ作りをする」ことを一番重視していますね。
ースタートアップならではの困りごとを教えてください。
やはり資金面は大きな課題です。特に、我々はディープテックなので、ものが出来上がるまでに非常に多額の資金が必要ですし、尚且つ期間もかかります。「1ヶ月後にローンチ、3ヶ月後には黒字化」という時間感覚ではないことは、ご理解をいただきたいなと思います。
とはいえ、その点に関しては宇宙ビジネスも稀有なものではなくなってきていますので、ある程度社会的な認知は広がってきていると思います。「1年かかる、3年かかる」ということに対する理解というのはかなり広がってきていると思うので、我々は着実に研究開発とサービス化を進めていきます。
また、宇宙戦略基金という「国費を宇宙ベンチャーにどのように投下していくか」という枠組みが昨年から今年にかけてかなりドラスティックに進みました。あとは我々がそうした資金を投下するに値する事業会社であるということをアピールしていく必要があると思っています。
協業可能性を感じてくれた企業は、ぜひ声をかけてほしい
ースタートアップ企業側からテクスタ宮城に望むものはなんですか?
昨年からテクスタ宮城という枠組みから始まり、スタートアップ支援に関して、県を挙げて産官学金でやっていただいていることは非常に大きいと思うので、我々もこの支援体制をきちんと活かして事業を進めていかなければと思っています。
我々スタートアップの取り組みが地元の企業や産業に対して、良いインパクトを与えられるようになりたいと思っています。我々の思いもつかないところにニーズがあったりするものだと思いますので、ぜひ小さな取り組みからでも、「こんなことって協業の可能性はあるのかな」というお声がけをいただけたらと思います。
また、我々は昨年、デンソーから出向受け入れという形で人事交流を始めました。それに合わせて、「Elevate Space Career Program」という形でプログラム化をして、あらゆる企業と積極的に人事交流していきたいと考えています。スタートアップならではのスピード感など、大企業ではできないような経験をスタートアップで積むことができ、しかも転職という形ではなくて、いずれ戻ってくるという前提で研修出向であれば、企業にとって人材育成という面で大きなメリットがあると思います。
このような形で、大企業とスタートアップが人事交流することは全く新しい話ではなくて、5〜6年前からやられていることではあるのですが、そういった人的な交流を、宮城県の中でも今後活発にできたらと思っております。
テクスタ宮城に所属する企業様の中でも、ご興味ある方はぜひご連絡ください。
3月15日開催!
「宇宙ビジネス参入セミナー」
本セミナーでは、宇宙産業150兆円時代を前に知っておくべき最新業界動向、国内外の宇宙開発最新トレンドを解説します。
「宇宙ビジネス参入セミナー in 宮城」の詳細・申し込みはこちら。https://elevationspace20240315.peatix.com/
■日時
2024年3月15日(金)13:00~14:30
■会場
青葉山公園 仙臺緑彩館(宮城県仙台市青葉区川内追廻無番)
https://parks-aobayama.jp/
■主催
株式会社ElevationSpace https://elevation-space.com/(テクスタ宮城 支援対象スタートアップ)
■後援
宮城県、(一社)東北経済連合会
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■株式会社ElevationSpace
本社:〒980-0845
宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉468-1
東北大学マテリアル・イノベーション・センター401号室
青葉山ガレージ
https://elevation-space.com/