授業の『導入』について
授業における導入の役割とは?
学校の先生にとって授業を進めるにあたって、導入はとても重要です。「生徒には授業を集中して受けてほしい。」「もっと教科に興味をもってほしい。」という願いがあります。では、そもそも授業の導入では何をしたらよいのでしょうか?
以前、若手の先生の授業を見る機会がありました。今話題の野球の話でした。体育の授業ではありません。生徒も楽しそうに先生と話をしていました。(ひとしきり野球の話題で盛り上がった後、)
「はーい。じゃぁ今日は教科書の何ページを開いてください。」
生徒は、静かに授業に入っていきました。
…ここで、話は終わりません。授業の導入とは、授業前の余談なのでしょうか?…なんとなく、楽しい話をしたら、いいのでしょうか?…そうではありません。これでは、ただ盛り上がっただけで、教科に対する興味・関心を引き出したとは言いづらいです。
では、どんなことを意識して導入をやればいいのか、話をしていきたいと思います。
導入で大切な視点【自分事化】
授業では、先生がよく今日の授業の目標を黒板に板書します。
「○○○○を理解しよう」「~とは何だろうか?」
これを学習目標といいます。毎回の授業で必ず提示されます。先生が勝手に提示し、授業を進めるのは好ましくありません。指導が上手な先生は、生徒も同じ気持ちにさせるような指導の工夫をします。先生が生徒の代弁者として黒板に板書するといったところでしょうか。 提示した学習目標が、あたかも生徒が気付いた(考えた)目標になっていることが望ましいです。言い換えれば、学習目標の自分事(じぶんごと)化です。もし、本当に自分事になっていれば、授業の8割は成功と言っても過言ではないでしょう。学習目標が自分事になっていれば、主体的に学習する態度は必ず育成されます。
では、どのように自分事化するかについて、キーワードは、【具体性】【体験的】【必要性】です。
導入で大切な視点【具体性】
学習目標に対して、より具体性のあるものから始めることが大切です。
授業は、一般的に「導入→(学習目標提示)→展開→終末(まとめ)」という流れがあります。中学校では導入8分、展開32分、終末(片付け含む)10分、とおおよその時間配分が考えられます。
導入は、今日は何を学ぶか、どんなことをするのかの方向性を定め、展開は学習目標に向けて、調べたり、話し合ったり、製作したりと学習活動が進められます。そして、終末は主に学習のまとめや振り返りをします。
50分間の授業の中で、学習内容の具体性をみると、導入から終末に向かって、学習内容の抽象度が高まり、終末では抽象性の高い内容の理解が求められます。反対に、導入では、より具体的で生徒が取り組みやすく、理解しやすい内容でなければならないということになるわけです。
例えば、A材料と加工の技術において、構造の授業の導入を考えてみましょう。学習目標は、「構造を丈夫にする技術のしくみとは何か」と設定します。展開では、丈夫な構造を構成するための部材の組立て方や丈夫な構造(トラス構造や面構造など)を学習するとしましょう。導入はどのようなことが考えられるでしょうか?
導入で大切にする視点は「具体性」です。生徒にとって、より具体的なものを取り扱うことをお勧めします。生徒にとって具体的なものは、身近なものであることが多いでしょう。「牛乳パックを輪切りにしてこの四角形を丈夫にするにはどうしたらよいか?」「A5用紙を配り、紙で丈夫な橋の模型を作るとしたら、丈夫な形はどうしたらいい?」「1辺が4㎝の四角形と三角形を書いてみて。友達と形を比べてみて。形は一緒かなぁ?」など
どれも構造を身近に感じる小ネタに過ぎませんが、その導入が学習目標に生徒を近づけるためのものであれば、導入としての役割を果たしています。
導入で大切な視点【体験的】
学習目標に関する体験的な活動を取り入れることが大切です。中学校学習指導要領解説技術・家庭編には、技術分野の目標に以下のように、掲載されています。
体験的というキーワードは、この教科だけでなく、何か新しいことを学ぶときの手法として、とても優秀な指導法だと考えます。先生の話を聞いたり、黒板の内容をノートに写したりして、知識を覚えるという手法だけでなく、より多くの体験的な活動を取り入れながら、学習目標に生徒を近づけてほしいと思います。
例えば、Cエネルギー変換の技術で、エネルギーの変換効率を理解させることをねらいとして、学習目標は、「エネルギーを効率よく利用するための技術のしくみとは何か。」と設定します。下図に示すものを授業の導入で製作してから、学習目標に入ってみてはどうでしょうか?
黄色の歯車の付いた2つのモータをリード線でつなぐ。一方はモータの役割を、もう一方は発電機の役割をすることになります。発電機側を10回転させると、反対側のモータは7回転ぐらいしか回らないとします。これは「エネルギー変換」「発電」「変換効率」「損失」というさまざまな概念を体験的に学ぶ教材だと考えることができます。
体験的に学ぶことは、主体性を育むことになり、記憶に残りやすいことが考えられます。ぜひ、参考にしてください。
*ちなみに今回使用した教材については、ココから↓↓↓↓
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導入で大切な視点【必要性】
導入で大切な視点の最後は、必要性です。生徒にとっての学習目標の必要性を高めることが大切です。
なぜ、この学習目標を達成しなくてはいけないのか?それは、なぜ勉強しなくてはいけないのかにつながるところだと考えます。学習目標を達成しなくてはならない(使命感)、達成したい(願望)という状況をつくるための時間が導入の時間です。そのために、私は学習目標ではなく、疑問形である学習課題の方が適切だと考えています。「なぜ~だろうか?」「~とは何か?」と掲げることで、自然と生徒の中に、使命感が生まれると感じています。
「製作に必要な図の役割を知り、かき表すことができるだろうか」という学習課題の前に、例えば、全員に簡単な図を描かせるとします。簡単な形状の本棚でいいでしょう。同じ指示のもと、図を描くわけですから、同じ図ができるはずです。しかし、みんなバラバラの図を描くわけです。ここで大切なことは、正確な製図のルールの把握ではなく、それよりも設計製図者と製作者が同じルールで図を描いたり、読み取ったりしないと、正確な情報を伝えることができず、正確なモノづくりができないということです。多くの中学校の授業の場合、設計製図者と製作者は同じ生徒であることが多いので、むしろ一度、導入段階で設計製図者と製作者が違うものづくりを体験されることも大切なのかもしれません。(*これも「体験的」の要素が入っています。)
導入のまとめ
導入で大切な視点は、【自分事化】【具体性】【体験的】【必要性】の四つであると考えます。この四つのうち一つでも意識して、導入を考えれば、授業が改善され、必ず良くなると信じています。模擬授業を考えている大学生の皆さん、校内研修等で研究授業をすることになった先生方、学習課題を設定したら、次は、導入段階をこの四つの視点で考えてみてください。
…私からは以上です。
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