オーディオブック紹介 「境界線」
おはようございます。
2024年12月6日 金曜日です。
中山七里『境界線』
東日本大震災の深い傷跡を、ミステリーという装いを通じて鋭く描き出した作品です。
主人公・笘篠誠一郎警部の妻の謎めいた死をめぐる捜査は、単なる事件の解明を超えて、震災が人々の心に引いた目に見えない境界線を浮き彫りにします。
前作『護られなかった者たちへ』の読後感を期待して手に取った本作は、前作ほどの疾走感はないものの、その分、人間の内面により深く踏み込んだ作品となっています。
震災によって引き裂かれた人間関係、喪失感、生存者の罪悪感など、被災地の複雑な感情を繊細かつ力強く描写しています。
特に印象的なのは、被災経験の有無によって生じる目に見えない境界線、そして被災者同士の間にも存在する微妙な距離感です。
作者の筆致は、読者の息を呑むほどリアルで、塀の内と外、被災地と非被災地の境界線を見事に描き出しています。
個人情報ビジネスという現代社会の闇と、震災の記憶が交錯する本作は、単なるミステリー小説の枠を超えた社会派小説としても秀逸です。
震災から年月が経ち、風化が進む中で、人々の記憶と心の傷を鮮明に描き出す本作は、決して忘れてはいけない物語として強く心に残ります。
被災地の現実と人間の深層心理を深く掘り下げた、秀逸な社会派ミステリーと言えるでしょう。
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ひろかん