エオルゼアの人々
「FINAL FANTASY14」というゲームをご存じだろうか?
日本を代表する有名ゲームタイトルのナンバリング作の中でも、現在、世界一売れているMMO-RPGである。
今回はそのゲーム内とそのプレイヤー達のあれこれをショートストーリーとして書き上げている。
知らない人は「こんな世界があるのか…」と。
プレイヤーである光の戦士(ヒカセン)は「あぁ…あるあるw」と。
それぞれ楽しんでくれたら幸いです。
先ずは第一段。
「知らぬが花」
エターナルバンド………!!
それはMMO-RPGゲームの中で、永遠の絆を誓うシステム………
多くの人はソレを、結婚式のように扱い、慈しみ、そして消えていった………
時に令和の夜。二人のゲームプレイヤーが、顔も声も素性すら知らぬまま、エターナルバンドを行っていた………
「マカロンちゃん………ドレス、似合ってるよ………」
「ジャンヌちゃんも、タキシード、カッコいい…………」
聖堂にドレスアップした二人の女の子が向かい合っていた。羽のような白い角が耳の代わりに付いた儚げで可愛らしい少女が、淡い水色のウエディングドレスを身に纏い、猫耳が生えツリ目気味のしかしながら可愛らしさを失わない少女がタキシードをワインレッドに染めて着ていた。
「二人だけのエタバン………だね………」
「イヤ………だった?」
「ううん、ロマンチックで………嬉しい………」
言いながら、白くフワフワした妖精に促されながら、指輪を交換する。会場の美しさと二人の少女の姿はとても似合っていた。間には誰も入らせない、二人だけの約束───そう言葉が聞こえそうですらあった。お互いの事はゲーム内の事しか知らない。プライベートなど、何も知らなくてもいい…ただ、君さえ居ればそれで───
「ジャンヌちゃん…今度、逢えないかな………?」
そんな日々は突然終わりを迎えた。
夏。久し振りにコミケが再開されるという事で、マカロンも参戦するのだという。かくいうジャンヌも参戦すると前にこぼしていたのだ。それでなのだろう。マカロンが積極的になったのは…
「イヤ………?」
「そんな事ないよ。突然でビックリしただけ」
「それじゃあ!」
「………うん。いいよ」
かくて二人は、初めてのオフ会を、二人だけのオフ会を開始するのであった。
繁華街の端にある小さなお店。そこで二人は逢う事になった。この店の店員が、同じゲームのプレイヤーという気軽さが二人の不安を少しだけ軽くしてくれそうだ、とジャンヌが決めたのだ。
カランカランッと───
ドアベルを鳴らして店内に入る。幾人かの客の話声が聞こえた。店長と話している人。仲間と話している人。一人の客も二人居た。
『もう店内に居ます。ピンクのシャツに黒のボトムです』
マカロンちゃんのDMを確認して店内を見渡した。が、黒いスカートの女の子は居なかった。
端に座ろうとしたが、どうやら先客が居るとの事で、私はカウンターの真ん中辺りに座って、自分の到着と服装──上着の下にモノクロのチェック着てます───を伝えた。
店長に注文をし、背中側をもう一度見てみる。
一人で居る客が二人。向こうもこちらを見てきたが、一人は目を逸らし、もう一人はこちらを見ようともしない。
こちらを見て目を逸らした男性はとても厳つい見た目をしていたので、私も思わず目を逸らしてしまった。
ドリンクが届いた頃、トイレから一人の女性が出て来た。薄い赤のパーカーに黒いチェックのスカートを履いていた!
(まさかこの子が………でも、少し色味違うのは………)
私が逡巡していると、カウンターの端に座り、店長と話し始めたので更に悩む事になった。
(一人で来た訳じゃ………ない…?)
「コミケはどうでした?」
「メチャクチャ楽しかったです!ネットだけの開催とかもあったけど、やっぱりリアルが一番ですよねぇ~」
私の胸がズキンと痛んだ。マカロンさんも言っていたのだ。やっぱりリアルでも知り合いたい、と。
「知り合いにもいっぱい会えたし!これから、大事な人とも会うんです!」
「恋人?」
「って言っていいのかな?まだ正確には違うのかも…でも………」
「でも?」
「今日、ハッキリするかな」
彼女はそう言ってはにかんだ…
間違いない、彼女だ。彼女こそマカロンさんで間違いないのだ。
私は少しだけ目頭を熱くした。思っていた通り、可憐で元気で愛おしい姿。ゲームのキャラと変わらぬイメージの彼女がここに居るのだ。その彼女と、リアルでも絆を誓うのだ…!
私は彼女に秘密で買ったネックレスの箱をポケットの中で握りしめた。
───と。
決意する私の目の前で、あの厳つい一人客が彼女に声を掛けてきた。
「ねぇ?君、待ち合わせしてるの?」
なんて大胆なナンパだろう!彼女は私と待ち合わせしているのだ。私の前で声を掛けるなんて、許される訳がない!
「え…?はい、そうですけど…」
「ひょっとして、あなたが……」
「止めて下さい。彼女、困ってるじゃないですか」
制止する私に「違うんですよ」などと言ってくる。見た目が怖いだけなのだろうか?それなら私も強気でいくしかない。こんな時は怯えたら駄目だ!
「彼女は私と待ち合わせしてるんです」
『え?』
二人、声を合わせて答えた。マカロンちゃんは心なし、いぶかしんでいるように見える。
「待ち合わせって………私、恋人を待ってるんですけど………」
「私です」
「は?」
「私がジャンヌなんです。マカロンちゃん」
『マカロンちゃん!?』
また二人、声を揃えた。が、何かがおかしい………なんだ、この違和感は………彼女は、マカロンちゃんは可愛い顔が曇りまくっているし、厳つい一人客は一瞬だけ乙女のような顔をして絶望の顔をしたように見えた………見え…………あれ?
「マカロンって誰ですか?アタシのコスネーム、レオンだけど。オジサン、誰?」
「コスネ………レオ………え?」
「……………………僕です」
『え?』
今度は私と彼女の声が揃う。聞きたくなかった答えが聞こえた気がした………
「僕が…………マ、マカロ、ン………です…………」
気がしたのではなかった。聞きたくなかった。ホントもう、それだけは聞きたくなかった…………
「え…………?ピンクのシャツ……」
確かにピンクのシャツだった。遠目に見ると白に見える程の。
「黒のボトム…………」
黒のズボンだ。間違いない。間違いなく黒のズボン。ズボンはボトム。そう呼ぶ事は知識の上では知っていた。
「ジャンヌちゃ……さん…下がチェックっていうから………」
彼女は間違いなくチェックのスカートだ。これは私が間違いなく悪い。書き方が悪い。
「えっと………私、席変わりましょうか………?」
彼女は気を利かせてくれた。今だけは要らぬ気の使い方だった。離れていく彼女の姿を二人、目で追った。追ってしまった。違う。逸らしたのだ。二人して………
そこに新しく来た客がスマホを見ながら彼女の元に恐る恐る向かう。聞こえてきた会話から察するに、向こうもゲーム内で知り合い、会ったら正式に付き合うと約束を交わしていたようだ。幸せそうに笑う彼女の笑顔はとても眩しかった。眩しかったのだ───
『えっと………』
二人、現実に目を向ける事にした。冷えたコーヒーに口をつけようと手を伸ばした。カップの中に、黒く私の顔が写る。30半ばのオッサンの姿が。
「初めまして……………マカロンです………」
「初めまして……………ジャンヌ………です………」
その日の夜。私達はゲーム内で指輪を返納し、エタバンを解消した───
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